最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
私は今、脇目も振らず逃げていた。
一体何からだ?
それは……突如襲っていた理不尽な非現実からだ!!
私を断罪すると、訳も分からず襲ってきたエイシャに聖女!!それから逃げたと思えば、今度は私の屋敷を焼き尽くしていたテロリスト!!そのテロリストに組していた、私の奴隷の筈のコウくん!!そしてあろうことか、そのテロリストに……聖剣を奪われたという現実!!今まで従順だったのに、突如牙を向いていたジャバウォッキー!!!
まるで悪夢だ!!なぜこんな事に!!?私が一体……何をした!!!?
………許せない……!!許せないィ!!絶対に……許せない!!!
全く罪もない私をこんな目に合わせる全てが許せない!!!
早く叔父上の所に行かなければ!!叔父上なら私を助けてくれる!!
そして……奴らを断罪してくれる筈だ!!
その一心で私は走り続ける……!!
「……そこまで哀れで無様や奴もなかなか居ないだろうよ……。大したもんだなぁ?……貴様は……」
そんな私の耳元に響く不気味な声……。
この世の全ての不吉を纏ったかの様な、低くくぐもった耳障りな声……!
一体……!?
私が慌てて振り返ると……そこには誰もいない……。
そして気付く。私はいつの間にか、スラム街の細い裏路地を走っていた様だ。
何時もならちらほらストリートチルドレンがいる筈の裏路地に……今は人っ子一人いない。
「だ……誰だ!!?姿を……現せ……!!」
この時私は何故、なけなしの勇気を振り絞ってそんな事を言ってしまったのだろうか?
逃げてしまえばよかったのだ。今の声など気にせず、さっさと叔父上の所に走ればよかったのだ。
私の問いかけに答える様に、私の前に現れた黒い靄。その靄が形を作っていき……漆黒の鎧を纏った騎士が現れた。
その黒い騎士を見た瞬間……私は腰が抜けて尻もちをついてしまった。
エイシャ……聖剣を奪ったテロリスト、雰囲気が変わったコウくん……そして……ジャバウォッキー。
私を襲った恐ろしい全ての者たちを合わせても、到底及ばない圧倒的畏怖……!見ただけで戦意を失う圧倒的恐怖!!……それをその黒騎士は纏っていた……!
「は……はひ……ひぃい!!たす……助けて……!!誰か……!!助けてぇええ!!!」
怖い怖いこわいコワイ!!!
「ふ……ふはは!!何とも情けない……!今の俺は本調子じゃないぞ?いつもの……二割にも力が戻っていないというのに、そんな俺に腰を抜かすとは……!貴様の様な奴が勇者などと……。くく!そうだったなぁ!!貴様は最早……勇者じゃ無かったんだったなぁ!!」
「あ……あああ!あああああああ!!!」
「……ふん、本当に情けない男だ。貴様に比べれば、小僧の方が幾ばくもマシに見えるな……。もういい消え失せろ……」
その言葉と共に、黒騎士の漆黒のランスが私の心臓を貫いていた。
「あ…ああ!!?ぎぃいい!!?」
痛い!!痛い!!痛いいいい!!
「ゆ……勇者が……!!勇者が変な黒い騎士に殺されてるぅ!!?」
私が黒騎士に刺されているのを、たまたま裏路地を通りがかったスラムの餓鬼が見て叫ぶ。
もう少し早く現れればよかったのに!!……まぁいい!!そんな事より私を……今すぐ助けろ!!
「ひいいいい!!」
だが……私の願いも空しくスラムの餓鬼は一目散に走り去ってしまった。……嗚呼……もうだめだ……。漆黒のランスが私の心臓から引き抜かれ……大量の血が……あふれ出す……。
「くく。また小僧の心労が増えるなぁ……。本当に……俺の悪評は止まる事を知らんな……」
死にゆく私に何の興味も持たず、全く違う事を楽しそうに黒騎士は言う。
嗚呼……嗚呼……一体何がいけなかったのだろうか?一体何処で歯車が狂ったのだろうか……?
段々と目が霞み、耳が遠くなっていく中……結局私は最後まで、何故殺されなければならないのか解らないまま意識を手放したのであった……。
◆
「くそ!!!クロスの奴……何やってんだ!!?」
俺は今自分のオフィスで苛立っていた。
何に苛立っているかって??そりゃ一つしかない!
今まで見て見ぬフリをしていた国王が、いきなり警備隊を連れて俺の組織を一斉検挙し始めやがった事だ!!
あの臆病者がいきなり重い腰を上げた事は素直に驚くし……何より違和感が半端じゃない。
一体誰があのボケカスのケツを叩いたのかと調べさせた所……なんとクロスの野郎、勇者エイシャを殺しそびれていたらしく、そいつが国王に圧力をかけてきやがったみたいだ!!
くそったれめ!!
おかげで俺が所有していた麻薬工場なども一斉に抑えられ、ラ・ローザ・ネーラの幹部の連中も大勢捕まっちまった!!
どいつもこいつも……許せねぇ!!俺様がこんな終わり方するなんざ……絶対にありえねぇ!!!
「ラザロ様!!失礼します!!今、『陽炎』最強の三人衆が集結した様です!!」
「おお!!やっとかぁ!!待ちくたびれたぜ!!」
部下が慌ただしげに俺の部屋に飛び込んできて、嬉しい報告をしてくれた。
ラ・ローザ・ネーラが誇る最強の暗殺集団『陽炎』。
十三人からなる暗殺達だが……その中でも最強の三人衆は他の連中とは一線を画す実力者達だ。
俺はまだ負けちゃいねぇ!!
クロスと三人衆さえいれば……生意気な隣の国の王子勇者野郎も俺を裏切った国王も……纏めてブチ殺してやれる!!まぁ国王はまた脅して言う事聞かせなきゃいけねぇから、生かしておいてやるが……。
それでも今回の落とし前はつけさせて貰うぜ!!
少なくとも国王の家族の中の誰かに……不幸が舞い降りる事になるだろうなぁ!!?
「くくくく。そうだ……俺らしくねぇ、何を焦ってたんだ?俺はまだ……何も失っちゃいねぇんだよ!!!」
そうだ!!
国王を脅せばまた麻薬工場も再開できるし、幹部の連中も無罪放免に出来る!!
ちょっとしたアクシデントはあったが……何の問題もねェぜ!!!
俺はようやくいつもの冷静さを取り戻す。
そしてふと気づく。何時になったら三人衆の連中は現れるんだ?
「おい!三人衆はいつ来るんだ?さっさと連れて来い!!」
「へ?あれ!?可笑しいですね!?すぐに呼んできます!!」
そう言って慌てて部屋から出て行く部下に、俺はため息をつき葉巻に火をつける。
あとは……クロスも呼んでこれからの計画を考えなくちゃなぁ?
そう思い、高級な椅子に体を預け葉巻を吸っていると……部屋のドアがノックされた。
どうやらようやく三人衆が到着した様だ。
「ったく!!何時まで待たせてやがる!?さっさと入ってこい!!」
俺が返事してやると、部屋の扉がゆっくりと開かれる。
そして姿を現したのは……三人衆のリーダー、バイオレットだった。
「おお!バイオレット!!随分と遅かったな!さあ!さっさと入って……!!!」
俺の言葉が終わるのを待たずに、バイオレットはそのままうつ伏せに倒れる。
な……なにが……!!?一体どうしたってんだ!!?
突然倒れたバイオレットに、俺が混乱していると……一人の大男が扉からぬっと現れた……!
「ドゥフフwwwどうやらバイオレット氏はログアウトされた様でござるなwwwドプフォwwwログアウトってwwwメタ発言www失敬失敬www拙者まだこの世界に無い言葉を使ってしまったでござるwww」
訳の分からない事を言いながら、俺のオフィスに入ってくるイカレタ男を見て俺は……ようやく自分が詰んでいると悟るのであった……。