最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
どんな犠牲を払ってでも、邪神アズライールの復活は阻止しなくてはならない。
そう……例えそれが、今まで築き上げてきた全てを失う結果になったとしても……だ……。
◆
私ことレグロスが、まだ聖王騎士団に入隊する前……つまり今から五十年以上前の話だが、この国に未曽有の災害が訪れた。
それは魔王や魔族など全く関係のない、しかし人類にとってはそれ以上の脅威がこの国に降り立ったのだ。
その名は、邪神アズライール。
その時の国王、クライヴ・モンルミエールが、国の発展を願う余り呼び出してしまった禁忌の存在であった。
邪神は呼び出したクライヴの体を乗っ取り、国を……否、世界を我が物にせんと、行動を開始した。
私の祖父は、当時の聖王騎士団の長を務めており、当時の最上位騎士十三名の力を賭して邪神に挑んだが……力及ばず返り討ちになってしまった。
聖王騎士団は半壊、最上位騎士十三名の内八名の命が失われ、その失われた命の中には父の名もあった。
邪神討伐に失敗した祖父は、当時の剣の勇者アレキサンダーの助力を受け、再び邪神に挑んだのだが……邪神の力は強大で、またもや敗北を喫してしまった。
そしてその時、勇者アレキサンダーの命までも失われてしまったのだ。
邪神は表向きは、クライヴ・モンルミエール王として、以前と全く変わらない生活をしていたため、聖王様や聖王騎士団以外誰も奴を邪神だと気づくことは無かった。
むしろ聖王騎士団が謀反を起こしたとして、祖父と聖王様は投獄され、罰せられる事になってしまった。
聖王様は神々が選ばれる崇高なる存在なので、邪神にとっては邪魔な存在故、丁度いい理由をつけて聖王様を罰するには絶好の機会だったのだろう。
勇者まで誑かし、謀反を起こしたばかりか、その勇者の命をも奪ったとして、聖王様と祖父は処刑される事になってしまった。
当時私は数えて五つだったが、あの時の……地獄の様な光景は今でも目に焼き付いている。
民衆の前で、無念の内に打ち首になってしまった祖父と聖王様のあの苦渋に満ちた表情。
そんな、この国を守る為に命を賭けた二人に投げかけられる民衆からの罵倒雑言。そして……それを高見から愉快と嗤う邪神……クライヴ・モンルミエール王。
ここが地獄なのかと……私は本気で思ったのを今でも覚えている。
このまま誰も邪神を止める事が出来ないまま……この国は終わりへと向かってしまうのか……。尊敬する祖父と大好きだった父……そして誰よりも優しい方だった聖王様の命をも奪った邪神に一矢報いる事すら出来ずに、奴の思うがままにこの国は……。
「そんな訳にはいかないだろう。どんな手を使ってでも邪神を止めなければいけない……。そう……どんな手を使ってでもだ……。でなければ、父たちの犠牲が無駄になってしまう。……レグロス、私は蛇の道を行く。……君もついて来てくれるか……?」
そんな絶望する私に手を差し伸べてきたのは、私と同じ様に家族を失ったばかりの……当時の聖王様の嫡男……つまり現聖王様であるヨハネ・バウエル様であった。
ヨハネ様は当時まだ十五歳ほどの年齢であったが……そのまま聖王の座を継がれて聖王の席に座られた。
そして彼は神々からの啓示で聖王になった訳では無く、なし崩し的に聖王になった為……何と邪神に屈して、表向きは彼の支配を受け入れる事にしたのだ。
邪神もそんなヨハネ様を気に入り、そのまま聖王協会を維持する事を許した。
邪神はゆっくりと……しかし確実にこの国を蝕んでいった。
まず初めに多少の犯罪には目をつぶる事にした。
すると……王都から少し離れた都市、ラグノアシティの治安は一気に悪化し、数多くのマフィアが巣食う様になった。
邪神はマフィア達と深い関りを持ち、麻薬、奴隷………今もなお続くこの国の癌を次々と作り出していったのだ。
そして立て直した聖王協会にも、その犯罪の手助けをさせたのだ。
ヨハネ様は辛抱強く……実に十年もの間、その悪事を手伝いながらも……着々と邪神を討伐する為の準備を整えられた。
ヨハネ様はあえてマフィアと繋がる事で……少しずつ、マフィアの重鎮達を邪神では無く、自分とより深い関係になる様に仕向けられた。
そして当時からどちらかと言えば柄の悪い貴族……サタノニア公爵家などと深い繋がりを持つ様になった。
それらは全て、邪神から権力を少しずつ奪い、裏で全てを操るのを国王ではなく聖王が操る様に仕向ける為であった。
邪神はそんなヨハネ様の思惑など知らず、聖王協会がどんどん堕ちていくのを大層楽しそうに見ていた。
しかしどれだけ裏で少しずつ権力を得ても、どれだけ少しずつ力を蓄えようとも、結局邪神を打ち倒す力が無ければ何も意味はない。
私達はこの状況を打破する為、とある神を頼った。
ヨハネ様は啓示を受けておられない為、神々に助力を乞う事は出来ないが……この地上に残って下さっている神……
邪神の目を欺く為、私は隣国への遠征という形で
そして聖なる森に足を踏み入れた訳なのだが……どこを探しても、どれだけ待っても
地元の人間の話では、
だが私は諦める訳にはいかなかった。
聖王騎士団には最早邪神に対抗できる程の力は無いし、頼みの綱の剣の勇者の命も失われた。
勇者は四人現れると言うが、剣の勇者以外の勇者はまだ現れてはいない為、最早頼りの綱は
私は
リヴァレンの冒険者ギルドに入り、冒険者として仕事をこなしながら……暇があれば
そんな生活が三年程続いたある日……ついに私が待ち望んだ瞬間が訪れたのだ!
その日も冒険者としての仕事を終え、聖なる森へと足を踏み入れた時……森の雰囲気が何時もと違うと直感で感じていた。
風はいつも以上に穏やかで、木々はいつも以上に光を浴びて神々しく光っている。
これは……一体……。
疑問に思いながらも足を進め、ついに聖なる泉に辿り着いた時……私は目を見開いた。
湖のほとりの岩の上に座っている一人の女性……。
その女性を見た瞬間、今まで見た全ての美しいと感じていた物が、まるで噓だったかの様に思える程……それ程までに、その女性は美しかったのだ。
そんな女性を見て、呆然としている私に……彼女は銀の髪をかき上げ、呆れる様に言った。
「まったく……お前の忍耐強さには負けたよ……。私に逢う為に多くに者たちが此処を訪れたが……お前程の奴はなかなかいなかったぞ?」
そう言ってため息をつく女性を見て、私はようやく自分の望みが叶ったのだと悟るのであった……。