二人は天蓋付きベッドの下でもう一度濃厚なキスを交わした。「たくさん愛して欲しい」という言葉は今では無い。そう思っていたが、セジュムの情熱的なキスはエマの思考を甘く蕩かせる。
セジュムはキスをしながらエマの胸元のボタンを外す。エマも受け入れたようにセジュムの首の後ろへと手を回した。柔らかで少し癖のあるセジュムの髪を撫で、エマはバファマに来た時のことを思い出していた。
自分を選んで欲しいと真っ直ぐな目を向けてくれたセジュム。綺麗な瞳だった。思わず、セジュムならいいと答えてしまったが、その時は本当にこのような関係になるとは思わなかった。
突然セジュムの唇がエマの肩の素肌に触れ、くすぐったさに現実へと意識が戻る。いつの間にか肩の下までワンピースの胸元が引き下げられている
「あっ、セジュム……」
唇だけで肌の上をなぞると、ぞくりと甘い電流が背中を駆け抜けた。柔らかく、でも確かな熱を残しながら、ゆっくりと吸い上げるようにキスを落としていく。
「……んっ」
小さく漏れた声に、セジュムは満足げに息を吐き、舌先でその場所をなぞった。じんわりと浮かび上がる赤い痕を確かめるように。まるで自分のものだと刻み込むように。
続いて鎖骨の窪みに舌を這わせる。そこに深く、深くキスマークを刻み込んだ。吸われるたびに甘い痛みが走り、身体の奥が疼く。
「セジュム……」
セジュムの唇は執拗に降りてくる。まるで呼吸するかのように吸い上げ、胸のふくらみの始まりの箇所にまた新しい痕を残した。吸われるたびにシリウスの行為とは違う、甘い征服感が身体の奥の痺れとなって広がる。
「……あっ」
セジュムがはだけた胸元を更に下げようとしたその時、ノックの音が部屋に響く。二人はピタリと動きを止める。
「……無視しましょう」
セジュムは再び顔をエマの胸元へと落とす。しかし、また数度強くノックの音が部屋へと響く。しばらく強いノックの音が何度も何度も響き、その音は天蓋の中のムードを著しく下げた。
「この下品なノックの仕方はレオですね」
声色に苛立ちを覗かせながら、セジュムは着衣の乱れを直し、天幕に手をかけた。しかし、足を止め、エマの方を振り返る。
「エマ。すぐに戻ってくるので、そのまま、ここで待っていてください」
エマの額にキスを落とすと、天蓋の外へと出てしまった。天蓋の外で声がした。驚いたセジュムの声と、近づく足音、追いかけるセジュムの声、更に近づく足音。もしかすると、ベッドに向かって来ているかもしれないと気がついた時には遅かった。
勢いよく天幕が開かれるとそこに立っていたのは鋭い目つきのジェルドだった。乱れた着衣。首から胸元へ掛けてのキスマーク。隠す暇は無かった。目を丸くするエマを一瞥するなり、勢いよくセジュムに振り返る。
「このゲスめ」
「一体なんのつもりですか? 見られながら、なんて趣味は無いのですが」
睨みつけるジェルドに挑発めいた言葉で目を据わらせ見下ろすセジュム。
二人の刺々しい雰囲気の陰でエマはソッと着衣を直す。さすがにこの雰囲気に口を挟む勇気は無い。
「シリウスから聞いた! セジュムが無理やりエマを自室へと連れ込んだと!」
そんな事する訳ない、と言い返しかけて、以前エマを無理やり自室へと連れ込んだ事実を思い出したのか、セジュムは気まずそうに口を噤む。
「なんて卑劣なんだ! 恥を知れ!」
「……はぁ」
ジェルドの言い方から、邪魔をしに来た、と言うよりエマを助けに来たという正義感を感じ、セジュムもそれを叱る気持ちにはなれないようだ。厄介そうにこめかみのあたりを搔く。ジェルドはエマへと振り返ると宝石のような瞳を鋭く光らせた。
「怪我はしてないか?」
「え……あ、う、うん」
「さあ、帰ろう」
手を差し伸べるその仕草はまるで姫のピンチを救いに来た王子そのものだ。エマが無意識にその手を取りかけたところでようやくセジュムが口を開く。
「ジェルド。誤解です。君はシリウスに騙されてます」
「誤解だと?」
「同意の上です。無理やりなんかではありません。貴方に邪魔されて未遂ですが」
ジェルドはあまり納得できていない顔をしていたが、とりあえず"邪魔をされて未遂"という言葉だけが頭に残ったようで勝ち誇ったように微笑んだ。
「俺は未遂でも許さない。セジュムを軽蔑し糾弾する!」
「……へえ」
セジュムの眉間のシワが深くなる。セジュムから笑みが消えたのでエマはようやく止めた。
「待って、待って、待って……落ち着いて! ほんと、なんで……」
最初は完璧な4人だと思った。綺麗な顔、人並外れたバランスの等身。溢れ出る色気と包容力のジェルド。穏やかで紳士的なセジュム。ワイルドで不器用な優しさのレオール。ミステリアスで頭脳派なシリウス。
こんな人達、私には手の届かない存在。
今となってはどうだろう。
子供っぽくて恋愛初心者のジェルド。嫉妬深くて独占欲の強いセジュム。デリカシーがなくて世間知らずのレオール。トラウマを抱えて不安定なシリウス。
皆、欠点だらけで、自分勝手で、そして何よりも情熱的だ。今もこうして目の前で、くだらない誤解と純粋な怒りで喧嘩しようとしている。完璧な神の子という幻想が崩れ去り、目の前で繰り広げられるあまりにも人間的な醜態を見たエマは、緊張が限界を超えて裏返った。
エマは思わず吹き出し笑い声を上げる。急に笑いだしたエマにセジュムとジェルドはお互いに顔を見合せ、完全に毒気を抜かれたのだった。