黎明の女神   作:浮月 愁

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【注意】
無理やり・薬品を用いた暴力行為の表現が含まれます。苦手な方、嫌悪感を抱かれる方はこちらで離脱してください。なお、本編に登場する薬品は全て架空のものです。




支配1

エマは天蓋付きのベッドの上で、膝を抱え込み顔を覆っていた。指の隙間から漏れる熱気が、まだ頬の赤さを保っている。

 

「やっぱ余計なことしたかも……」

 

ジェルドの穏やかな優しさ、温かな包容力が好きだった。ただ、「独占欲」とはどういう感情か教えてあげたかった。それだけのつもりだったのに、彼の内側で目覚めた衝動はあまりにも激しく、そして彼の平穏を奪ってしまった。あの熱に浮かされた瞳を思い出すたび、エマは後悔に苛まれる。

 

と、同時に……

 

枕に顔を押し付けて、足をバタつかせる。ジェルドの優しく落ち着いた佇まい。逞しい体躯。今までは可愛いよりカッコイイが勝っていたが、興奮に理性を無くしかけている美青年というのは可愛さの破壊力が凄まじいものがある。背徳感の宝石箱だ。

思い出す度にエマの自我が壊れかけそうだった。

コンコン、とドアが叩かれ、返事を待たずして乱暴に扉が開いた。

 

「僕のこと……舐めてる?」

「は、はい?」

 

突然現実に戻される。いつもの白衣姿のシリウスだ。エマの元に歩み寄ってくるが、その革靴の音に苛立ちが含まれている。長い前髪の奥の陰鬱な瞳を細めてベッドの上のエマを見下ろした。

 

「以前、僕の研究室に来いと言ったけど。まさか忘れたなんて言わないよねぇ?」

「お……覚えてます」

「一向に来る気配がないから、わざわざ忙しい僕が足を運んだ。ハァ……対価は倍だな」

 

シリウスは有無を言わせぬ強い口調でエマの腕を掴んだ。シリウスに連れられ、たどり着いた研究室は、エマが以前訪れた時と変わらず、実験器具が整然と並び、消毒薬の匂いが充満していた。

 

「そっち。寝て」

 

シリウスは部屋の奥の保健室にあるようなベッドを顎でさした。感情を許さない冷たさだ。エマが言われるがままに横になると、シリウスは慣れた手つきで注射器などの器具を準備し、エマの腕を軽く叩いた。注射針を扱う手つきは迷いがなく、まるで熟練の医師のようだ。

 

「え……こ、これは」

「動くなよ。血液を採取させてもらう」

 

チクリと痛みが走り、透明なシリンジが赤い血を吸い上げていく。エマはその真剣な横顔と、静謐な作業に見惚れていた。下まつげが長く、漆黒の大きな瞳はいつも瞼を重そうにしているが、針先を見る時は少し見開く。いつもはいつの間にか観察されている印象だが、立場が逆転し、今だけは気が付かれずシリウスを観察できる。

しばらくして、シリウスは注射針を抜き、背後の鍵付きの戸棚から、アルミ箔で連なったタブレット錠剤を取り出した。10錠ほどが銀色のシートに挟まれている。彼はそれをエマの目の前に突きつける。

 

「強制避妊薬だ」

 

エマは目を見開いた。子を産むことが使命の女神に対して、避妊薬。その矛盾に言葉を失う。

 

「君がどんな女性か見極めるまで渡すつもりはなかった。悪用される可能性がある。渡そうと思った理由は二つ。一つ。君がそういう女では無いだろうということ。一つ……」

 

シリウスは、自らの首元を何度かトントンと叩きながら、意地悪い笑みで言葉を続けた。

 

「君の望まない行為をされて望まないタイミングで孕む可能性がある。わかるか?」

 

首のキスマークのことを言っているのだ。エマはゆっくりと頷く。確かにジェルドとのハグも止めなければどうなっていたかわからない。

 

「この薬を、君の好きなように使うといい。無くなったらまた渡す。ただし、一つ約束しろ。この薬をエマが持っていることは他言するな。秩序が乱れる」

 

そうして、彼は避妊薬をエマの胸元に無造作に置いた。そして、さらに奥の隠された棚から、カラフルな小瓶を四つ取り出し、ベッドの脇に並べた。

 

「ヒヒ……さて、どれにする?」

 

シリウスは、医師というより悪魔のような笑みを浮かべ、八重歯を覗かせた。

 

「先代の黎明の女神と君と。これらの薬が同じように効くかを確認したい」

 

彼が指さした四つの小瓶には、それぞれ達筆な文字でラベルが貼られていた。覚せい剤、筋弛緩剤、催淫剤、そして睡眠薬。エマは背中に冷や汗が伝うのを感じた。いずれも犯罪の匂いがする。

 

「いや……いやいやいやいや!! どれも無理!」

「は? 対価の話 忘れた?」

 

シリウスの瞳から光が無くなりエマを見据える。ゾクリとして、思わず身体を起こそうとするが、彼はエマの肩を掴むと、ゆっくりとベッドに押し倒し、ニヤリと不気味に笑う。

 

「そして、もう一つ……」

 

と言うと、シリウスはベッドの下から手錠を取り出した。

 

「これは、僕の趣味」

 

チカリと金属が光り、エマの両手首を拘束する。ザッと血の気が引くのを感じ、目の前が一瞬白くなる。すっかり口から水分が消え失せたエマは、喉の奥が張り付く感覚を覚え無理やりに唾を飲み込む。

シリウスは意地の悪そうな顔で、瓶を手に取った。

 

「さてと、催淫剤から使っていこうか」

「っ……」

「避妊薬の薬効も同時にわかる。僕って効率的でしょ?」

「ひ、ひにんやくって」

 

シリウスは白衣を脱ぎ捨てるとベッドに片手を付いて、エマの顔を覗き込んだ。その目はドス黒く濁り、まるで感情を持たない人の目に見える。

 

「言ったよね? 油断してるとイジメたくなるって。……僕を欲しくなったら言って」

 

鼓動が耳まで届き、身体を硬直させる。声を出したいが上手く声が出せない。チカリとシリウスのピアスが光る。その光が恐怖に揺らぐエマの瞳に映った。ベッドの鉄枠を掴んだ手が震え、手錠の金属音が冷たくシリウスの部屋に響いた。

 

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