最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
今や亡き母との会話を遠くに感じなら、
勇者クロスのせいで、体のあちこちが痺れて痛いが……今どうやらそれ所では無い様だ。
魔竜ジャバウォッキーの炎と雷を纏ったブレスが、
そのブレスを、聖女マリフィセントが結界を張って受け止めているが……そのブレスの勢いが強すぎて、このままではこの建屋ごと吹き飛んでしまうだろう。
勇者エイシャも聖女マリフィセントに力を貸す様に、魔力を神器・聖弓ウルスタッドに溜め、フィールドの様なものを張って耐えているが……これは良くない。
私は横目にまだ気絶しているエルフの少女ソフィアの安否を確認し、まだ息がある事を確認すると、聖女マリフィセントの後ろに立った。
「!!?コウ様!!目を覚まされましたか!!?ですが……今は危険ですので……!!」
「コウ!!?俺達の後ろに隠れて下がっていてくれ……!!」
聖女も勇者も私を心配するの様に、口々に言うが……今は自分の心配をしたらどうなのだろうか?何ともお人好しな人間達である。
「私は大丈夫です。それよりも……マリィ様。少し力をお貸ししますね?」
「!??コウ様!!?な……なにを……!!?」
私はなるべく
「こ……これは……!!?」
流石に聖女と呼ばれるだけあって、人間にしてはかなりの神力を持っている聖女マリフィセントは、私の神力をすんなりと受け取ると……一瞬にして魔竜ジャバウォッキーのブレスを消し去った。
「なん……だと……!?」
驚きの声を上げる勇者エイシャに少し微笑むと、私はブレスをかき消され動揺している魔竜ジャバウォッキーへと向きなおる。
母との会話で思い出した、今最も重要な
その一つは神器の選定だったが……もう一つは……。
『あの勇者は、貴方がかつて友情を結んだ勇者ではないわ……ジャバウォッキー……』
「!!?」
「!!!」
私が突如、竜の言葉で話したことに、勇者と聖女が驚くが……今はそれ所では無いので無視しておく。
『貴方と友情を結んだ剣の勇者は、とうの昔に亡くなっている。あれは……それと同じ力を持った……いいや。かつての勇者には遠く及ばない紛い物よ……』
そう。
魔竜ジャバウォッキーは千年前死闘を繰り広げ、そしてそこで芽生えた友情を引きずっている哀れな竜なのだ。
母が言うには、私達程人間に寄り添っていない竜たちは、姿形だけでは人間の選別が出来ない。
それ故……彼にとって千年前の勇者の判断は、間違いなく聖剣だったのだろう。
かつての剣の勇者は、魔竜ジャバウォッキーとの死闘で友情を育んだ後、ジャバウォッキーにこう言ったそうだ。
「俺とここまで戦えるなんて……お前は最高だよ!ジャバウォッキー!!お前はもう俺の親友だ!!もし……お前が困っている事があったら俺に言ってくれ!!逆に……俺が困った時は、助けてくれよな!!!」
っと、何とも自分勝手な事を言って、しかもそれを放置したまま死んでしまったのだ。本当にはた迷惑な男である。……よくもまぁ母もそんな男を、剣の勇者に選定したものだ……。
ジャバウォッキーはそんな剣の勇者の言葉を律儀に守り……そして、母が言っていた邪神により命を落とした、前の剣の勇者の死を察知して………今の剣の勇者クロスを助ける為、付き従ってしまっている訳なのだ。
恐らく勇者クロスも……なぜ魔竜ジャバウォッキーが自分に付き従っているのか、解っていないだろうが……まぁ、蓋を開けてみれば何とも馬鹿馬鹿しい話だ。
だが、この馬鹿馬鹿しい話で私達は随分と振り回されてしまった。
私は……黒騎士と違いコウが好きだ。
今は余りの電撃のショックと、今までの心労がたたって深く眠ってしまっているが……あの子は私にとって可愛い妹みたいな存在だ。
湖の女神の悪戯で、この世界に降り立ち、訳も分からず私と黒騎士という強大な命の器として翻弄されているコウだが……そんなコウが本当に愛おしい。
それに、魔族に殺されてしまった私がこうやってまた、コウと一体化してでも生きていられることに、本当に感謝しているのだ。
だから……そんなコウを傷つける者は皆嫌いだ。
勇者も聖女も……そしてミリヤも。
皆コウを好いて、そしてコウの為に戦ってくれる素晴らしい人間達だ。だから……彼らの事は好き。
でも……コウを傷つける、剣の勇者クロス。やはり奴は……
だから……。
『ば……馬鹿な!!
馬鹿な竜だ。ジャバウォッキー。
お前みたいなのがいるから、竜全体の質が下がるのだ。
『自分の元居た所へ帰りなさい、ジャバウォッキー。……かつての勇者を想う心があるなら……その約束で彼の名誉を傷つける事はやめなさい……』
私の言葉に、ジャバウォッキーは大いに動揺する。
しかし……
『いや!!もう止まれない!!お前は嘘を言っている!!
「グウォオオオオオ!!!」
汚らしい唾を吐き散らしながら遠吠えを上げる魔竜ジャバウォッキーに、私は心底失望する。
品性も無ければ頭も悪い。本当に……本当に無様で低俗な竜だ……ジャバウォッキー……。
『解った。では最早お前には容赦しない。さらば……古き竜よ』
私はジャバウォッキーとの最後の挨拶を終え、勇者エイシャに向きなおる。
「すみませんエイシャ様。どうやら説得は無理の様です」
何時もと違い冷静に……そして感情の無い瞳を見抜かれたのか、勇者エイシャは一度大きく目を見開き……そして言った。
「君は……君は誰だ?」
その言葉に、私の心は大いに喜びに包まれる。
やはり彼は……コウを本当に想ってくれている!コウの事を解ってくれている!やはり彼の様な人間こそ……コウの勇者に相応しいのだ……と!
「私は……
「なに……!?」
「詳しく説明したいのですが、時間がありません。どうか私では無く、コウを信じて……力を貸してくださいますか?」
私の言葉に、勇者エイシャは一瞬戸惑った後……意を決したように、一度頷いたのであった。