巨大な円形の浴場には湯気が立ち込め、乳白色の湯が揺れていた。レオール、セジュム、シリウスの三人が、湯気でぼやけた湯船で互いに距離を取りながら浸かっていた。静かな湯煙の中、各々湯の温かさに癒されていたが、その静寂を破ったのは、ジェルドだった。彼は迷うことなく湯に浸かり、その顔には、エマとの甘美な体験からくる自負と熱が浮かんでいた。
ジェルドは、わざと周囲に聞こえるように、澄んだ声で静かに呟いた。
「どうやら俺は、一つ大人になってしまったようだ」
レオールは、浴槽の縁に頭を預けたまま、嘲笑を浮かべた。
「ああん? オムツでも外れたか?」
セジュムは、湯気越しにジェルドを見据え、警戒を強めた。
「ジェルド。その言葉には、どのような意味があるのですか?」
「君たちは知らないだろう」
ジェルドは、その問いかけに満足そうに目を閉じると、うっとりとした声で、詳細を包み隠さずに語り始めた。
「エマの身体は華奢で柔らかくて、身体に吸い付くようだった。彼女が耳元で熱く囁いた甘い声に、思わず理性が崩壊してしまった」
彼は、湯の中で自らの興奮を思い出すように、深く息を吐き出した。レオールは顔を上げ、セジュムは目を丸くする。
「あの甘い肌を、また味わいたい。俺の知らない強い衝動が、今も燻っている」
その言葉は、明らかに一線を越えた行為を匂わせていた。レオールとセジュムは、その告白に激しく動揺した。
「テメェ!」
レオールは湯を激しく蹴り、水しぶきを上げジェルドの前に立ち上がった。ジェルドは目の前のレオールのイチモツを見て不快そうに眉を顰める。
セジュムは、もはや冷静さを保てず、湯の表面を揺らしながらジェルドに近づいた。二人の完璧な肉体が、湯気の中から迫りくる。
「詳しく聞かせてもらいます、ジェルド。エマの様子は、どうでした?」
セジュムの問いに、ジェルドは瞳を輝かせた。彼は嘘のない事実を、最も官能的に聞こえる口ぶりで連ねた。
「エマの頬は、朱色に赤く染まっていた。そして、抱擁の最中、彼女の身体はまるで炎のように熱くなっていた。彼女は、俺の独占欲に、全身で応えてくれたのだ」
レオールは、ジェルドの言葉を聞いて一通り想像を張り巡らせるとザブンと音を立て湯の中へと腰を降ろした。
「マジだ……」
もはや言葉も出ない。セジュムは、顔から熱が引いたような表情で今にも湯から飛び出しそうになっていた。
「確かめてきます。エマに直接――」
セジュムが立ち上がりかけたその時、倦怠めいた顔で見守っていたシリウスが堪らず声を上げた。
「まあまあまあまあ。まずは落ち着いて」
ザブザブと湯の表面を揺らしながら近づき、シリウスは血管の浮いた筋張った腕をジェルドの肩に回した。シリウスはニヤリと笑い、誘導尋問を仕掛ける。
「ジェルド。君がそこまで深い接触をしたのなら、当然『下の毛』の色は確認しているはずだ」
「下の毛?」
ジェルドは驚いて聞き返した。
「下の毛。何度も言わせるな。黎明の女神は特殊な色をしている」
レオールとセジュムは、「そんなものは存在しない」とアイコンタクトで互いに確認し合った。一線を超えたという嘘をついているなら検討違いな色を答えるだろうし、そもそも一線を超えてないなら答えられないはずだ。
シリウスは、ジェルドの無垢な動揺を待ち構えていた。ジェルドは顔を赤くし、反論を試みた。
「な、何を馬鹿なことを考えているんだ! そんな場所見るわけがないだろう!」
プンプン!と頭の上に文字が見えるようだ。ジェルドの純粋で、そして稚拙な反応は、彼がエマと最後まで致していないことを証明していた。レオールは全身の力を抜き、どっと湯に沈み込んだ。
「ハッ……なーんだ。まあ、最初から分かってたけどなー」
「では、先程のエマとの詳細なアレコレは……?夢?」
シリウスは満足そうにジェルドの筋肉質な胸を2、3度ぺちぺちと叩き、立ち上がった。
「さ、解散だ」
ジェルドは、何か思っていた反応と異なり、不満気に唇を噛んだ。もっと初めての独占欲を詳細に聞いて欲しかったのだ。裸の男たちはその日はシラケたまま解散するのだった。