黎明の女神   作:浮月 愁

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地下倉庫室2

黎明の女神 18話 地下倉庫室2

 

緊張に顔が強張り、思わず頭に触れるレオールの手を払いのけようとした時、レオールが心配そうな顔でエマの顔を覗き込んだ。

 

「無理すんなよ」

「えっ」

 

その声には肌寒い地下室を温めるような優しさがあった。彼はエマの笑顔の奥に隠された影を見抜いていたのだ。レオールはそのまま絡まったエマの髪を手ぐしで梳かす。

 

「セジュムとの間でなんかあったんだろ。大事な話って、本当に大事な話だったのか?」

 

ドッと全身が脱力し、エマは大きく息を吐いた。一瞬でもレオールを疑ってしまったことに後悔する。見当違いではあったが、彼の心からの心配が胸に響いた。

 

「あ、ありがとう。なんでもないよ」

「そうかー? あいつ、神経質だし、完璧主義だからな。なんか変なこと言ってエマを傷つけたんじゃねえか?」

「変なことって?」

「例えば……胸のデカい女がタイプだ、とかよぉ」

「は?」

 

エマは、言葉が出なかった。あの紳士的なセジュムの口から、そんな言葉など出てくるわけが無い。

『エマ。私は胸のデカい女が好きなんです。貴女はいささかボリューム不足。残念です』

そう言って穏やかに微笑むセジュムを想像して頭を振る。キモすぎる。

 

「それ、レオールのタイプなんじゃなくて?」

「はぁ!? オレのタイプは……」

 

レオールは膝に肘を掛け、言い訳するように少し間を置くと、急に声のトーンを落とした。その声は、深くて甘い。

 

「オレのタイプは、一緒に酒飲んで楽しく笑い合える子……かなぁ」

 

クラッカーに伸ばしたエマの手が、ぴたりと止まった。目線をあげると、レオールはエマの反応を期待してるような、真剣さと照れが混じった瞳でエマを見つめていた。彼の表情に、一気に胸が締め付けられる。

 

「え、えー? ヒメカさんってそういうタイプだったの?」

 

エマの反応にレオールはニヤリと口角を上げる。

 

「へぇ。ヒメカ。ヒメカなぁ」

 

やはりレオールの気持ちはヒメカから変わっていない。お酒の勢いで調子のいいことを言っているだけなのだろう。エマは一瞬でもドキッとしてしまった自分を恥じて、クラッカーを齧る。

そんなエマをレオールはニヤニヤしながら眺めている。

 

「女っておもしれーな」

「え?」

「そうやってわざと別の女の名前出してオレの動揺誘ってんのバレバレ。カワイーじゃん」

 

レオールの甘く優しい視線を感じるが直視できない。エマは思わず喉を鳴らす。緊張を悟られないよう、ゆっくりと顔を背けた。

 

「どっち見てんだよ」

「だ、だって……」

「エマ! そこケツ冷えんだろ、こっち来いよ」

 

照れ隠しのように、あぐらをかいたレオールが、自分の膝をパンパンと叩いた。エマは少し躊躇するが、レオールがしつこく叩くので、仕方無しに立ち上がった。

酔って足がもつれた瞬間、レオールがエマの腕を強引に引き寄せた。

 

「こら、あぶねぇだろ」

 

レオールはエマを向かい合わせになるように抱え込むと、安心したようにエマの頭を掴み、無理やり自分の胸に押し付けた。彼の荒々しい心臓の鼓動が、エマの耳元に響く。

ポンポンとエマの頭を叩きながら、レオールは少しぼんやりした声で呟く。

 

「寒くねぇか」

「……うん。温かい」

 

彼の体温が全身に染み渡る。まるで巨大な毛布に包まれたようだ。

 

「なんか寝みーな」

 

そう言ってレオールは大きなあくびをした。つられてエマもあくびをする。体温とワインのせいで、二人の意識は急速に眠りの淵へと引きずり込まれていく。

 

「エマ……」

 

眠そうなレオールの声が頭上から聞こえ、エマは顔をあげた。

彼の荒々しい顔つきが、ぼんやりとした光の中で驚くほど優しく見えた。おでこに優しくキス。そして、目元、頬と、彼の唇がエマの顔の上をゆっくりと辿る。熱く湿った感触が残るたびに、エマの心臓が甘く跳ね上がる。普段の粗暴さは感じられない。ゆっくりと、何度も唇を押し付け、離し、また近づける。

 

お互いの目が合った。

レオールは瞳を閉ざし、エマもまた、期待と緊張に全身を固くしながら自然と目を閉じた。

 

しかし、唇に柔らかい感触は訪れない。

エマが恐る恐る目を開けると、レオールはエマを抱きしめたまま、すでに目を閉じ寝息を立てていた。

全身の緊張が抜けて、エマは思わず吹き出す。

 

「レオール、ありがとう」

 

エマは、地下室の闇を忘れ、心の中に太陽が灯ったように温かい気持ちで呟いた。彼の心臓の音を聞きながら、温かいレオールの胸に頭を預けるのだった。

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