最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
「落ち着いたらどうだ?フランソワ卿。娘が心配なのは解るが、警備隊の者たちも貴殿の娘に害を加えるつもりなど無いだろう……」
目の前で繰り広げられるごたごたに、警備隊のお偉いさんに助け舟を出す様にエイシャが口を挟む。
そんなエイシャをフランソワさんは睨みつけると口を開いた。
「君はだれだね?悪いが今私は彼と話しているのだが……。余計な口は挟まないでもらおうか?」
「それは失礼したな。俺の名はエイシャだ……。ラヴァダイ王国のエイシャだ」
エイシャの自己紹介に、フランソワさんは驚いた様に目を見張る。
……どうでもいい事なんだけど、この国と違ってエイシャの国……つまりミリヤ達の生まれ故郷のラヴァダイ王国ってファーストネーム無いよね?そういや……。あったっけ?俺が知らないだけ?
なんてどうでもいい事を考えてる俺を余所に、フランソワさんはエイシャに畏まって言った。
「隣国の王子様でしたか。知らぬとは言え無礼を……。お許し下さい……」
そう言って深く頭を下げるフランソワさんをエイシャは手で制して言った。
「別に構わない。俺も別に自分の身分をひけらかす気も無いしな。……ともかく、一度落ち着いたらどうだ?フランソワ卿。貴殿の娘の取り調べ室に、今俺も呼ばれた所だ……」
「エイシャ様も?……承知しました。ならば……私もそれにお供しましょう……。……君、先程は悪かったな……。では、娘の元まで案内したまえ」
「あ……え……はぁ……解りました……」
エイシャには敬意を表してたっぽいけど、警備隊のお偉いさんには全然謝る気が無い態度でフランソワさんは一応謝る。
お偉いさんはその謝罪を冷や汗をかきながら受けると……フランソワさんに促されるままに、エイシャとフランソワさん……そしてマリィを引き連れて取調室まで向かうのであった。……ん?なんかホズムさんもそれについて行ってない?
「コウ。悪いがもう少し待っていてくれ。……ミリア!二人を頼んだぞ……」
「はぁ……分かったからさっさと行ってきて?」
エイシャは俺達にそう言うと警備隊の人の後について行く。
そして残された俺達三人は、それを見守るしかないのであった……。
◆
「アナスタシア・モンルミエール……だと?モンルミエールと言ったら確か……」
「ええ。エルセリオ王国の先代の国王陛下、クライヴ・モンルミエール陛下と同じファーストネームですわね。ですがかの国王は処刑され、その一族は……逆族として根絶やしにされたと聞きますわ」
「……」
「そしてその時の侯爵家の……現国王陛下がその後王座に就いた……。それで合っていますか?フランソワ卿?」
「……その通りです……聖女様。なぜ娘がかの王の血筋のモンルミエールと間違われたのか……私には分かりませんが……」
「なるほどな……流石に処刑された王族のファーストネームが出てきたとなると……警備隊では手に負えんか……。この事は聖王騎士協会には?」
「いえ……どうしたものかと思いまして、勇者様にお伺いを立てようかと……」
「なぜですかな?わざわざ隣国の勇者にお伺い立てる必要などあるんですか?」
「……なぜ貴様がここにいるんだ……マキシモ。お前は呼ばれてないだろうが」
「私はホズムですよ?エイシャさん!……何故私がここにいるのかって!?それは……事件の匂いがしましたからな!!事件ある所に名探偵あり!!……ですよ!」
………んん?
これは……取調室でのエイシャ達の会話かな?……なんで聞こえるんだろ?
「とにかくこの件は、勇者とはいえ流石の余所者の俺達には対処できん。……まぁ国境関係ない聖女様は別かもしれんがな?」
「勇者も国境は関係無い筈でしょう?……ですが……まぁまずは聖王騎士協会に話を通すべきかもしれませんわね?なぜ山賊がモンルミエールの名を出したのか。それとなぜシスタさんと勘違いしたのか……。聖王様ならば何かご存じかもしれません。……そういえば、ミリヤさんが打ち倒した山賊には、確か生き残りが居た筈ですわよね?その方々はなんと……?」
「それが……口を割る前に皆……自殺してしまいました……」
「!!!」
「自殺……だと……?」
ええ……。なんかきな臭い話になってきたな……。
「どうやら自殺用の毒物の様な物を隠し持っていた様で……」
「……山賊如きが自らの命を躊躇いも無く捨てるとは到底思えん。そいつらは……山賊では無かったのだな……」
「そうでしょうなぁ……。恐らく訓練された殺し屋……ないし始末屋といった所でしょうな」
「とにかく今日は俺達が彼女を護衛しよう。それならば万が一という事もあるまい……。それでいいか?フランソワ卿……」
「……勇者様に護衛して頂けるなら……それに越した事はありませんな。どうぞよろしくお願い致します」
「承知した。……で?そのシスタ嬢は?」
「シスタさんなら隣の部屋で部下が取り調べを行っております……。というより、これ以上シスタさんから情報は無いので……ただ談笑して貰っているだけなのですが……」
「ならば……今日はこれでお開きだな。後日改めてこの件について……聖王騎士協会を交えて話し合うとしよう」
◆
「コウ?コウ?……起きて?」
ミリヤに肩をゆさゆさと優しく揺られて……俺は目を覚ます。……今のは……。
俺は今、隊舎の談話室みたいな所の椅子に皆で座って……待ち疲れて寝ていたのだ。ミリヤの肩に寄っかかる様に寝てたのだが……今見た……というか聞いた夢って……。
「コウ?大丈夫?まだ眠いの?ボーっとしてるけど……」
「……大丈夫です……お姉ちゃん。ちょっと変な夢……見ちゃったみたいで……」
「キー……」
心配そうに鳴くキーちゃんを優しく撫でながら俺は今の夢について考える。
多分だけど……今の夢って、エイシャ達の現在進行形の会話の盗み聞きだよな!?つまり……多分だけど……新しい
シェン曰く俺は今、
でもそれを聞いた時は万全の状態じゃない時だったけど……一応癒しの湯の力でちょっとは回復したお陰で新たな能力に目覚めたのかも!!
ううむ。だとしたら……何とも使い勝手の悪い能力だ!!
だって……正直今の会話盗み聞きして、俺に出来る事なんて無いし、多分だけどエイシャ達に後で教えて貰える内容だろうし……何よりオンオフ出来ない能力なら誰の盗み聞きするのか分かんないじゃん!!
まぁ……無いよりましかーって程度の能力として、こんな能力に目覚めたって頭の片隅に置くぐらいしか現状出来る事ないなー……。……鍛えたらどうにか操作できるようになんのかな??
なんて思っていると、取り調べが終わったエイシャ達がこっちに歩いてきた。そこにはシスタさんも居るし、当然シスタさんのお父さんもいる。
「待たせたな」
「ほんとよ!待ちくたびれて、コウ寝ちゃってたんだからね!」
そう言っていたずらっ子の様に笑い、俺の頭を撫でるミリヤに成すがままにされながら……俺はさっきの盗み聞きの内容を思い出し、やっぱり王都の話も一筋縄には終わらないのかなーって思っていた。
だが……その時の俺は、完全に他人事だったのだ。
だって今回の話の中心人物は……当然シスタさんだ!!だから俺達がこの話に巻き込まれたとしても、俺は頑張ってシスタさんを守ればいいし、自分が狙われないのはちょっと気が楽だ。
だから……まさかこの後、俺はがっつりこの事件に関わって……全然関係無い様な学園にまで入学する事になるなんて……この時の俺は、まだ思ってもみなかったのである……。