最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
運命の出会いとは、どういう時の事を言うのだろうか?
今までそんな質問されたら、私は答える事なんて出来なかったと思う。
でも……今の私にはっきりと解る!!なぜならこの日……私は運命に出会ったのだから……。
◆
ガタンゴトンと馬車が揺れるたびに、募る思いがどんどん大きくなっていく。
まだかまだか……そう思い弾む気持ちで馬車に揺られる。
そんな浮かれている私に気付いてか、御者が微笑んで声を掛けてくれた。
「お嬢さん……この山を抜けたら、もう王都ですよ」
「ありがとう!はぁ……楽しみだわ!私、帰省するの三年ぶりなのよ?本当に楽しみだわ!」
「あはは!そりゃ楽しみでしょうな!……でもお嬢さん気を付けてくださいね?今王都は……勇者様が亡くなって、ちょっとゴタゴタしてるみたいですから……」
御者の言葉に私は驚愕する。
この国の勇者といえば、剣の勇者クロス・エンデヴァだ。
ラグノアシティを拠点にこの国の代表として活躍する彼が……お亡くなりになっていたなんて……。
でも……正直彼の所業はどうかと思っていた。
高飛車で素行が悪く、非常に気まぐれで……有体に言えば性格が悪い人。
彼のせいで私の友人も酷い目にあったそうだし……正直あのお方が亡くなって、悲しいと思う人間はこの国に何人いるのだろうか?
そんな事を思っていると……突然雨が、ぽつぽつと降って来た。
さっきまであんなにいいお天気だったのに……山の天気は本当に変わりやすいわ……。
「ありゃ……こりゃぁ……あんまり天気が悪くなる前に、王都まで到着したいですなぁ……」
そう言う御者に私も同意しようとして……当然天地がひっくり返った!!
「きゃあ!!!?」
なに!?何が起きたの!?
私は訳も分からず、突然馬車から投げ出され……そのまま地面を転がり全身泥まみれになる。
「うう……いったい……何が……!?」
あちらこちら擦りむけて、痛む体で起き上がり辺りを見回すと……そこにはいつの間にか、大勢の男の人達が私を取り囲んでいた!
「ひ!あ……あなた達……いったい……!!」
「………アナスタシア・モンルミエールだな?」
私の質問を無視して、男たちのリーダーの様な人が私に問いかける。でも……私の名前はアナスタシア・モンルミエールなんて名前じゃないわ!!
私の名前はシスタ。
王都一の学園、フォストニア学園の学園長の娘……シスタ・フランソワだ!!
「私は……アナスタシアじゃないわ!!シスタよ!!」
私がそう言ってやると……男は興味なさそうに答えた。
「どちらでもいい。どちらにせよ……お前を殺すだけだ……」
「!!!?」
殺す!!?
この人たち……私を殺す為に馬車を襲ったの!!?……そんな……!!!
そんな私の驚愕などお構いなしに、男は剣を振り上げる……!!
自慢じゃ無いが、私は戦闘なんてしたことはない。当然と言えば当然だが……。
私は貴族生まれなので、魔力は備わっているみたいだが……小さい時から勉強しかして来なかった私は、魔術になど触れた事もなかった。
父に憧れて教師になる事が夢だった私はその為に勉学に励み、つい最近までフォストニア学園の教師になる為に、一度王都を離れて小さな町の学校で教師の研修をしていたのだ。
急遽諸事情で教鞭を取れなくなったというマクシエル先生に替わって、この度フォストニア学園の普通科四年生の臨時教師として王都に戻っていた訳なのだが……これまでの人生で武術など学んだ事はなかった。
故に……男が振り上げた剣をどうにかする事など出来はしないし、振り下ろされればそのまま私が死ぬ事など解り切っていた。
「きゃああああああ!!!」
大声を上げても意味が無いのは頭では解っているのに、人はこんな状況だと叫ぶことしか出来ないんだなと、他人事の様に冷静に想う自分が居た。……まぁどちらにせよ、私は終わりな訳だが……。
そうして、今正に死の刃が私目掛けて振り下ろされようとした……次の瞬間!!
眩い光と雷が、私を襲っていた男達を飲み込んでいった!!!
「な……な……」
私は何が起きたのか理解できず、腰を抜かしてへたり込んでいると……私の元へと走り寄ってくる赤髪の女性が目に入った。
彼女は今の雷から辛うじて避けた、残りの男達に瞬時に駆け寄り……一瞬で切り伏せて見せたのだ!!
その様子を私は呆然と見ていると……彼女の奥からこっちへ走ってきている一人の少女と目が合ったのだ。
その瞬間……私は今の状況も忘れて、雷に打たれた様な衝撃を受けていた!!
それは何故か……?それは……私が彼女を知っていたからだ!!何故なら……彼女は……彼女は……!!!
「コウちゃん!!?」
そう!!
つい二カ月前、首都セントラリアで行われてアイドル達の祭典セントラルステージ。
そこで優勝したグループ
セントラリアに住んでいる私の親友で、
私は親友と違ってアイドルに詳しい訳ではなかったのだが……そんな私をも虜にしてしまう圧倒的アイドル力!!それを彼女は持っていた!!
非常に残念なことに、体調不良が原因で一曲しか彼女は披露出来なかったが、たった一曲で私の心は彼女に奪われてしまったのだ!!
しかしその後、コウちゃんは体調が戻らなかったらしく引退……。しかも何とその後、体を癒す為セントラリアからも姿を消してしまったらしいのだが……まさかこんな所で彼女に出会えるなんて!!
今やセントラリアで、彗星の如く現れて消えて行った彼女は伝説とされているらしい。
その伝説のアイドルが……今私に向かって駆けてきている……!!
これは……私の夢?
実は私は既に男に殺されていて……そんな私が今際の際に見た都合のいい……夢なの!!?
そんな混乱している私に、さっき一瞬で男達を切り伏せた女性が話しかける。
「大丈夫!?雨が降ってたから……ちょっと威力弱めて撃ったけど、巻き込まれてないわよね?」
今ので手加減して撃ったの!?この人……一体なにものなの!?
私は一瞬で現実へと引き戻され、赤毛の女性の問いにしどろもどろになりながら答える。
「え……あ……はい……。私は……怪我がありません。あ!!御者!!彼は……!!」
「大丈夫です」
私と同じように馬車から投げ出されているであろう御者の安否を心配すると……私の脳天に鈴を鳴らす様な美しい声が鳴り響いた。
「この人は……怪我していましたけど、今癒しました……」
え?癒した??
それって……歌とか……声とかで……!?傷を癒したの!?それとも御者の心を癒したの!!?
「ありがとう!じゃあコウ。悪いけど……彼女も癒してあげてくれる?ちょっと擦り傷とかあるみたいで……」
「分かりました!」
赤髪の女性の言葉に、コウちゃんは頷くと御者から離れて立ち上がり……私に向かって駆けてくる!!
ああ……嗚呼……!!
どうしよう!!どうしたらいいの!?私もコウちゃんに……癒しの歌声をプレゼントして貰えるの!!?
親友が聞いたら多分卒倒するようなサプライズだ!!やっぱり……これは現実じゃ無いのかしら!!?
そんな混乱する私など、お構いなしに……コウちゃんは私の目の前までやってきた。
「すみません。力を抜いてリラックスしてください……。すぐに終わりますから」
「は……はひ!!」
やばい!!緊張と焦りで変な声でたわ!!
そんな私にコウちゃんを首を傾げると……あ!っと声を上げて優しく微笑んだ。
「大丈夫ですよ?痛くありません……。だから……ね?」
「ふ……ふああああああ」
ねっ……て。
その微笑みと、優しい声色に……私の心はもう癒されたわ……。
「え!?ちょ……大丈夫ですか!?あ……お姉ちゃん!!支えてあげて!!雨降ってるのに地面に横たわったら風邪ひいちゃう!!」
「え!!?ちょっとコウ!!?ど……どうしたの!?」
そんなコウちゃんと女性の声を遠くに感じながら……私の意識はそのままフェードアウトするのであった……。