黎明の女神   作:浮月 愁

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支配2

熱と快楽の余韻が残る研究室。シーツは乱れ、薬品と体温の混じった匂いが立ち込めていた。

上気した呼吸は未だ収まらず、エマはベッドの上で天井を見たままぐったりと動けずにいた。全身に倦怠感が残っているが、それ以上に、感情を持たない存在から一方的に踏みにじられた精神的な消耗が大きかった。

シリウスは、背を向けたまま静かに身支度を整えていた。ベルトのバックルをカチリと鳴らし、ネクタイの結び目を締め直し、床に落ちた白衣を拾い羽織る。その一切の感情を排した動作が、彼の冷徹さを物語っていた。

 

「あー、疲れた……3時間以内に避妊薬を飲むように。今日はもういいから、またそのうちここに来て」

 

彼はエマの方を向き直り、冷たい命令を下す。

エマは全身の力を振り絞り、瞳に憎悪を込めてシリウスを強く睨みつけた。シリウスはそれに気づき、しかし、一切の動揺を見せず、口角を意地悪く引き上げた。

 

「……あれ? 何その顔。まだ薬が残っているの? もしかして、まだ足りない?」

 

彼はベッドに片手をつき、エマの顔の横に屈み込み、その陰鬱な瞳でじっと覗き込む。挑発的で、冷酷な支配欲に満ちた笑みだ。太ももに触れたシリウスの手を、エマの手が弱々しくも掴む。

エマの喉の奥から、絞り出すような声が漏れた。

 

「さわ、触らないで」

「さっきはあんなに僕を欲しいってねだったくせに」

 

エマは唇を強く結び、溢れかけたものを喉の奥へ押し戻した。何事もないふりで息を整え、シリウスを睨む。

 

「へぇ……泣かないんだ」

「シリウスは……私に、黎明の女神に、こんなことしないと思った」

 

声は震えていたが、その瞳は恐怖や悲しみではなく、裏切られたことへの強い怒りを宿していた。エマの内に、抵抗の炎が灯る。

 

「それ、本気で言っているのか? ヒヒ。ここがどういう場所かわかってる? 」

 

嘲笑するシリウス。しかし、すぐにエマも聞き返した。

 

「シリウスこそ、ここがどういう場所かわかってる?」

 

大きく息を吐き、身体を起こすと、枕元に無造作に置かれた避妊薬のタブレットを掴み、そのままシリウスの胸めがけて憎しみを込めて投げつけた。薬は、乾いた音を立ててシリウスの胸のあたりに当たり、床に落ちる。

 

「私は避妊しない。シリウスを、神にする」

 

その宣言に、シリウスの顔から一瞬にして笑みが消えた。が、すぐに鼻で笑い飛ばす。

 

「ヒヒ、まさか。僕は外道だよ? エマという人間は、自分の意志を無視して暴力を振るう相手の子を望むような愚かな選択はしないはずだ」

 

今度はエマが鼻で笑い、彼を嘲る。

 

「私の何を知ってるの? 私は貴方にとって一番避けたい選択を選ぶ」

 

シリウスの優位性が崩れた。彼の顔は不愉快そうに歪み、その漆黒の瞳に、明確な怒りが浮かび上がる。彼の冷徹な理性が、エマの予測不能な行動によって揺さぶられ始めている。

 

「僕を舐めるな。避妊薬が、この錠剤だけだと思っているのか?」

 

シリウスは戸棚を乱暴に開け、小瓶数種類を掴むとテーブルに叩きつけた。薬品のガラスがぶつかる高い音が、部屋に響く。

 

「自分で飲まないなら、僕がぶち込むよ。注射にするか? 直接子宮に挿れるタイプだってある。抵抗は無駄だ。ここには君を無力にできる薬が山ほどある。どちらにせよ、君の身体はまだ……」

「シリウス」

 

エマが、冷静な声でシリウスの言葉を遮った。

 

「焦ってるの? よく喋るね」

 

シリウスの動きが、ぴたりと止まる。エマの言葉は核心を突いていた。

 

「……強気だね。この状況、君に勝機は無いよ」

「そうかな」

 

エマはベッドで身体を支えながら、ゆっくりと立ち上がり、シリウスの整然とした白衣姿を見据える。その目の光は、疲れを上回る純粋な決意に満ちていた。

 

「今、貴方に強制的に避妊されたとしても、私はこれから何年でも掛けてシリウスの子を孕んでみせる。私は黎明の女神。貴方を邪魔できるのは、私だけ」

 

二人の間に、静寂と激しい火花が散る。シリウスは初めて、エマを対等な敵として認識した。彼の口元が微かに歪み、その瞳は、怒りと同時に、予測不能な研究対象を見つけた動揺の色を帯び始めた。




16話まで読んでいただきありがとうござました。

珍しくあとがき入れているのですが、
何か違和感感じませんでしたか?

あれ?手錠はいつの間に外れたの?
エマって今ハダカなの?
呼び捨てしてる…

実は15話と16話の間に幻の(!)15.5話が存在します。
ただしこちらはご推察の通り完全R18です。
ここじゃ無理です。全然無理。
しかしながら、この15.5話があると「黎明の女神」の解像度がちょっと上がるので、作者としては読んでほしいのが本音です。
でも、ここじゃ無理です。全然無理。

Xアカウントあります。作者名[浮月 愁]でご検索ください。
解像度上げたいそんなビッグラブな貴方。
「15.5話。成人済み」とDMでご連絡いただければ15.5話お送りいたします。
作品の感想や挨拶不要です。こちらも事務的に本文だけ送らせていただきます。
大体どのような内容が届くのかは賢明な貴方様にはおわかりかと思います。ノークレームですよ。
連載終了後でも承りますので、お気軽に。

よろしければ続きも読んでいただけますと幸いです。
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