最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
めっちゃ怪しい名探偵ホズム・エドワードさんの自己紹介に俺は非常に困っていた。
相手から名乗られたのだ、普通に考えれば自分も名乗らなければいけないんだけど……この怪しい人に、名乗っていいのかどうか迷っていた。
俺は隣のソフィアにどうしようかと視線を投げかけるが……その視線の意味を解っているのかいないのか、ソフィアは俺の視線に気づいてニコリと笑うと口を開いた。
「どうしたの?コウ?」
あ!ソフィアが俺の名前言っちゃった!やっぱり俺の視線の意味に気付いてなかった!
「おお!銀髪のお嬢さんはコウさんと言うのですね?なんとも貴女に似合った可愛らしい名前だ!では……金髪のお嬢さんのお名前は?」
「貴方に名乗る必要などない……」
えええ!!?
俺の名前は相手に知られちゃったのに、自分は名乗んないの!!?
「あはは!これは手厳しい!ふうむ……これは仕方ありませんな。まぁこの旅館の宿泊客ならまた逢う機会もあるでしょうし、ここは退散しておきましょう。では金髪のお嬢さんと……コウさん。また会いましょう!」
はっはっはっは。と笑ってホズムさんを俺は呆然と見送るしかなかった。
なんて言うか……どう考えてもめんどくさそうな人に名前知られちゃったなーー。
って思って落ち込んでいると、受付をしてくれていたマリィが帰って来た。
「コウ様?どうされました?表情があまり優れないようですが……」
「あ……。いえ……いま
「名探偵??まぁ……それはそれは?」
いきなり訳の分からない事を言われてマリィも困惑したように頬に手をあてる。
まぁ……知られちゃったのはしょうがないし、そんな事でクヨクヨしててもしょうがないしな!切り替えてこ!!
と、無理やり意識を切り替えた所で、ある事に気付く。
俺の前に立っているのはマリィだけで、エイシャとミリヤが居ないのだ。
あれ?ミリヤとエイシャは……。
そんな俺の視線に気づいたのか、マリィがニコリと笑って口を開いた。
「エイシャ様とミリヤ様でしたら、オーナー様に呼び出されてしまいましたわ。やはり……足止めを受けたせいで遅れてしまって、あちらとしても焦っている様ですわね……」
「あ!地竜の……」
「ええ。何でもつい先日にも地竜がこの辺りで発見されたみたいで、少々動きが活発になっているみたいですわね……」
それは大変だな。
だとするとミリヤとエイシャは直ぐにでも仕事に取り掛かるのだろう。
俺としてはミリヤとゆっくり温泉を楽しめないのは結構残念だけど……かといって俺が我儘言ってる場合では無いのは解ってるので、黙っとく。
「ふふ。コウ様……顔に出てますわよ?ミリヤさんとゆっくり出来ずに残念だ……と」
「ふえ!?本当ですか!?」
俺ってそんなに顔に出やすいかな!?恥ずかしい!!
「安心してくださいな?もし仕事が上手くいけば、報酬として滞在時間を延ばして下さるそうなので、その時にミリヤさんともゆっくりとされればいいですわ!」
おお!オーナーさん太っ腹!!
でもここの旅館人気らしいけど、滞在時間増やせるのかな?俺達は男子部屋と女子部屋×2の三部屋も抑えてるみたいだし……。
「ふふ。馬車でも言いましたけど、地竜がこの辺をうろうろしていると少しだけ噂が立っているそうで、キャンセルが相次いでいるらしいんですの。最近は手紙での予約ではなく、通信用魔道具も大分普及していますし、この旅館に予約される方は大抵そういった魔道具を所持されている様なお金を持った方が多いですから……。予約も簡単に出来ますし、逆に言えばキャンセルも簡単なのですわ」
なるほど!
手紙とかの予約だと、キャンセルとかまた手紙で送んなきゃいけないから時間もかかるし大変だけど、通信さえ取れれば予約もキャンセルも簡単なのか!
そして地竜がうろついてる噂なんて、そういった部類の人……つまりお金を持った人たちの耳に入るのは早いだろうし、そんな危険な時期に無理して来る必要も無い訳だ!
うーん。その辺は大分前世に近い感覚だな!やっぱり電話って便利!
「ですから……滞在時間を増やしても問題ないそうなんですのよ?ふふふ……安心なさいましたか?コウ様?」
「はい!ありがとうございます!マリィ様!」
俺は笑顔でマリィにお礼を言う。
本当にマリィは……気が利くし頼りになる!
王都でのゴタゴタで大変だろうけど、ついて来てくれて本当にありがたいです!
「では……お部屋に行きましょうか?案内の方が来てくださっていますから」
「はい!ソフィ、行こう!」
「うん」
俺はキーちゃんが入っているケージを手に持つと、マリィについて行くのである。
因みにこの旅館、部屋ではペット同伴可(非常に頭脳が高いペット及び使い魔のみ)なのだが、こういったエントランスなんかでは、ケージに入れておかなければいけないらしい。
ケージの中ですやすやと寝息を立てるキーちゃんを起こさない様に、両手(右手は添えるだけ)でそっとケージを抱えて俺はマリィとソフィと共に旅館のお部屋へと足を進めるのであった。
◆
「わぁあ!」
「キー!」
俺とキーちゃんは今、あんまりにも豪華な部屋に感動していた!
話には聞いていたけど……ホントにめっちゃ豪華な部屋だ!!
その広さ!作り!そしてこだわりのお庭!!とにかく全てが凄い!!
そんな感じではしゃぐ俺とキーちゃんを、ソフィアは微笑んで見ている。
因みに……部屋はソフィアとの二人部屋だ。両隣の部屋がエイシャの部屋と、ミリヤとマリィの部屋だ。
ソフィアはまだミリヤ達に慣れていないだろうからという配慮からだが……まぁ俺はこの三人なら誰でもいいので問題ない!
ソフィア本人も言う様に、捕まって奴隷の首輪をつけられていたから本領は発揮できなかったそうだが、本来のソフィアは結構強いらしい。
そしてそれは自称では無い様で、一目見ただけでエイシャがソフィアは強いと明言したので本当の様だ。
だからソフィはミリヤやマリィに代わって俺の護衛も出来るそうなので、俺と二人部屋になってもミリヤ達は安心らしい。
「こんな素敵な部屋に泊まれるなんて……嬉しいね!ソフィ!キーちゃん!」
「ふふ……。そうだね?コウ」
「キーー!!」
優しく笑うソフィアと、俺と同じようにはしゃぐキーちゃん。
そんな一人と一匹に俺も笑顔を作りしみじみと思う。
クロスに捕まったりして大変だったけど……無事に旅館に辿り着けて本当に良かった!!
そんな想いも籠めて、俺とキーちゃんが部屋を探索していると、ソフィアが俺の肩を叩いて言った。
「コウ。じゃあ……癒しの湯に行こうか?」
癒しの湯!!
そうだ!!浮かれててすっかり忘れてたけど……今回の宿泊の目的は俺のこの思う様に動かない右腕の治療だった!!