最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
謎の存在との会話を終え、目が覚めるとそこは……私の実家では無かった。
「……知らない天井だ………」
何故かこのセリフを言わなきゃいけない気がする……。
なんて事を思いながら、私はベッドから体を起こす。……ここは一体何処だろうか?
「あ!起きた?……えーっと、君はシスタちゃん?それとも……アズライールかな?」
まだボーっとする頭を覚醒させるように、首を振っていると……とても耳当たりのいい美声が私の耳に入って来た。
声の方に顔を向けると、そこにはとびっきりの美少女……と言う名の、オトコの娘が立っていた。……彼は確か……。
「……貴方は……確か、パイモン……さん……?」
私が彼に声を掛けると、パイモンはあからさまに残念そうにして、大きくため息をついた。
「はぁぁ……。やっぱりダメだったかぁ……。おはよう、シスタちゃん。えーっと、昨日は災難だったね……?」
「!!!」
苦笑いをしつつそう言うパイモンの言葉で、私の頭は完全に覚醒する。
そうだ、昨日の夜……私は暴漢に襲われ、黒騎士様に救ってもらった。
それから警備隊に保護されて、お父様が迎えに来て……そして………。
「はぁあああ」
私は大きく大きく息をつく。
あれは……あの事は、やっぱり夢では無いらしい。
もう一人の黒騎士によって、私は襲われて……私を助ける為に、惨殺された父と母は……。
夢の中の奴にはああ言ってのけたけど……やっぱりショックなものはショックだ。
だって目の前で、私を守る為に両親が殺されたのだ。……これにショックを受けない人間はいないと思う……。
「ううーん。シスタちゃんって結構、心強い系?あんな事あったのに、よくもまぁ絶望して心を閉ざさなかったね?」
「………絶望するかは置いといて、ショックは受けてますよ……」
喋るのも億劫だが、そう言ってパイモンに答えると……パイモンは、あはは!っと笑うと、言葉を続けた。
「そっかそっか!よかったよ!君が血も涙も無い人間じゃなくってさ!じゃあ希望はまだあるのかな?……あは!君にとっては絶望かもだけど!」
そう言って楽しそうに笑うパイモンに、私はちょっと嫌悪感を抱く。
何と言うか……この人とは相容れない気がする。
昨晩父に……あんな事(よしよししてた事)したのもそうだし、なんか私を絶望させたいみたいだし……。てゆーか思い返してみても、あの厳格だった父が、あんな嬉しそうに他人に頭を撫でられるなんて……やっぱりおかしいと思う!!どんなプレイだ!!
という訳で、この国の宰相らしいこの人を、私は全く信用できないのである。……なので……。
「あの、匿って下さってありがとうございます。私はもう大丈夫ですので、帰ってもいいでしょうか?」
「いやいやいや。それはダメでしょ?このままハイサヨナラーって訳にはいかないよ」
ちぇ。やっぱりか。
どうにもこのパイモンという男は、私にやらせたい事がある様だ。
そしてそれは、恐らくあの夢に出てきた……私を絶望させて乗っ取ろうとしているであろう、アイツにも関係していると思う。
「……あの、貴方は私にどうして欲しいんですか?……夢に出てきた奴なら、多分ですけどもう出てこないと思いますよ?」
その私の言葉に、パイモンは少し驚いて声を上げる。
「え!?君、邪神に会ってたの!?うわーー、何それ困ったなぁ……。それって君が、邪神をまた心の奥底に封じちゃったってことでしょ!?ううん……。それは困るんだよぉ……」
「どう困るかは知りませんけど、私の夢に出てきたのが邪神?って言うなら……申し訳ありません。宰相には悪いですけど、お力になれそうにありませんね」
私がそう言ってのけると、パイモンは少し考える素振りをして……そして、笑顔を作って言った。
「あはは!でも大丈夫!!次の手は打ってあるから!」
「次の……手……?」
「うん!ここまで来たら、もう隠す気ないんだけど……次は君の大事な生徒に死んでもらおっかなって!!」
「!!!?」
こ……こいつ今なんて言った!!?
さらっととんでもない事を言ったが、次は私の生徒を狙うって事か!!?てゆーか、だとしたらお父様達を殺した奴も、こいつが手引きしたのか!!?
「あ……貴方がお父様達を殺した黒騎士を呼び寄せたの!!?」
「???……ああ……、あの黒騎士君??あはは!!違う違う!!あれは聖王騎士協会が勝手に暴走しただけだよ?」
「聖王……騎士……。あの黒騎士も、聖王騎士だったの……?」
そう言えば、昨晩襲って来た暴漢達は、確かに聖王騎士だった。
その事を父に問い詰めている時に、このパイモンが現れて……そして、黒騎士が現れたのだ。……私を助けてくれた黒騎士様じゃない方の黒騎士が!!
「……教えて下さい!!なんで貴方が私を絶望させようとしているのか!!なんで私が聖王騎士協会に狙われるのか!!!私の中にいる、邪神って……一体何なんですか!!?」
「うーーーん。そうだねぇ……。それ聞いた方が、より絶望してくれるかなぁ?だったら……うん!教えてあげよう……」
「それによっては私も貴方に協力できるかもしれません!!だから私の生徒には手を出さないで!!」
「ふぅむ。……分かった分かった。君の生徒にはテヲダサナイヨー。だから……僕の話を、ちゃぁんと聞くんだよ?……シスタちゃん?」
そう言って天使の様な笑顔でパイモンは……悪夢の様な現実を教えてくれるのであった……。
◆
「いやいやいや。何それ勝手すぎるわよ。私なんも悪くないじゃん。絶望以前に怒りしか湧いてこない話なんですけど?」
「うええ?そうなっちゃう??でもぉ……君のお爺さんは確かに……」
「いやいや。名前も顔も知らない……訳じゃないけど、教科書でしか見た事無い様な祖父(仮)の起こした罪なんて知りませんよ。え?その血筋なら殺されなきゃいけないの??ここ、王国制だけど、そんな法律ないですよね?ただただ勝手に聖王騎士協会が暴走してるだけですよね?」
「いやまぁ客観的に見たらそうなんだけどぉ……」
そう言って冷や汗を垂らすパイモン……。
パイモンから聞いた話は私にとって……普通に怒りしか湧いてこない話だった。
確かにその邪神とやらによって多大なる被害が出たのだろう。
そしてそれは、私の祖父(仮)が、邪神を蘇らせたせいなのも間違いは無いのだろう。
でもその罪は、祖父の死によって償われているはずだ。
聖王様が封印し損ねた邪神の魂が、その一族に宿ったからって……一家皆殺しは余りにも行き過ぎてるし、それやっちゃったら聖王協会もただの虐殺者で、私から言わせたら邪神と何ら変わり無いんですけど?
大体パイモンはこの話を聞いて私がなんで絶望すると思ったのだろうか?
まぁ確かに王都を守る聖王騎士協会が、只の虐殺者集団だったのは普通に絶望的だけど……だからと言って、人生に絶望するほどの事じゃない。
むしろこれを飢えた新聞記者にリークして、聖王騎士協会の立場をぼこぼこにしてやるわ!!って思いしか湧いてこないのだ。……ペンは剣より強しってね!
「ありがとうございます。じゃあ約束通り、私の生徒には手を出さないでください。お願いします」
「えーーー!!?そんな約束してなくない!?むしろ絶望してくんないなら、僕としては君の生徒に手を出さざるを得ないんだけどなぁ……。はぁ……てゆーか、邪神も宿る相手間違ってるよぉ……。この子めっちゃ面倒じゃん……」
とほほ、と可愛らしく肩を落とすパイモンだが……私としてはそれどころじゃない!!
このままじゃ私のせいで、可愛い生徒達が狙われちゃう!!
………不謹慎な事言うと、狙われても私の心が痛まない生徒が何人かいるが……それは流石に口には出来ない!!
「ともかく私の生徒狙ったって……私は絶望なんてしませんよ!?むしろ憤りで訴えるだけですけど!!?宰相が学園の生徒を殺そうとしてるって、新聞記者にリークしてやる!!」
「じゃあどうやったら絶望してくれんのさぁ!!」
とうとう涙目になってそう叫ぶパイモンだが……そんなの私が知るか!!
むしろここまで来たら、死んでも絶望なんてしてやるもんか!!!