最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
私は今、目の前の現実を受け入れられないでいた。
「こいつらの親玉はアンタだろう?全員連れてくる訳にもいかないから、こうして団長とやらだけ持ってきたが……」
そう言って私に向かって、ぐったりとして動かなくなったレグロスを投げてくる黒騎士を前にして、私は声を発する事が出来なかった。
「さて……俺の言いたい事はただ一つ。寄ってたかって女性一人を襲うのはもう止めろ……。それだけだ……」
神の声も聞こえず、ろくに聖王としての力を持たない私でも、一目で分かる邪悪。
見た者を恐怖に貶める圧倒的威圧感を持つ、この国最強最悪の犯罪者……黒騎士は、嘲る様な笑みを含んだ声でそう言ってのけた。
だが私には解る。
その言葉の本当の意味を……。
そして確信する。
黒騎士こそ、邪神アズライール最大の使徒にして、邪神復活を目論む本当の黒幕なのだと……。
◆
私こと聖王ヨハネ・バウエルが歩んできた人生は、決して楽な道のりでは無かった。
私は父と違い、幼い頃から神の声が聞こえ無かった。
それは年を重ねても同じ事で、私は父が死ぬまで自分が父の後を継いで聖王になるなど、思ってもいなかったのだ。
しかし何の運命の悪戯か、邪神が父たちの命を奪った後、私は聖王の座に就いた。
それは私の望みでは無かったが……父亡きあと、誰がこの聖王協会を支えるのか、誰が……邪神を止めるのか……。そう思った時、私はこの座に就く以外の選択肢は無かったのだ。
聖王の座に着き、
私が病で伏せた時に、私を癒す為に訪れてくれた聖女様に、それとなく神の声はどの様にして聞こえるのかを聞いてみた事があった。
聖王である私がこんな質問をする事に、聖女様は首を傾げられていたが……答えて下さった。
聖女様の場合、祈りを捧げると、何となく心の奥底に神の声が聞こえるらしい。
それは本当に小さな声で、ともすれば気のせいと思ってしまいそうな……そんな小さい声らしい。
それを聞いて私も一人静かな場所で、一日中神に祈りを捧げてみたが……終ぞ私は神の声を聴くことは出来なかった。
だがそれも仕方がない事なのかもしれない。
私は決して聖王に相応しい人物などではないからだ。
人を騙し、邪神を騙し、そして私を聖王と慕う民衆をも騙している。
そして……私は暴走するレグロス達を止める事が出来なかった愚かな男だ。
モンルミエールの一族に、もしかしたら邪神の魂の一部が宿っているかもしれない。
それを聞いてレグロスは、聖騎士団を率いてモンルミエールを根絶やしにしていった。
私は止めるべきだったのだ。あの虐殺を。
確かにモンルミエールの一族に邪神の魂が取りついていて、それが復活すれば……今、封印されている邪神の魂もそれに呼応して完全復活してしまうかもしれない。
だがそれはあくまで可能性なのだ。
その可能性を潰す為に……多くの罪のない人達の血が流れた……。
そして……私はそれを止める事が出来なかったのだ。
故に私もレグロス達と同じ罪を背負って、最低の聖王として職務を全うし……最後は全ての罪を清算して、私は処刑台にでもつこうと思う。
そうする事で、やっと私の重荷を降ろすことが出来る様な気がするのだ……。
だがその前に……その前に、ここまで来たのなら徹底的に、中途半端な例外も無く、邪神の芽を摘まなければならない。
そうしなければ、何の為に罪のない血が流れたのか分からなくなるからだ。
モンルミエール最後の血は……何も知らない一人の女性だった。
シスタ・フランソワとして、フランソワ卿に守られ生活していた彼女は、自分が元王族の血筋である事すら知らない一般人として生活していた。
王国の宰相であるパイモン殿からその事を聞いた時、私は……これが聖王として、最後の大仕事になるだろうと確信していた。
そしてパイモン殿の忠告通り、この王都を訪れていた勇者エイシャ様と聖女マリフィセント様、そして新たに聖剣の勇者として選ばれた、勇者ミリヤ殿をこの王都から遠ざけた。
彼らに邪神の事を説明すれば、ともすれば協力してくれるかもしれないが……やはり何も知らない一般女性を手にかける事を良しとしてはくれないだろう。
むしろそれを止める為に、彼らはシスタ・フランソワ女史を守るかもしれない。
故に、彼らを王都から遠ざけたのだが……そこで大問題が起こってしまった。
なんと彼らと共に行動していた、新たなる若き神、次世代の
何故守り人でもある彼らと離れ、あのお方がこの王都に残られたのかは定かではないが……これには私は大いに動揺させられた。
しかも彼女は、まるでシスタ女史を守るかのように一般人として、シスタ女史が教鞭を取る学園に通われる事になったのだ!
それはまるで……私達が間違っていると、突きつけられているかの様で……私はどうすればいいのか分からなくなってしまった。
故にレグロス達には大々的にシスタ女史を狙う事は割ける様に伝えた。
幸い
流石のレグロスも
それも当然だ。なぜならレグロスは直接、先代の
だがそれでも……それでもレグロスは止まる事は無かった。
大々的にシスタ女史を、モンルミエールの生き残りとして昼間から襲う事はしなかったが……シスタ女史の仕事帰りなどを狙って刺客を大勢放ったのだ。
しかしそれらは、フランソワ卿が雇っていた腕利きの傭兵達によって阻止されていたが……それに業を煮やしてレグロスは遂に、称号もちの聖騎士を刺客として放った。
さしも傭兵では称号もちの聖騎士を相手に出来なかった様だが……そこで現れてしまったのだ……。この国で最も邪悪で、恐ろしい犯罪者……黒騎士が……。