最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
私はともかく……エイシャほどの実力者が、この間合いまで魔物を近寄らせて気付かなかった事に単純に戦慄する。それ程までに、
地竜は成体で三~四メートル程の大型な魔物だが、その大きさですら
恐らく旅館の人や国の警備隊の人達は、その見た目と大きさで地竜と勘違いしたのだろうが……なるほど、相手が
恐らくだが……一跳びで私達を狩れるのか、思案しているのだろうが……そんな
幼体がいるということは、間違いなく成体もこの山に生息しているだろうし、もしここでこの幼体を狩ってしまえば成体がそれを察知して襲い掛かってくるかもしれない。
十数メートルを超える巨体の成体が今私達に襲ってくれば、近くの旅館に被害がいくかもしれないし、恐らく番いであろう
私は
「どうする……?刃竜が出てくるなんて想像してなかったけど……ここでこの幼体だけでも狩っとくの?」
「………思った以上の大物が出てきたな……。だが、成体であろうと恐らく俺達ならば問題ないだろうが……戦闘の規模が大きくなるかもしれん。もし取り逃がしでもしたら旅館も危ういし……ここはこの幼体を逃がして巣を見つける必要があるな」
やはりエイシャの考えは私と同じみたいだ。
彼らは野生のハンターだ。
私達がこの幼体を相手している間にも、もしかしたら私達を観察しているかもしれない。
幼体ですら気配に気づくのにここまで近づかれたのだ。
成体は非常に大型だが、それ以上に気配を消すのが上手い。故にその巨体に気付いた時には既にあの世……なんて事もザラだそうだし、迂闊な事は出来ない。
「ミリヤ、その阿保竜と共に一度旅館に戻れ。俺はこの幼体を少し脅して巣へ逃がす。だが……地竜も獰猛だが、奴らの恐ろしさはその比では無い。今まで旅館で犠牲者が出なかったのが不思議なぐらいだ……。故に旅館の人間に、今は旅館でじっとして動くなと伝えてくれ」
「……了解。エイシャも油断は禁物よ?」
「ふっ……誰にものを言ってるんだ?」
エイシャはニヒルにニヤリと笑うと、
幼体はその矢に少しビクリとして……踵を返し森の奥へと消えていった。
エイシャはそれを追いながら、私に言う。
「行け!刃竜は俺に任せておけ!」
例えエイシャが巣を見つけても、直ぐには戦闘は出来ないだろう。
だから今日は巣の特定に止めておき、改めて準備をして確実に仕留める必要がある。
私はエイシャが幼体を追って森の奥に消えたのを確認して、旅館へと走った。
◆
そして旅館へ戻って来た訳なのだが……何故かエントランスで皆が集まっていたのだ!
その中には当然コウ達もいて、なにやら不安げにしている。
「コウ!!?なんでここにいるの!!?」
私がコウに話しかけると、コウは驚いて私に言った。
「お姉ちゃん!!?ど……どうしたんですか!!?」
「ちょっとトラブルがね……。ていうか大変な事になっちゃって……。で?コウはなんでエントランスにいるの?ていうか……なんで皆エントランスに集まってるの?」
コウは私の言葉に愕然として固まってしまった。
そんなコウに替わって、コウの隣に座っていたマリィが事の経緯を説明してくれる。
「……という訳で、私達はエントランスに集められた訳なのです」
「殺人って……こっちも大変な事になっちゃったわね……」
私はマリィの話を聞いて、頭痛がするのを感じていた。
今、この旅館の外に居るのは非常に危険な刃竜だ。
だから安全なこの旅館で、刃竜を狩るまでは居て貰おうと思っていたのに……その旅館すら今や安全ではないのだ!何故なら殺人を犯した犯人はまだ捕まっていないのだから……!
前門の虎、後門の狼とはよく言ったものだ。
この状況下でどう動くのが最適なのか、混乱する頭で考えるが……どっちに転んでも危険なのは変わりがない!!
「ミリヤ様……。それで、其方は一体どんなトラブルがあったのですか?」
「え?……ああ……えっと……」
旅館の状況を説明してくれたマリィが、今度はこっちのトラブルを聞いてくるが……どうしよう?この状況で、エントランスに集まった人達全員に今の外の状況を伝えるべきなのだろうか?
正直これ以上混乱を招く様な事を言っていいんだろうか?もう少し……落ち着いた状況で、説明した方がいいのだろうか?
「おい!!あんたこの辺の地竜を狩りにきた冒険者だろ!?地竜はもう駆除出来たのか!?だったら……俺達はこんな旅館さっさと出て行くんだがな!!」
私がどうしようかと悩んでいると、若い男が声を荒げながら私に話しかけてきた。
「地竜は……まだ駆除できていないわ。ちょっと面倒な事になったから……」
「はあ!?ふざけんなよ!!適当な仕事してんじゃねぇぞ!!」
「ちょっと!!スティーブ!!やめなよ!!」
男は連れであろう女性に止められるが……そんな事お構いなしに私の肩を掴んでさらに声を荒げる。
「さっさと地竜を狩りに行って来いよ!!こんな所で油売ってないで……ぎあああ!!?」
「スティーブ!!?」
私は肩を掴んできた男の手を掴み、捻り上げて口を開いた。
「面倒な事になったって言ってんでしょ?それとも耳がついてないの?こっちは一応専門家なんだから、素人が口出してんじゃねぇわよ」
「あ……がが!!て……てめぇ!!」
「大体、あんた地竜がこの辺うろついてるって知っててこの旅館に来た口なんでしょ?地竜が居るって知っててなんでわざわざ来たのかは知らないけど、そういったリスク込みでこの旅館来てんなら……地竜の事でいちいち突っかかってくんじゃないわよ。それとも……そういったリスクすら解んない馬鹿だったの?だったらごめんなさいね?悪いけど……馬鹿の相手してる暇ないの」
そう言って男を突き飛ばすと、男は私を睨んで何か言いたげだったが……連れの女に肩を叩かれ口を噤んだ。
そんな男たちを見て、私は意を決する。
そうだ。此処にいる大半は地竜がこの旅館の周りにいると知って来ている筈なのだ。
ならばある程度のアクシデントは想定内だろう。……想定内ということにする!!
私はエントランスに集まった人達をぐるりと見渡す。そして……口を開いた。
「殺人があって大変な所悪いけど、外でもトラブルがあったの。本来なら先にオーナーに確認を取って言うべきなんだろうけど、状況が状況だし今言うわ!……今この周りをうろついている魔物は地竜じゃない。
私の言葉に、ある者は息を飲みこみ、ある者は良く解らないと首を傾げる。
そんな人たちの中で、首を傾げて頭の上に疑問符を浮かべているコウを見て私は笑みを作ってしまう。しかし……すぐに気を取り直して口を開いた。
「だから……悪いけど、あなた達はしばらくこの旅館から動かないでもらうわ!!」