最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
何か悍ましい者がこちらに向かって来ている……。俺は直感でそう悟った。
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サタノニア公爵家の三男として生まれた俺は、生まれた時から自分が特別だと悟っていた。
サタノニア公爵家はこの王都で五大公爵家の一つとして圧倒的な権力と莫大な富を築いていた。
俺は三兄弟の末っ子で、家族からとても可愛がられていた。
こう言っては何だが俺は天才で、兄弟の中で最も魔力を持っていたし、武術や馬術だって一番だった。当然勉強だって俺が一番だった。
だが……それでも俺は三男だ。家を継ぐのは長男だし、それを別に疎んじてはいなかった。
むしろ面倒ごとは兄に任せて、俺は自由気ままに人生を送りたい!!
俺ほどの才能があるなら、俺は何にだってなれると思っていたし、事実それは家族全員思っていた事だと思う。
子供の頃の俺は結構真面目で、将来自由気ままに過ごす為にも、子供の頃からしっかり勉強しなきゃいけないと思ってたし、父の部下の娘で幼馴染のティファだってそう言ってた。
ティファは眼鏡をかけた地味な女だが、俺は子供の頃から彼女には一目置いていた。
子供らしからぬ頭の良さは正直俺以上だったし、何より話していてとても落ち着く。周りの馬鹿な餓鬼と違って、俺達の会話の内容はとても子供とは思えない知的なものだったと思う。
だから俺は将来、ティファと結婚して二人で事業でもして……そして幸せな家庭を作りたいと、本気で思っていたし、ティファもそれには賛同してくれていた。
……それに俺は、彼女が頭が良いから結婚したいんじゃなくて……単純にティファが好きだったのだ。
だから俺は勇気を振り絞って、将来俺と結婚してくれとティファにお願いした。
そして……何時もは無表情な彼女が一瞬驚いて……そして可愛くはにかみながら笑って、俺の告白に答えてくれたあの時は……多分人生で一番嬉しかった時だと思う。
そんな人生の絶頂期はティファの家……ドーモン伯爵家が没落した事で、急に終わりを告げた。
ドーモン伯爵は、父の部下の中でも非常に才能が有り……あらゆる分野に精通しており、誰からも信頼される非常に稀有な才能を持った男だった。
しかし……父はそんなドーモン伯爵を心の中では疎ましく思っていた様だ。
そして周りの人間を使いドーモン伯爵の事業を失敗に追いやり、そして……彼から全ての財産を奪ったのだ!
ドーモン伯爵は馬鹿な男じゃない。故にそんなに簡単には彼を貶める事など出来なかっただろうが……あろうことは、父はドーモン伯爵の妻を誘惑し彼女を手籠めにして、内側からもドーモン伯爵を追い詰めていったのだ!!
ドーモン伯爵の唯一の弱点は非常に家族想いだった所だ。
そんな彼が、まさか愛する妻が浮気していて、更には自分を貶める為の手伝いをしているとは流石に気付かなかった様で、父から全てを告げられそしてその愛する妻からも離婚を告げられ、捨てられた時のドーモン伯爵の表情は……子供ながらに見ていられなかった。
そしてそんなドーモン伯爵を見て、勝ち誇り高笑いする父を見て……非常に嫌悪したのも覚えている。
父はもしドーモン伯爵が訴えてきても完全に勝てる様に準備していた様だが……彼にそんな気力はもう残っていなかった。
そのままドーモン伯爵……いや爵位まで奪われたドーモンは田舎に引っ越して行ってしまった。そしてティファもそんな父親を見捨てる事など出来る筈も無く、一緒に行く事になったのだ。
こうして俺の幸せな人生計画は、あっさりと終わりを告げたのだ。
別に爵位を無くしたからといってティファと結婚出来ない訳じゃない。でも……俺はドーモン家が何処の田舎に引っ越したのか終ぞ教えて貰えなかったのだ。
ドーモン伯爵の元妻は、そのまま父の愛人になった。
元々女癖の悪い父は、何人も愛人がいたし、母もそれには目を瞑っていた。……というか母にも何人も愛人が居て、父もそれに何の文句も言わなかった。
……今思っても彼らは随分と狂ってる気がする……。まぁそれが夫婦円満の秘訣なのかもしれないが……。
ティファが居なくなって俺は随分と荒れた。
今まで勉強第一で、真面目だったのが嘘だったかの様に遊び惚けて……周りの全てを見下す様になった。
唯々自暴自棄だったという事もあると思うけど、結局俺の本質はこっちだったんだと思う。
何故なら俺は父と同じ血が流れているからだ。糞ったれなサタノニア公爵の血が……!!!
そして俺はそのまま……屑のままフォストニア学園に入学した。
何故俺が普通科を選んだのかというと……長男は貴族科、次男は騎士科に通っていて、そんな兄達と同じ所に通いたくなかったからだ。
俺は別に兄弟仲が悪い訳じゃない。むしろ非常に兄弟仲はいいと思う。
だが……兄二人も父同様腐った奴らで、周り全てを見下し、まるで奴隷の様に扱う人種だ。
そんな兄達と同じ科に通うのは……何となく嫌だったのだ。俺だって同じ穴の狢だというのに。
学園生活はまぁ特に面白味も無く進んだ。
次男から譲り受けた奴隷小屋で、気に入らない奴をリンチしたり……女を連れ込んで遊んだり。
まぁ齢十三~四歳の人間では考えられない様な事を平気でしていた。
恋人がいる女を周りの奴らが好き勝手した時は流石に胸の奥がチクりと痛んだが……まぁそれもちょっとだけ、本質的に屑になっている俺には大したことじゃな無かった。
でも正直……何しても面白くは無かった。
たまに客観的に俺は何してるんだろうと思う事があったが……今更引き返せない……というか、もうどうでもよかったのだ。
そんな腐った生活が続いたある日……それは三年になった春、俺はまた彼女に出会った。
平民になって、もう二度と逢う事は無いと思っていた……ティファにだ。
俺は心の底から嬉しかった!!また彼女に逢えたのだ!!
そして彼女は……昔から何も変わっていなかった!!
勉強熱心で、口は少し悪いが根はやさしい彼女、そんなティファと再会して俺は……今までの自分を非常に恥じた。
俺は何やってたんだ?なんでこんなに……俺は変わっちまったんだ?
客観的に見ても今の俺は父と何も変わらない。
権力をひけらかして周りを見下し、他人を不幸にすることしか出来ない。そして……今更変えように変る事の出来ないこの本質。
だから……俺は彼女にもう近づくことは出来ない。
せめてもの想いで、ティファにだけは手を出すなと周りに伝えておいた。
もしティファに手を出したら殺す……と。ティファは友好関係が浅く、そんな彼女の友達は彼女と一緒に転入してきたアンナだけだったので、アンナにも手を出すなと周りに伝えておいた。適当な理由をつけて。
俺はもう引き返す事の出来ない所まで堕ちて行ってしまったけど……せめてティファだけは、彼女だけには幸せになってほしい。
だから……これは俺への罰なのだろう。
多くの人達を不幸にした、俺への……。
◆
煙で視界を閉ざされた教室に、黒い影が入ってくる。
「ひ!!?ひやああああああああ!!?」
まぁでも無理はない。俺だって
それ程までに凝縮された殺意と圧倒的存在感。
まだ視界が開けて無いのにそこに居ると解る程歪んだ空気に、景色が揺らぐほどの魔力。
そんな恐怖の塊を見て……俺は何故か安心していた。
これで終われる。……そんな思いが胸を占めていた……。
俺の直感は正しかった。
何か悍ましい者がこちらに向かって来ている。そしてそれは……この世で最も悍ましい怪物を……俺を終わらせてくれる存在だと……。
「はは!怖い怖い……周りの奴ら皆ちびって泡吹いちゃったよ!……で?お前何なわけ?」
精一杯の虚勢を張って俺は黒い影に言い放つ。
屑は屑らしく。誰にも同情されないくらい屑のままで終わらないと……。
それが俺がしてきた事への償いになるのかどうかは……解らないけど……。
「……くく。お山の大将は少しは話が出来るらしいな?どいつもこいつも俺を見ただけで気絶してしまって、面白くなかったんでな……」
「ははは!そりゃよかった!!……じゃあ……さっさとやれよ……!!」
恐怖で足が震えて立ってられないので、机の上に座って挑発する。これで……!!
「……そうだな。さっさと終わらせて貰おう……」
これで終われる……。そう思い目を閉じて終わりを待つ……。
だが……。
「ルーカス君!!!」
この煙の中で、迷うことなくこの教室に入り、俺を心配する様に叫んだティファの声を聴いて、俺は目を見開くのだった……。