最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
声が聞こえる。
優しく、慈愛に満ちた声が……。
『愛しの我が娘。お前はまだ生まれたばかりで何も知らないだろうが……。だが安心しなさい。私がお前に、持てる全てを与えよう……。数万年生きた私の寿命も、僅か数百年だろうが……その間に与えられるものは全てお前に授けよう……』
ああ……これはまだ、
お母さんが私を生んで、そして一緒に過ごした、たった数日の大切な大切な記憶だ……。
お母さんはこの数日で、私に多くの事を教えてくれた。
生まれたばかりの微睡む記憶でも、その数日は潜在意識にはっきりと残っている……。
そして……その中でも、今の私に最も重要な
『そもそも神器とは、私が遥か昔に生み出し、人間に与えた武器だ。この聖なる力を秘めた武器しか魔王なる一族を討ち滅ぼすことは出来ない……、まぁ人間には……だけどな』
人間には……?じゃあ……お母さんは魔王を倒せるの?
『ははは!当然だ!私にかかれば魔王など……と、言いたいところだが、それは無理なのだよ』
どうして??
『遥か昔、まだ人間や魔族、そして神々が共に地上で過ごしていた頃。とある一体の魔族が世界のエラーより生み出されてしまった……。その恐ろしい魔族、バエルは次々と神々を殺し……そしてそれに恐れた当時の神々は、一部を除いてほぼ全て、自分たちが作り出した天界へと逃げてしまった。そして……天界の神々はバエルを封じ籠める為、地上の奥深くに……魔界と言われる場所を作り出し、そこにバエルを閉じ込めようとしたのだ』
ふむふむ……。
『結局バエルを封じ込める事に失敗した神々は、その代償として地上への干渉を制限された……そしてそれは当然地上に残った神々……つまり私達にまで課せられてしまったんだ』
わぁ……大変だね……。
『ふふ。そう、大変なのだよ……。私の母はそれはそれは苦労したそうだからな……まぁとにかく、その作り出された魔界をこれは良しと魔族達は根城にしてしまった……。そして、その魔界の力を自在に使える様になった魔王と呼ばれる存在を生み出してしまった』
へー……あれ?バエルは……?
『そう、同じ魔族だからかは解らないが……バエルはその魔王と呼ばれる存在の影に隠れて、余り表舞台に立たなくなったのだ。恐らく……奴は戦闘狂だが、支配欲などは殆ど無かったから……どこかのお山の大将になる気はなかったのだろうな……。……さて、話が逸れたな。ともかく魔界の力を取り込んだ魔王はその魔界そのものに干渉できる力……つまり神の力が無ければ倒せない存在となってしまった。そしてそれをいいことに、魔王は武力を持って人間界、つまり地上を支配しようとしたのだ』
!!!……なるほど……解ったよお母さん!つまり……神はもう魔族に干渉できないから魔王を倒す事はできないけど……お母さんの力を持った武器なら魔王を倒せるんだね!
『おお!生まれたばかりなのに本当に賢いな!我が娘は!その通りだ、私が生み出した神器ならば、魔王を打ち倒すことが出来る。そして……我が母は神器を生み出し……それを自ら選定した勇者に持たせ、その勇者は見事魔王を討ち滅ぼす事が出来たのだ』
わあ!!すごい!!
『しかし……魔王は狡猾だった。自分が打ち倒されるときには既に、自分は遥かに超える新たな魔王を作り出し……そしてその魔王が討ち滅ぼされれば、また数百年後に新たなる魔王が生み出される様になった』
大変だね……その度にお婆さんは人間に神器を与えたんだね?
『そうだ。その度に母は人間に力を与え……そしてそのまま私の代になった訳だ。その頃には神器も四つに増え、当然勇者も四人となり、どちらかというと人間の方が有利だったように思う。しかし……千年前に現れた魔王は、それまでの魔王と一線を画す程の力と、兵力を持っていた。……このままではまずいと思った私は、人間の姿を取り、勇者達に力を貸したのだ……まぁ直接戦闘は出来ない為、あくまで彼らのサポートだが……そのせいで、聖女などと呼ばれる様になってしまったがな……』
聖女!!お母さんかっこいい!!
『ははは!ともかくその甲斐もあってか、勇者達は勢いよく魔族達と戦った。だが……そんな戦いに、最大のアクシデントが起こってしまった』
アクシデント……??
『バエルの登場だ。今まで人間と魔族の戦争に一切の興味を示さなかったバエルは、突如千年前に姿を現したのだ……。見た瞬間に解った。名前しか聞いた事の無かったバエルだが……姿を見た瞬間に。それ程までにバエルは恐ろしい存在だった……』
ええ!?お母さん……大丈夫だったの!?
『ふふ。結局私達はバエルの気まぐれで助かり、そして何とか魔王を打ち倒す事が出来たんだ。そして……何時もなら数百年の単位で現れる魔王が……突如現れなくなった』
???
『人間たちは平和になったと、この数千年間を過ごしていたのだろうが……つい最近になって、魔族達の活動が活発になって来た。……そう、千年ぶりに魔王が復活したのだ。前の大戦で生き残った剣の勇者の血族も、つい最近現れた邪神との戦いで失われてしまったので……』
邪神??
『ふふ。魔王とはまた違う、とある国を襲った邪なる神の成れ果てだよ。……まぁその邪神も、私が力を授けた聖王達によって封印されたが……』
うう。また知らない人が出てきた……。聖王??
『ははは!その話はまた今度な!……ともかく邪神との戦いで、剣の勇者の血族は失われてしまった為、私は直ぐに新しい四人の勇者達を見出し、彼らに神器を与えた。彼らはそれぞれ素晴らしい才能を持った人間達だった……が、ここの所、人が変わった様になってしまった者もいるみたいだ……』
変わった??
『ああ。そもそも今回の魔王は非常に用意周到で狡猾な奴の様で、地上から行ける魔界の扉を全て閉じ、自分たちは秘密の通路を通って魔界から人間界に現れている様だ。しかも……秘密の通路は一度魔界から地上に来た魔族にも解らない様に、毎回変わる様で、恐らく……捕虜にされた魔族などからばれない為の処置だろうが……ともかくこちらからは魔王へと通じる扉は閉ざされている様だ』
ええ??
『そして、そこから小出しに魔族を攻め入らせていた様だが……ここの所それも無くなった。……何を考えているかは解らないが……魔族の進軍は止まったのだ。そして……仮初の平和になってしまった地上で、勇者達は人間たちの誘惑により変わってしまったのだ』
そんなぁ……かなしいね……。
『ああ。そして……こんな中途半端な所でお前にこの先を授けるのは非常に心苦しいが……聞いておくれ?……もし、今の勇者達が本当に変わってしまって、神器に相応しくないとお前が思うのなら……お前がその神器を取り上げ、新たな勇者を選定して欲しいのだ』