最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
黒騎士の存在は知っていた。
セントラリアの街を破壊し、先代剣の勇者クロス・エンデヴァを殺害した悪鬼。
神出鬼没で正体は一切不明の不気味な存在。
その黒騎士が、シスタ女史を助ける為に聖騎士に立ちはだかったのだ。
しかし理由はすぐに解った。
その時シスタ女史を襲った聖騎士は、聖騎士団第十席の黒曜騎士アバンという、漆黒のフルプレートを装備した騎士だったからだ。
しかもアバンは、シスタ女史殺害の罪を黒騎士に擦り付ける為、黒騎士のふりをすると言っていた。
その情報をどこかで入手した黒騎士が、それを阻止するために立ちはだかったのだろう。
軽率な行いをしたアバンは黒騎士の怒りを買い、そんなアバンを心配してついて行っていた、聖騎士団第六席・
いくら罪もない女性を聖騎士団が殺害するのは世間体が良くないからといって、自分の罪を他人に擦り付けるなどあってはならないからだ。
それがいくら既に多くの犯罪を犯している、黒騎士だからといってだ。
流石のレグロスも思う所があったのか、アバンは暫くの謹慎となったが……その事が原因で、聖騎士団では黒騎士に対する警戒心が非常に高まった。
何故ならゲイルの話では、黒騎士は強大な力を持ち、そして邪悪そのもので……恐らく彼こそ、邪神の使徒であろうと言うからだ。
そして黒騎士の登場により、レグロス達はシスタ女史の殺害計画を見直す事になった。
そんなレグロス達に、私はシスタ女史に時間を与えてやってくれないかと頼んだ。
それは何故かと言うと、近々行われるセントラリアのアイドル達が、この王都で歌声を披露する舞台をシスタ女史に見せてあげる為だった。
……アイドル………随分と懐かしい響きだ。
かつて私が国外から面白半分で輸入した魔道スフィア……。魔力に反応せず、使えない代物だと思っていたが……ふと、路上で歌を披露していた大道芸人達の歌声に反応して輝いたのだ。
そこで私は、セントラリアで歌を歌っていた少女達や、少年たちを集めて………歌を歌わせてみると、魔道スフィアが光輝き………それに合わせて温かい気持ちになったのを覚えている。
その後、セントラリアの市長に魔道スフィアを渡し……そして市長は、今あるアイドルという形を作り出したのだ。
そして………聞けばシスタ女史はそのアイドルの娘達のファンらしく、彼女の最後の思い出として猶予を与えてやって欲しいと頼んだのだ。
そもそも邪神はああいった、人々が笑顔で楽しめる煌びやかな催しを大層嫌がるので、逆にその舞台を台無しにしてしまった方が邪神にとって好都合かもしれない……と、適当な理由をつけてレグロスを説得した。
我ながら何とも偽善に満ちた、自分勝手で自己満足な話だと思う。
どちらにしろ我々の結論は変わらないのに、最後の楽しみを与えてやる……などと、何とも傲慢な行いだ。……それではまるであの邪神と同じではないか。
自己嫌悪に陥りながらも、私もそのアイドルの舞台を見る為に足を運び……そして人生で一番の衝撃と、あり得ない程の後悔に苛まされる事となる。
何とその舞台の上に、
彼女の歌声に合わせて、魔道スフィアが輝く度に……私はまるで、彼女に責められているかのような錯覚に陥った。
会場が熱気を帯びていくのと同時に、私はどんどん体の体温が奪われていくような……そんな感覚がした。
いや、きっと
邪神討伐の為に、あの方の母上から神器を授かって邪神を封印した筈なのに、それを最後の最後で私がしくじった事。
そのせいで、罪の無いモンルミエール一族を根絶やしにせざる得ないと勝手に結論づけて、大半は何の意味も無い殺戮を繰り返した事。
そして……彼女の歌の途中に、私は
その瞳が私に問いかける。
『貴方はそれで本当にいいの……?』……と。
この世の何よりも美しい青い瞳に射抜かれて、私の罪を全て見抜かれて………私は一人、涙した。
申し訳ありません
貴女の母上は、神の声が聞こえない私に唯一手を差し伸べて下さった神だったというのに、私はその期待を裏切る所か……恩を仇で返す様な、意味のない虐殺に手を染めてしまいました……。
しかし……しかし……、ここまで来たら私達は止まる事は出来ないのです。故に……私の死後、地獄に行く際に……私を罰して下さい。罵って下さい……。何よりも重い罰を……与えて下さい……!
涙を流し、一人懺悔する私は……その会場に居た誰よりも、愚かで惨めな老いぼれだったのだ……。
◆
それから数日が経ち、レグロス達は遂にシスタ女史を亡き者にする最後の作戦に踏み切った。
それはいくつもに作戦を張り巡らした、聖騎士団全ての戦力を使った作戦だった。
一般の騎士達をおとりとした、傍から見れば陳腐な作戦を皮切りに、それに失敗すれば全てをカバーできる様、最後は総攻撃を行う作戦だった。
それも全て、シスタ女史を助けに来るであろう黒騎士を想定しての作戦だったのだが……私に言わせてみれば、そんな保険に保険を掛けた様な作戦を行うぐらいだったら……小出しに無駄に兵を出すのではなく、初めから全てを捨てて総戦力で行ってもいいと思ったのだが……。
そうすれば、流石の黒騎士も対処に遅れてしまうと思うのだが……まぁそんな事をすれば、万が一邪神が復活した際に戦力が亡くなって詰む可能性がある為、戦力は残していた方がいいのかもしれない。
どちらにしろ……私は最早レグロスを止める事も、そしてレグロスに協力する気力も残ってはいなかった。
私に出来る事は、レグロスの作戦が上手くいくよう祈るだけ……。……こんな事を誰に祈ればいいのかも最早分からないが……。
だが……結局小出しの戦力では黒騎士を抑える事は出来ず、結局業を煮やしてレグロスは最終作戦に踏み切る事になった。
称号持ちの聖騎士を
そして……その除外された一人とは、現在謹慎中の黒曜騎士アバンだが、彼に密かにシスタ女史を暗殺させるという。
さしも黒騎士も、まさかこれだけ戦力が投入されていてまだ一人残っているとは思うまい……という事らしいのだが……私不安を拭い去れないでいた。
それはあの時、
そしてその不安を抱えたままレグロス達を見送り…………今、私の目の前に黒騎士が現れ、無残に敗れ去ったレグロスが横たわっているのであった……。
◆
受け入れられない現実を前にして、私は心のどこかで納得しているのを感じた。
嗚呼……やはり駄目だったか……。
「………君の目的は……邪神の復活か?……黒騎士よ……」
私は絞り出す様に、聞いても意味のない言葉を発する。
彼が邪神の使徒なのは先程見ただけで分かったが、それでも聞かずにはいれなかったのだ。
はぐらかされるか……それとも愚問と一笑されるか……。
私は固唾を呑んで黒騎士の言葉を待つ。
だが……黒騎士の反応は、私の完全に予想していないものだった。
「……邪神?……そう言えばそいつもそんな事を言っていたが……。ちょうどいい、アンタは邪神とやらを知っているのだろう?それはいったい何なんだ?」
腕を組み、不機嫌そうに疑問を口にする黒騎士。
その言葉を聞いて私は……黒騎士が嘘をついている様には思えなかった。
まさか……私達はとんでもない勘違いをしているのではないか?
そんな思いが沸き上がり、私は一つ冷や汗を垂らすのであった……。