最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由   作:でかそう

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第136話 忌々しい者ども(魔族シトリー視点)

 私は急いで白銀の(エンシェント)ドラゴンの後を追いながら、心の中で憤りを感じていた。

 

 私が見舞われた第二のアクシデント。

 それはこの旅館での殺人事件である。

 

 しかしこの殺人を当初私はチャンスだと思っていた。

 私は秘石を手に入れる為に、この旅館のオーナーを殺害するつもりだったから、その罪もついでにその殺人犯に着せてしまおう……そう思ったのだ。

 

 しかし……あの忌々しい探偵!!

 あの探偵のせいで私の計画は全て台無しになってしまった!!

 

 思い返しただけでも腸が煮えくり返りそうだ!!あの探偵の腹立たしいニヤケ顔!!

 

 でも……それも此処までだ!!

 今この旅館には巨獣(ギガント)刃竜(サーベルドラゴン)の群が突入していてこの旅館の人間達……あの糞忌々しい探偵に、気持ち悪い聖女!!ついでに冒険者の女と……私を攻撃してきやがったエルフ纏めて皆殺しにしてくれる筈だ!!

 

 そう思うと少しは溜飲が下がる。

 私は少しだけ冷静さを取り戻し、目の前の事に集中する事にした。

 

 今大切なのは白銀の(エンシェント)ドラゴンだ。

 あの女さえ殺してしまえば次の勇者は現れないし、今いる他の勇者達も力を失う。

 

 だからこそ確実に!!絶対にこのチャンスをものにしてみせる!!

 

 そう思い更に足を速めようとして……無様に息を切らせながらトロトロと走っている白銀の(エンシェント)ドラゴンを見つけた。

 

 こいつ……いくら何でも遅すぎないか?

 この雑魚が走り出してどれくらいで私の意識が覚醒したかは知らないが、それにしても遅すぎると思う。

 

「……随分と苦しそうね?……大丈夫?介抱してあげようか?」

「!!!……はひ……ふひ……け……結構……です……!!」

 

 後ろから一突きで殺せる間合いまで近づき……私は白銀の(エンシェント)ドラゴンに話しかけた。

 

 普通に考えればそのまま殺してしまったほうがいいとは思うのだが……もし、万が一このトロ過ぎる走りが演技だとしたら……と、警戒する思い。だがそれ以上に……この糞アマをいたぶって殺してやろうと思う気持ちが強かったからだ。

 

 何時もの私ならば考えられないような、合理性を完全に捨て去った行動だが……今の私はそんな合理性などよりも、八つ当たりにも近いこの気持ちが勝っていた。

 

「ふふふ。そんなに嫌がらなくていいじゃない?そんな息も絶え絶えで……可哀そうだわ?だから……お姉さんが助けてあげるって……言ってるのよ!!!」

 

 その言葉と共に白銀の(エンシェント)ドラゴンを蹴り飛ばす。

 

「あぐ!!!」

「キーーー!!!」

 

 白銀の(エンシェント)ドラゴンが苦悶の声を上げ……腕の中にいたヴェネア様が悲痛の叫び声を上げる。

 なぜヴェネア様がそんな声を上げるのだろうか……?

 

 ヴェネア様……。私が敬愛する元上司の魔族。

 現魔王様に作り出された魔族の中で、彼女ほど優秀な魔族は他に居なかったと言っても過言では無いほど、頭脳、戦闘能力共に圧倒的なお方だった。

 

 殺されたと思っていたが、まさか小さな魔物に生まれ変わって難を逃れていたとは……さすがはヴェネア様と感心していた。

 そしてヴェネア様に念話で言った彼女の力を取り戻すと言う話だが、あれは決して嘘ではない。

 

 秘石の力があればヴェネア様が力を取り戻すのは可能なのだ。

 故に一度ヴェネア様には私達の元に戻って貰って、魔界に還り秘石の力を使って元の姿に戻って貰うつもりだった。

 

 ヴェネア様は自分を殺した黒騎士と……その原因を作った白銀の(エンシェント)ドラゴンを大層恨んでいるだろう……そう思っていたのに……。

 なんだ?今の悲痛な叫び声は?それはまるで……白銀の(エンシェント)ドラゴンを心から心配している様で……!!!

 

「っつ!!!その魔物……貴女には不釣り合いだから、私が貰ってあげるわ?……そうだ!!貴女もう解ってるんでしょ?私が貴女を殺しに来たって……!!でも、その魔物を私にくれるなら……生かしてあげてもいいわよ!?」

 

 私は一体何を言ってるんだ?

 ヴェネア様を差し出そうが、差し出すまいが……私は白銀の(エンシェント)ドラゴンを殺す。

 

 でも……気に入らなかったのだ。

 ヴェネア様に心配されている白銀の(エンシェント)ドラゴンが!!

 

 だから少しでも私の気を晴らすため、白銀の(エンシェント)ドラゴンが命惜しさにヴェネア様を手放す姿が見たくなったのだ!!

 

 だがそんな私の気持ちに反して白銀の(エンシェント)ドラゴンは……!

 

「いや……です……!!」

「キー……」

 

 ヴェネア様を強く抱きしめ、拒絶してきやがった!!!

 

 このクソアマぁ!!!

 もういい!!こんなゴミをいたぶって殺そうなんて考えてた私が馬鹿だった!!!

 

 今すぐ……今すぐに殺してやる!!八つ裂きにしてやる!!!

 

「そう……!なら……もう死になさいよ!!!」

 

 そう言ってワザと恐怖を煽る様に、高くナイフを振り上げる!!!今から自分が死ぬという恐怖に怯えながら、死にさらせ!!!

 

 そう思い、ナイフを振り下ろそうとして……

 

「キーちゃん!!お願い!!!」

「キーーーー!!!」

「なぁ!!?」

 

 あろうことか、ヴェネア様は口から煙幕を吐き出しそれを阻止したのだ!!

 

 なんで……なんでヴェネア様が私の邪魔をするの!!?

 

 私は思いもしなかったヴェネア様の行動に混乱して、完全に固まってしまう……!!

 

 そんな私を無視する様に白銀の(エンシェント)ドラゴンは立ち上がり……そのまま姿を消した。

 

 ……なんて思っているのか?

 煙幕で上手く逃げれるとでも……思っているのか!?

 

「甘いんだよ糞アマぁ!!!」

 

 私は元々姿を消し、暗闇に紛れて暗殺するのが最も得意な魔族だ。

 故にこれ位の煙幕でターゲットを見失ったりなど……しないのだ!!

 

 糞アマは私が完全に自分を見失ったと思っているだろうが……お前の行動は手に取る様に解るんだよ!!

 

 奴はまた走り出し、廊下の突き当りを左に行った!!

 その先にあるのは……この旅館の名物・癒しの湯……だ!!

 

 馬鹿なの?

 この状況で温泉なんかに浸かりたかったの?

 

 それとも……この旅館のマップすら頭に無い状態で逃げ回っていたのだろうか?

 どちらにせよ行き止まりだ……そこが……お前の命のゴールとなるのだ!!

 

 私は奴の恐怖心を煽るため、姿を消さずそのまま走って追う。

 

 じわじわと追いつめられるネズミの様に……殺してやるよぉ!!白銀の(エンシェント)ドラゴン!!

 

 私が走るとすぐに糞アマに追いついた。

 

「ふふふ。なぁに?最後の思い出に、この温泉に浸かりたかったのぉ?」

 

 私はわざとらしく白銀の(エンシェント)ドラゴンに話しかける。

 まぁこの状況で温泉に入る……なんて選択肢は無い……絶対に。

 

 故に温泉の前に白銀の(エンシェント)ドラゴンは立ち止まり……

 

「はい!!そのつもり……です!!!」

 

 そのまま温泉へと飛び込んだのだ!!

 

「……はぁ!!?ちょ……なに考えてるの!!?温泉に入った所で……あんたを見失う訳ないでしょ!!?馬鹿なの!!?」

 

 思わず声を上げてしまう!!

 だって可笑しいだろ!!?この状況で温泉に入る馬鹿がいるなんて……思わないだろ!!?

 

 そう思い温泉に近づいた瞬間!!!私は今まで感じた事も無いほどの圧倒的威圧感に気圧されてしまう!!

 

 な……なんだ!!?この威圧感は!!?

 白銀の(エンシェント)ドラゴン!!?いや……これは違う……!!これは……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「く……くくく……くはあははははははは!!!!」

 

 温泉の中から、地獄から響いた様な、暗く……恐ろしい嗤い声が木霊する……。

 

「いやぁ……癒しの湯とは本当に良く言ったものだ……。完全復活とまではいかなくとも、六割程かな……?なかなかに力が戻ってきたよ……」

 

 そう言って温泉の中心から現れる黒い影……。

 

 あれは……あの姿は……!!

 

「さて……ようやく真打の登場というものだ……。悪いが脇役には早々にご退場願おうか?……なぁ?魔族よ……」

 

 私を馬鹿にする様な、嘲った嗤い声を含みながらそう言ってのけた私の……私達魔族の死の象徴。

 

 最強の魔族バエルをも退けた怪物……黒騎士が、今私の目の前に現れたのだった……。

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