最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
邪神の封印に成功し、この国は平和になる……。
そう思っていた私だが、現実はそう簡単では無かった。
邪神に取りつかれていたクライヴ・モンルミエール王は、長い年月邪神に取りつかれていた後遺症で、邪神が封印されたと同時にその命を落とした。
恐らく……既にクライヴ・モンルミエール王自身の魂も、肉体も全て邪神に食い荒らされていたのだろう……。
ヨハネ様は、モンルミエール一族から権力を奪い新たな王として、クライヴ・モンルミエール王とは全く血縁の無い侯爵家の男、ハッシュ・ベルンハイトを王として立てた。
本来ならモンルミエールの血族から新たな王を立てるのがいいのだろうが……モンルミエール一族は、既に骨の髄まで邪神を崇拝していた為、やむを得ずの処置であった。
そして実質の権力はヨハネ様が握り、王都を再興していかれた。
邪神を崇拝していたマフィア達を王都から追い出し、王都に秩序と平和を取り戻した。
しかし追い出されたマフィア達は、王都から離れた都市、ラグノアシティに深く根を張り、そこで発展していった。
当然そのマフィア達もどうにかするべきという事は解ってはいたが、王都の復興を優先して、取り合えずマフィア達は後回しという事になった。
王都は少しずつ、しかし確実に邪神が現れる前の姿へと戻って行っていたと思う。
しかし、邪神によってもたらされた被害は思った以上に根深いものだった。
まず、貴族達が非常に堕落していた。
たった十年間の邪神の支配で、彼らは貴族としての誇りも名誉も忘れ、自堕落で自分勝手な存在に成り下がっていたのだ。
それはいくら上が変わったからといって、直ぐにはどうこうなるものでは無く、ヨハネ様は仕方なく邪神派……つまりかつての王派閥の貴族では無く、ヨハネ様とより深い関係の貴族たちを立てられた。
当然彼らは元々疎まれていたはみ出し者貴族達が多く、はっきり言って王派閥の貴族と比べても五十歩百歩ではあったが……ヨハネ様との関りが深いという理由だけで、他の貴族達よりはマシという事になったのだ。
その他にも、奴隷制度の撤廃や、街に横行する麻薬などを取り締まろうとしたのだが……これもなかなか上手くいかなかった。
というのも、奴隷制度撤廃に反対したのは、元王族派の貴族だけでは無く……新たに国王となったハッシュ・ベルンハイト王含む、ヨハネ様派の貴族たちも反対したのだ。
理由は既に自分たちも奴隷を所有しており、それを手放すのが惜しかったからである。
ヨハネ様は辛抱強く奴隷撤廃を働きかけたが……これに関しては、現在に至るまで解決していないのが現状だ。
そして麻薬の横行も、結局はラグノアシティへと逃げて行ったマフィア達をどうにかしなければどうしようも無く、そしてラグノアシティにまで手が回らないと言うのが現状であった。
それでも少しずつ、少しずつ王都を中心にこの国を再興していたヨハネ様であったが……邪神封印から十年余りで、ついに病に伏せてしまった。
それと同時にとある驚愕の事実が発見される。
それは……邪神アズライールは、完全に封印されていなかったという事だ!!
奴はヨハネ様によってもたらされた神器で、魂を九つに分けれ封印される直前に……魂の一部をモンルミエールの一族の誰かに移していたのだ!!
これは体調を崩されたヨハネ様を癒しに来てくださっていた、現聖女マリフィセント様の前の聖女、マルタ様によって発見されたのだが……この驚愕の事実を前に、私達は苦渋の決断を迫られた。
それは……モンルミエール一族の誰に邪神の魂が乗り移ったか分からない為……モンルミエール一族を……完全に潰さなければならなくなったからだ。
その中には当然罪もない子供も含まれる。
そんな苦渋の決断を前に、ヨハネ様はその事に心を痛められ、決断できないでいたが……私は違った。
十数年間もの間、邪神によって苦しめられていたヨハネ様に、これ以上苦渋を味あわせる訳にはいかない!!
そう。モンルミエール一族は私が……私が率いる聖騎士団が確実に潰す。
誰に蔑まされようとも、罵られようとも……邪神だけはこの世から消し去らなければならないのだ!!
私はヨハネ様の意見も聞かず、直ぐに行動を開始した。
そして……モンルミエール一族を全て殺して回ったのだ。
何も知らない子供も。
子供だけは許してくれと懇願する母親も。
既に遠くの街に住んでいる、モンルミエールの血が薄い、何も知らない親戚達も!!全てだ!!
モンルミエールの血が少しでも流れている者全てを殺しつくしたのだ!!
そしてこの殺戮は、公式には現国王に反旗を翻し、またモンルミエール一族が実権を握ろうとしている為の誅殺だという事で押し切った。
そんな殺戮を十数年繰り返し、ようやくモンルミエールの血が途絶えたと思っていた矢先……新たなる脅威が人類を襲った。
それは……魔王率いる魔族の軍隊……魔王軍の進撃である。
しかしそれは、新たに現れた四人の勇者(一人は聖女教会の聖女様の洗礼を受けていないので、正確には勇者では無いが)の登場により事なきを得た。
しかしこの勇者がまた新たなる癌となった。
魔王軍の進撃を退け、一時的に平和をもたらした勇者の一人、剣の勇者クロス・エンデヴァは……非常に堕落してしまったのだ。
彼の叔父が、ラグノアシティ最大のマフィア組織、ラ・ローザ・ネーラの首領にあたる人物であったのも影響してか、彼の素行は日に日に酷いものになっていった。
そして、そんな剣の勇者に、国王までもが従う様になってしまった。
その時には聖女のお陰で病から回復されていた聖王様だが、長く病に伏せられていた事で、国の権力は既に勇者へと移っていっていた。
今でもヨハネ様はかなりの権力を握っておられる。
しかし……それでも勇者の影響力は凄まじく、そんな勇者を隠れ蓑にマフィア達の活動は更に活発になっていった。
だが……そんな勇者もつい最近命を落としたと聞いて、胸を撫でおろしていた矢先……またもや私達にとって驚愕の事実が舞い込んできた……!!
それを私達に教えたのは、数年前宰相に就任したパイモンという男だ。
少女と見間違える程の若い容姿と美貌を持つ年齢不詳の男だが、彼は就任と同時に国王に大層気に入られており重宝されていた。
そして、国王を通じてヨハネ様とも親交があった。
何時も飄々としており、何を考えているのか解らない男だが……たまに確信を得た言葉を投げかけてくる奴でもあった。
「君たちが頑張ってうち滅ぼしたと思ってたモンルミエールだけど……どうやら生き残りが居たみたいだねぇ……。フランソワが隠してたみたい!……どうするの?レグロス君……?」
全て殺しつくしたと思っていたモンルミエールの血族が……まだ存在していたのだ!!
しかもその娘は、何とかつての国王クライヴ・モンルミエールの孫にあたる人物で、今まで巧妙に隠されていたのだ!!!
その女性こそ、邪神アズライールの魂が宿った女性かもしれない!!
もしその女性を依り代に邪神アズライールが復活すれば……封じられている八つの魂もそれに呼応して封印が解かれ、邪神アズライールが完全復活してしまうかもしれない!!!
それだけは……!!
それだけは絶対に阻止しなければならないのだ!!!