最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由   作:でかそう

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第166話 断罪されるべきは(ティファ視点)

「あん?下が騒がしいな?一体何があったんだ!?」

 

 私を攫った目の前の男、ルーカス君の兄であるカーンが首を傾げるが……恐らくこいつは今、下の階で何が起きているのか、全く理解していないのだろう。……だが……私には解る。

 

 彼がやって来たのだ……。

 

 先程ルーカス君達を捌いた、この国一番の……いや?もしかしたらこの世界でも最も恐ろしい存在……黒騎士が……。

 

 

 ルーカス君達が黒騎士によって全滅させられた後、私は黒騎士に殴り飛ばされたルーカス君を医務室に連れて行って、その後寮へと戻った。

 

 医務室の先生の話では、ルーカス君の怪我は酷く、直ぐにでも病院に搬送しなければいけないそうだ。

 

 部屋に帰り、私はベッドに飛び込み……枕に頭を埋めて……後悔と申し訳なさに苛まされていた。

 

 あの時、私とソフィアは教師への謝罪を終え、教室に戻ろうとして……突如校舎を埋め尽くす煙に、驚いて呆然としていた。

 するとその奥から、壁伝いにコウが現れて……ルーカス君達に襲われそうになった、そしたら急に煙が蔓延して辺りが見えなくなった。取り合えず自分は何とか逃げれたが、中にまだ女子生徒が居るので、先生を呼びに行こう……と言った。

 

 その次の瞬間、私は全身に怖気が奔るのを感じた。

 

 私は元貴族で魔力も少しだけ持っていたので、感じ取ることが出来たのだと思うけど、それは今まで感じた事も無い程の圧倒的威圧感と邪悪さを秘めた魔力だった。

 

 それを感じた瞬間、私はコウ達に先生と警備隊に連絡する様に言付けて駆け出していた。

 そして……まぁ結果はお察しだ。ルーカス君と黒騎士の間に割って入って、私はルーカス君を庇ったのだ。

 

 今思っても自分は、非常に短慮な行動をしたと思う。

 

 何故黒騎士が居るのかは分からないが、彼の行動は決して可笑しな事はしていないのだ。

 黒騎士は、生徒の命を一つも奪っていなかったので、ルーカス君達の目に余る行動にお灸をすえる為に現れたのかもしれない。

 

 事実黒騎士の登場によってコウは助かっていたので、あの場面で悪いのは間違いなくルーカス君達なのだ。

 なのに私は……ルーカス君が傷つけられるのを恐れて、黒騎士を酷く罵ってしまった。

 

 確かに昔のルーカス君は優しく賢い少年だった。

 勉強ばかりで面白味も無い私に付き合ってくれる、思いやりを持った人だった。

 

 そんなルーカス君を、私は好きになったのだ。

 

 だが……今のルーカス君は、見る影も無い。

 アンナの言う通り、昔のルーカス君に戻ってくれるかも……と心の片隅では思っていても、彼の所業が酷すぎて、とてもじゃ無いが今更戻っても彼を好きになどならないだろうと思っていた。思っていたのに……。

 

 私はまだ昔の恋心を引きずって、冷静な判断を取れていなかった……。

 

 父がサタノニア卿と母に嵌められて立場を追われた時、私はあんな女には……恋と体に浮かされて、大切な人を裏切る女には成りたくないと心から思った。

 

 だというのに……先程の私はどうだ?

 客観的に見て、どう考えてもルーカス君達が悪いのに……そんなルーカス君を私は庇ったのだ!!愚かしい事に!!!

 

 これではかつての母と何が違うというのだろうか……。

 ……結局私もあの女の血が入っているので、同じ穴の狢という事なのだろうか……。

 

「ティファ……大丈夫……?」

 

 事情をいまいち理解していないアンナが、心配そうに私に声を掛けてくれる。

 

 私は枕から顔を上げて、無理やり笑顔を作りアンナに答える。

 

「大丈夫ですよ……アンナ。ちょっとお手洗いに行っていますね?」

「え……。じゃあ私も……」

「ふふ。子供じゃないんです……。一人で行けますよ……」

 

 尚も心配するアンナに苦笑いして、私は部屋を出る。……今はとにかく一人になりたかった……。

 

 とぼとぼと寮の廊下を歩きながら……私は纏まらない思考でグルグルと考えていた。

 

 コウにも悪い事をした。

 必死にルーカス君達から逃げてきたコウに、私は心配の声を掛ける事も無く校舎へと飛び込んで行ったのだ。

 コウから見れば……なんて薄情な女だろうと思えただろう。

 

 コウにも……黒騎士にも謝りたい。

 

 私は取り合えず、コウに謝りに行こうと思い踵を返した時……いつの間にか、上級生に囲まれている事に気付いた。

 

 基本的に寮は学年によって階が別れている為、この四年の階に上級生は居ない筈なのだが……。

 

 そして気付く。

 この上級生たちは、ルーカス君の兄であるカーンの取り巻き達だという事に。

 

「っつ!!」

 

 私は嫌な予感がして、咄嗟に走り出そうとして……。

 

「っは!!逃がす訳ないでしょ!?ばーか!!」

 

 後ろから硬い何かで頭を殴られ、そのまま意識を失ったのだった……。

 

 

 そして目を覚ますと……案の定私の目の前には、カーンが居た訳だ。

 

「お?目を覚ましたか?……いやいや、わりぃな!!頭……大丈夫かい?」

「……大丈夫な訳ないでしょ?痛みますけど……」

 

 ズキズキと痛む頭を撫でようとして……私は両手と両足が縛れている事に気付く。

 

 ……まぁ……予想通りだけど……。

 

「……私を攫ってどうするつもりですか?カーンさん」

「はは!久々に会ったってのに冷たいねェ?ティファちゃん!」

 

 カーンはニヤニヤと嗤いながら言葉を続ける。

 

「俺ぁ騎士課でティファちゃんは普通課だろ?ルーカスだけじゃなくて、俺も一応幼馴染なのに……挨拶にも来てくれねェなんて連れねぇじゃねぇか!だ・か・ら!!こうしてルーカスの馬鹿がダウンした時に……ティファちゃんと逢える機会を作ったって訳だよ!」

 

 嬉しそうに両手を広げて話すカーンに私は呆れてしまう。

 

 この男は人々が思い描く、餓鬼大将そのものな男で、父親であるサタノニア卿に良く似ている。

 

 小さい時はルーカスの目を盗んでは、よく私にちょっかいを掛けて来ていたが……今回はちょっかいだけでは済まないだろう。

 

「……ルーカス君への当てつけの為に、私を攫ったんですか?」

 

 そう言って睨みつけると、カーンは一瞬驚いた顔をして、そして大笑いして言った。

 

「いやいやいや!!違う違う!!いやなに親父がな?今更ティファちゃんがこの王都に戻って来た事を大層気にしててな!!もしかしたらドーモン卿が自分に復讐する為にティファちゃんを寄こしたんじゃねぇのかって気にしててな……」

「……そんな筈、無いでしょう?」

「まぁ俺もそんな事ぁねぇって思ってるんだけどな?でも……親父が気が気じゃねぇから、ティファちゃんを手籠めにして欲しいって言ってきてな!」

「は?」

 

 何を言っているんだ?……この男は?

 

「ティファちゃんのお袋さんの様に、ティファちゃんも手籠めにすりゃ何もできねぇだろうってな!ははは!!親父のハッピーな頭にゃ俺も笑えるけど……まぁティファちゃん可愛いしな!ホントは親父はルーカスに頼んでたみたいだけど……あいつティファちゃんの事好きだっただろ?てか……今でも好きだろ?」

「!!!……え……え……!?」

「ん?その様子じゃ気付いてなかったのか?……はは!ティファちゃん変なとこで鈍いな!?……ま、話戻すと、ルーカスはどうやらティファちゃん傷つけるのを恐れて……結局君に手を出してないみたいだし、しゃーないから俺がってな!!まぁ役得役得!!ルーカスにゃ悪いが、手を出さねぇ方が悪いよな?」

 

 そう言ってじりじりと近づいてくるカーンを、私は冷めた目で見ていた。というより、他人事の様に感じていた。

 

 さっきはカーンの口から、ルーカス君が私をまだ好きでいてくれると言われて少し驚いたが……本当にそれが正しいなら、未だにあんな事をしているルーカス君には逆に心底がっかりする。

 

 まぁこの男も何れ、黒騎士に断罪されるだろう。

 ……何故か解らないが、そう感じるのだ。

 

 そして……これは私への罰でもあるのだと思う。

 

 変わってしまったルーカス君を、結局私はどうする事も出来なかった罪。

 友達が大変だったのに、声を掛ける所か自分の浮ついた気持ちに従って、コウを無視して自分の恋路に走ってしまった罪。

 あの場では正義の筈の黒騎士では無く、悪事を働いていたルーカス君の味方をしてしまった罪。

 

 だから……私も断罪されるべきなのだ。……そしてその断罪が……コレだというのなら、私は甘んじて受けよう。

 

 そう思い、私は目を閉じて……突如屋敷が揺れるのを感じた。

 

 

 ……そして冒頭へと戻る訳だが……どうやら本当の断罪は今から行われるらしい。それは……恐らく私への断罪も含めて……だ。

 

 ゆっくり、ゆっくりと、下からせりあがってくるのが解る。……恐怖の根源が。

 

「……へぇ?こりゃあ……やべぇのが来そうだな……」

 

 その迫りくる恐怖に、ようやくカーンが気付いた様で冷や汗を流しているが……もう遅い。

 

 そうしている間にも恐怖の塊はこちらに近づいてきて……そして、扉がゆっくりと開けられ、姿を現す。

 

「……おや?お楽しみ中かね?ならば……俺も混ぜてくれないか?」

 

 こうして私は、この国一番の恐怖の存在……黒騎士と、二度目の邂逅を果たすことになった……。

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