黎明の女神   作:浮月 愁

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二日酔い1

エマは目を覚ますと、肌触りの良いシーツの上で一度大きく伸びをした。このバファマの地には朝も夜もなく各々が自由な時間を過ごしている。なんとなく寝ようかなと思った時に寝たりするらしい。やるべき仕事がないためそれほど身体の疲れもなく、空腹も満腹もない。なんて快適なのだろう。その内、日の感覚も無くなりそうだ。

 

エマは身体をさっぱりさせようと、浴場を探すことにした。部屋を出て、まずは昨日の豪華な食事の広間へと歩く。途中誰かいるかもしれない。浴場の場所を聞きたい。

 

晩餐室へ向かう途中、廊下の曲がり角で大きな背中と赤い長髪が目に入った。一度通り過ぎたが、もう一度戻る。

 

「レオールさん」

 

声をかけるとレオールは一度立ち止まり、振り返ろうか躊躇うような素振りを見せたが、やがて忌々しそうな顔をして振り返った。ライオンのような赤髪は乱れ、その妖しい瞳には苛立ちが滲んでいる。

 

「あんだよ」

 

全く友好的ではないことはわかっている。どちらかと言えば嫌われているような気もしている。だが、エマ自身嫌われるようなことをした覚えもないし、正直これから仲良くしようとも思っていない。ただ、同じ空間にいるのだから、話しかけづらい間柄にはあまりなりたくないと思っていた。

 

「あの、お風呂とかシャワーとか、そういう場所って……」

 

駆け寄るとレオールの顔色があまり良くないことがわかった。

 

「……レオールさん? なんか、調子悪い?」

「うぜぇな。てめーに関係ねぇだろ。湯浴みならオレも今行くところだ。連れて行ってやるよ。来い」

「ん、うん……」

 

エマはレオールの横に立つ。レオールはダルそうにのそのそと歩いている。やはり少し調子が悪いのだろうか。

 

「レオールさん、もしかして二日酔い?」

 

バファマの地では病気はないとジェルドが言っていた。だが、アルコールくらいは体内に残るのかもしれない。

 

「ふつかよい? なんだそれ、聞いたことねーな」

「お酒をたくさん飲んだら次の日も身体にお酒が残って具合が悪くなること。二日酔い」

 

レオールは急に立ち止まり、エマを見下ろす。

 

「……思い出した。シリウスかセジュムから聞いたことあるぞ。湯に浸かれば治るし、意味わかんねーから聞き流してたけど……酒が原因だったんだな」

 

そうか、そうかと納得したようにレオールの足取りが少し早まる。エマは心のなかで呟いた。

 

(なんか……アホっぽい)

 

大雑把な性格なのだろうか。粗暴な面は確かにあるが、良くも悪くもラフな人なら畏まらず、付き合いやすそうだ。

また、こうして浴場へ案内してくれて、話しかければ会話してくれる。あのジェルドも、レオールの口汚さは本心ではないと言っていた。きっと根から悪い人ではないとエマはジェルドの言う事を信じることにした。

 

数分後、アーチのような入口が現れた。アーチをくぐると階段があり、そこを登ると脱衣所となっていた。大理石で覆われた床と壁は磨き上げられ、どこか仄暗い。光は主に蝋燭で間接照明のような役割をしている。だが、入口はひとつしか無く、明らかに……

 

「レオールさん、ここって……」

 

混浴ではないかと指摘しようとレオールを見ると、サッと上半身のシャツを脱ぎ捨てていた。やや浅黒く引き締まった逞しい肉体に思わずエマは顔を背ける。

 

「ちょっとちょっとちょっとちょっと……」

「あ? 男の身体を見るのは初めてか?」

「ちが、違うけど……」

「じゃあ、サッサと脱げよ。まさか恥ずかしいのか? めんどくせえな」

 

レオールは眉を顰めながら、エマの胸元のボタンに手をかける。エマは思わずその手を払い除けた。

 

「バカ!」

 

レオールは急に手を払い除けられ、明らかにイラッとしたように顎を反らせる。口の中で小さく「クソブスのくせによぉ」と呟くのが見えた。

レオールはドカドカと足音をならしながら、脱衣所の奥へと行った。ブツブツと文句を言いながら何かを探していたようだが、しばらくすると戻ってきた。

 

「おらっ!」

 

そう言って投げつけてきたのはセパレートタイプの湯浴み着だ。

 

「オレぁ、先に入ってる! てめぇは後から来い!」

 

そう言ってレオールはズボンに手をかける。エマは思わず背を背けるが、すぐに布が擦れた音が聞こえ、不機嫌そうな足音が遠ざかる。

 

「私がこれ着ても、レオールは全裸じゃん……」

 

誰に言うでもなくエマは呟く。

 

「大雑把にも程がある……」

 

エマは脱衣所で、用意されていた湯浴み着へと着替えた。淡い桃色のセパレートタイプで、肌に張り付くような薄手の生地だ。乾いている今は肌を透かす心配はないが、濡れれば体のラインを露骨に拾ってしまうだろう。初めて袖を通す心許なさに落ち着かない気分になるが、裸で挑むよりは幾分かマシだと言い聞かせ、エマは浴場へと足を進ませるのだった。

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