最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
聖王騎士団序列第七席、拳王のバルフレッドは戦闘開始と同時に地面を思い切り殴りつける。
すると地面から無数の赤き茨が召喚され、黒騎士を拘束せんと襲い掛かった。
これはバルフレッドが契約している守護霊、女神アフロディーテの赤き薔薇の茨であり、敵を拘束し捕縛すると同時にその棘で多大なるダメージを与える事が出来るものだ。
聖王騎士団は入隊と同時に、守護霊と契約する事が出来る。
どんな守護霊と契約できるかは、貴族ならばその家柄に属した守護霊が召喚される事がほぼだが、バルフレッドの様に平民上がりの場合は基本的にランダムとなる。
女神アフロディーテは天界へ上がる前、かつては地上で多くの人々から恋焦がれられる美の女神であった。
アフロディーテの加護を受けたものは、永遠の美を与えられると約束されていた。
おおよそバルフレッドとは程遠い女神であるアフロディーテが、なぜ契約してくれたかは定かでは無いが……守護霊に女神が契約してくれた事で、バルフレッドはとんとん拍子で上級騎士まで上り詰める事が出来たのだ。
「ほう……?」
茨の召喚という予想外の攻撃に、一瞬黒騎士が驚いたような声を上げるが……バルフレッドはそんな黒騎士を無視して茨と共に黒騎士に襲い掛かる。
本来なら茨で拘束した敵をその鍛え上げられた拳で袋叩きにするのがバルフレッドの戦闘スタイルであるが……バルフレッドは恐らく茨で黒騎士を拘束するのは無理だろうと踏んでいた。
故に茨と同時攻撃を仕掛ける事で、黒騎士の注意を少しでも分散させる為、同時攻撃を選択したのだ。
「行くぞおらぁ!!!」
言葉と共にバルフレッドは拳に魔力を溜め、勢いよく打ち出す。
……しかし。
次の瞬間、バルフレッドの攻撃を完全に無視して、黒騎士がその手に持った円状の盾を投擲していたのだ。
「!!!」
まさか自身の攻撃にも、召喚した茨にも目もくれず攻撃されるとは思っていなかったバルフレッドは完全に虚を突かれ次の行動が遅れる。
「がっはぁあ!!?」
そして投擲された盾は、逆らうことなくバルフレッドの鳩尾へと吸い込まれていった。
防御する事も、避ける事も出来なかったバルフレッドはその投擲の威力をもろに受ける事になり、そのまま近くの建屋へと激突する。
────くそ……ったれ!……だが……あいつも……!!
遠のきそうになる意識を無理やり覚醒させながら、バルフレッドは黒騎士を睨みつける。
黒騎士は茨を払う素振りも避ける素振りもしなかった。
バルフレッドの魔力の弾丸と合わせ、恐らく黒騎士を茨で拘束する事は出来た筈だ。
自らを防御する為の盾を投げるという攻撃は、黒騎士自身茨の拘束を覚悟しての攻撃の筈だ。
つまり黒騎士の狙いは痛み分け……。
少々バルフレッドの思い描いた戦闘とは違う形で事は進んだが……黒騎士の行動は完全に失策だったと、内心鼻で嗤う。
何故なら例えここで自分が倒れようとも、今回称号持ちの上級騎士は自信を除きあと四人も居るのだ。
そして彼らは既に此処に集結しつつある。モンルミエール討伐の最大の障害である黒騎士を、ここで亡き者にせんと……!!
つまりバルフレッド自身、最早仕事を果たしたと言ってもいい。
何故なら痛み分けの形で黒騎士を拘束する事が出来たのだから……!!
そして、黒騎士はバルフレッドの想像通り赤き茨に拘束されて……次の瞬間、黒騎士を狙って四方八方から大量の魔力弾が無数に浴びせられた……!!
「大丈夫ですか?バルフレッド様。……息はありますか?」
そう言ってバルフレッドの直ぐ傍に降り立ったのは、序列十三位、灰色の魔女シンデレラであった。
特徴的な灰色の髪に、黒いドレスを身に纏った女性であるシンデレラは、手に持った大きな杖を黒騎士に向け、魔力の弾丸を撃ち続けながらもバルフレッドに問いかけた。
「返事してくださいバルフレッド様。……もしかして、もう死んでいますか?」
「……あほが……げぼぉ!!……まだ……死んじゃ……いねぇよ……!」
息も絶え絶えにシンデレラに答えるバルフレッドだが、正直今にも気を失いそうだ。
だが、ここで気を失えばせっかくの茨の拘束が解けてしまう。
バルフレッドは飛びそうになる意識を気合で何とか保ちながら……絶え間なく降り注ぐ魔力弾にさらされている黒騎士を睨みつけていた。
そんなバルフレッドの様子に、ホッと息を着いてシンデレラは言った。
「まだ大丈夫様ですね?……今こちらにガンドロフ様も向かっています。恐らくすぐにでもとうちゃ「よく耐えたな!!バルフレッド!!シンデレラ!!よくやった!!!偉いぞ!!!」……したようですね?」
遥か上空から聞こえた声に目を向ければ、三メートルはあるであろう巨体に、その身の丈を超える大剣を携えた聖王騎士団序列第三席、巨人殺しのガンドロフが、言葉と共にその大剣を振り下ろしたのだった。
バルフレッドの茨の拘束、シンデレラの無数の魔力弾、そしてガンドロフの衝撃波をも発生させる程の威力の斬撃に……それを受けた黒騎士は、跡形も無くその場から消え去るのであった!
「あらら……これでは倒せたかどうか分かりませんね?……というか、ガンドロフ様大丈夫ですか?私の魔力弾の中に飛び込んで行って、貴方も浴びてしまったのでは……?」
頬に手を当てて、小首を傾げて、濛々と煙が立つ中心にいるガンドロフにシンデレラが問うと……ガンドロフは渋い顔をしてそれに答えた。
「……手ごたえが無い……」
「……は?」
予想外のガンドロフの言葉にシンデレラが目を向くと……ドサリと上空から黒い影がバルフレッド達の前に落ちてきた。
「な……?あ……ひ!?」
落ちてきた影……それは聖王騎士団序列第九席、百瞳のメンドーサであった。
彼女は瞳が三つある三つ目族の末裔で、三つ目族はかつて魔族とまぐわった一族として迫害されてきたが……そんな彼女をレグロスが拾い、助け、そして育て上げたのだ。
メンドーサはレグロスに忠誠を誓い、聖王騎士団の中でも非常に真面目で熱心な女性であった。
彼女はメデューサの大蛇と契約しており、額にある第三の瞳には、見た者を石化させる力がある。
そしてその力は、瞳を見ていなくてもその瞳に見つめられるだけで、相手の行動を阻害する事もできるのだ。
「メンドーサ様!……な……どうして?……だ……誰が?」
「ば……そんなの決まってんだろ!?やめろ……ぐぅ!!シン……デレラ!!近づくな!!」
シンデレラは、投げ捨てられてピクリとも動かなくなったメンドーサに駆け寄って……突如姿を現した黒騎士に、鳩尾を殴られそのまま倒れ伏した。
「おのれ!!黒騎士!!!」
そんな黒騎士にガンドロフは大剣を振り下ろし……。
「!!!」
その大剣を黒騎士は片手で止めて、空いた手でガンドロフを殴り飛ばす。
「ふ……っぐ!?」
殴り飛ばされたガンドロフは、逆らうことなくそのまま吹き飛んで行き、建屋に激突して動かなくなった。
「あ……え……」
余りにも一瞬の出来事であった。
何が起ったか理解できないバルフレッド……。そんなバルフレッドに黒騎士はゆっくりと近づいて行く。
「……いやぁ。お前との戦闘と同時に、体に違和感を感じてなぁ?そこの三つ目女が俺の行動を阻害していた様だから……先に始末しておいたのだが……。ふむ……。ところで、この雑魚達はお前のお仲間かね?」
嘲る様な笑みを含んだ声でバルフレッドに問いかける黒騎士に、バルフレッドは……心の奥底からの恐怖が湧き出てきて、唯々体を震わすのであった……。
聖王騎士団の悪夢はまだ始まったばかり……。