最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
決着はついた……。
ミリヤの雷の斬撃に、クロスは完全に戦意を喪失している。それに……聖剣を失ったクロスは、心身ともに喪失している様に見えるし、最早これ以上クロスが戦うことは出来ないだろう。
「………はは……ははは……私が……私が勇者だ……これは……何かの間違い……」
誰にも聞こえない声で、ぶつぶつと呟くクロスを、私はほんの少しだけ憐れみを含んだ目で見ていた。
確かにクロスは許せない……罰されて当然の男だ。
だが、あれでも一応はかつて母が見出した男なのだ。周りの環境のせいであそこまで堕ちてしまったというのならば……その弱い心に、ほんの少しだけ……同情する。そして……本当に同情するのは、あんな男を見出してしまった母に……だ。
もし母が今の彼の現状を目の当たりにしたのなら……彼を選んでしまったことを、大層後悔していただろう。
だが……その同情も最早なんの意味もない……。こいつは早急に裁かれるべきだ……。
そう思い私はミリヤに近づく。
「ミリヤさん……お見事でした」
「コウ……じゃなくて……えーっと、なんて呼んだらいいのかしら?」
「
「え?……でもそれは種族の名前でしょ?」
「ふふ。そうですけど……
「グウォオオオオ!!!」
私の言葉を遮るように、空から黒い堕竜ジャバウォッキーが咆哮を上げて姿を現す。
………なぜあの堕竜がここに現れるのだ?あれは……勇者エイシャが戦っていたはず……。私の力すら授けた、かの勇者があのような堕竜に後れを取るとは思えない。
そう思い、目を細めて見れば……堕竜の背にまたがる勇者エイシャが見えた。……何故?
『
……………は?
いきなり何を言っているんだ?この堕竜は……。
疑問に首を捻る私を余所に、堕竜ジャバウォッキーを見たクロスが、涎を撒き散らしながら叫ぶ。
「ジャバウォッキー!!!私の危機に駆け付けてくれたのかぁああ!!?よぉおおおし!!私から聖剣を奪った逆族諸共ぉ皆殺し……ひぃいいい!!!?」
クロスの言葉が終わるのを待たずに、ジャバウォッキーはクロスに向かってブレスを撃ちだす。
撃ちだされたブレスはクロスの側すれすれを通り、その威力は直撃していないクロスを遠く吹き飛ばした。
『だまれ!!よくも我を騙してくれたな!!貴様は簡単には殺さぬ!!』
勝手に騙された……と言うより、勝手にから回っていたお前が悪い。……そう思うが、わざわざそれを告げてやる必要も無いので黙っておく。
そんな冷めて目でジャバウォッキーを見上げる私の横に、勇者エイシャが降りてくる。
エイシャを見たミリヤは、声を弾ませて言った。
「エイシャ!!無事だったのね!!」
「ふっ。俺が無事なのは当然だ。それより……よくぞ無事だったな。ミリヤ……!」
「あったりまえでしょ!!?コウを置いて、簡単に死ねるもんですか!!……それと!!」
「当然マリフィセントも無事だ。安心しろ」
その言葉を聞いて胸を撫でおろすミリヤには悪いが、今はそれ所では無い。
「……エイシャ様……説明を……」
若干半眼でエイシャを睨み説明を要求すると、エイシャは少したじろぎながら答えた。
「あ……ああ。ジャバウォッキーが降参してきてな……。それにあいつは騙されたと言うから、それを確かめる為に奴と共に来た訳なのだが……」
………勇者エイシャは素晴らしい人物だが、毎度若干詰めが甘い気がする。そんな堕竜の言葉など無視して、さっさと討ち取ってしまえばよかったものを……。そうすればこの場がこんなに混沌としなかった筈だ……。
前回の戦いでも結局魔族を見逃したそうだし、この人のお人好し具合には困ったものだ……。
呆れのため息をつき、私はジャバウォッキーに吹き飛ばされたクロスを見据えて……。少し目を見開いた。
何故なら先程吹き飛ばされた筈のクロスの姿はすでに無く、私達が少し目を離した隙にクロスは逃げ出した様だ……。
今更逃げたところで……奴の行先など数える程しかない。……最早奴に逃げ道など無いと言うのに……。何とも往生際の悪い男だ……。
それにしても……本当にあの堕竜は奴の味方をしてしまったではないか。……どこまでも使えない堕竜だ……。奴自身ブレスによる土煙で、クロスを見失っているのだから……。
私は再度ため息をつき……隠れていたキーちゃんに目配せする。
キーちゃんはミリアと共にこの場について来た様だが、戦闘に巻き込まれない為に少し離れた場所でミリヤを見守っていた様だ。
私の視線に気づいたのか、キーちゃんが嬉しそうに私に向かって飛んでくる。そんなキーちゃんを見て、心が温かくなるのを感じながら……私は再度キーちゃんに思惑を籠めた視線を送る。
そんな私の意図を汲み取ったキーちゃんは、私達の周りに口から煙幕を吐き出す。……あの堕竜と違って本当に出来た魔物だ……キーちゃん!
「な……なんだ!?」
「キーちゃん!!?どうしたの!!?」
突然煙幕を張られて驚くミリヤと勇者エイシャを無視し、私は心の中のもう一つの命に問いかける。
───もう前回の戦いの傷は十分に癒えたでしょ?なら……彼の始末をお願い出来る……?
そう問いかければ……彼は苛立たしげに返してくれた。
───ちっ……俺は毎度毎度、後始末か……。
その通りだ。彼は始末屋だ……。今はコウが眠っている為、混じりっ気のない彼そのものが召喚されるが……彼に任せれば大丈夫だろう。
私は煙幕の中、目を閉じ彼と分離する。……そう、コウの中に居るもう一つの命……
だって……終わらせるのは、いつも彼なのだから。
◆
忌々しい
……俺は
甘ちゃんで、優柔不断。流されやすく、芯が無い……反吐が出るような小僧……いや小娘か……?
故に奴が
子供じみた悪戯だが……それで随分奴も苦労している様で、少し溜飲が下がっていた。
あの糞みたいな湖の女神に、こんな糞餓鬼に入れられたのだ……それ位してもいいだろう?そう思い、奴の心にもいつも苦言ばかり言っていた。
しかし前回の街で……俺は
毒を撃ちこまれて、全身が軋み悲鳴を上げながらも、最後まで歌い切った
俺の力を使い、強大な敵バエルに最後まで戦い抜いた
正直言ってしまえば、俺がもし
恐らく途中で戦闘から逃げてすらいたかもしれない……。
故に俺は、
だから……今回の汚れ仕事位はしてやろう。
感謝してほしいものだ……この俺がこんな下らない後処理をしてやる事を……。
だから……さっさと目覚めろ、
こんな面倒な事をするのは、お前の専売特許だろう?なぁ?……コウよ……!