最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
眩い光が消えて、チカチカする目が回復した時、パイモンに刺されて横たわっていた女性は……その姿を変えていた。
あれは………!!!
「わ……私!!?」
そう。ナイフに刺され、苦悶の表情を浮かべている女性は、先ほどまでの女性では無く私とそっくりの女性に変わっていたのだ!!
「な……なんという事だ……!!ま……まさか!!いけない!!お嬢さん!!今すぐ……逃げるんだ!!」
その女性を見て、魔獣に抑えられている聖王様が私に声を上げるが……残念ながら私は今、体を動かすことは出来ない。
そんな私に、パイモンは近づいてきて……少し悲しそうな……優しい笑みを浮かべて言った。
「ごめんね?シスタちゃん……。さっきのシスタちゃんの言葉、ちょっと胸に刺さったよ。本当はもっとシスタちゃんと話をしてみたいけど……時間が無いからね……。だから……シスタちゃんの心臓、貰うね?」
「やめろパイモン!!!やめるんだぁ!!!」
パイモンの言葉に聖王様が声を上げるが、そんな事お構いなしにパイモンは私の左胸……心臓の辺りに手を添えて、そのまま優しくゆっくりと……私の体の中に手を侵入させた。
「あ………」
驚いた事に痛みは全然無い。体の中に手を入れられている不快感は半端じゃないけど……本当に痛くは無いのだ。
そしてパイモンは言葉通り、私の心臓に手をやり……そのままゆっくりと引き抜いた。
私から引き抜かれた心臓は、何故か血が溢れる事も無く、ドクンドクンと元気に脈打っている。
私はそんな自分の心臓を、まるで他人事のように少しの間眺め……そして、支える糸を失った操り人形の様に崩れ落ちた。
「……基本的に魔力の源は心臓だ。だから何かが宿ったりするのは大体心臓なんだよ。そして邪神は今、君の心臓に宿っている。この心臓は君の物だから、本来違う体に入れても……まぁもしかしたら心臓は動くかもしれないけど、基本的に魔力や受け継がれてきたものなんかは上手く機能しない。でも……今ここに横たわっているのは、君の血から作り出した、君そのものの体だ。でも脳と心臓は別だから……こうして……」
パイモンは目の前で横たわっている、女性のナイフを引き抜く。
そして、おびただしい出血を無視して……今度はその女性の心臓を引き抜いてしまった。それから、心臓を引き抜かれて、ビクンビクンと痙攣する女性に……代わりに私の心臓を入れ込んだのだ。
「……今回は脳は関係ない。……というか、むしろ姉を殺されて、黒騎士や
正直パイモンが何を言っているのか、いまいち良く解らない。
というより……眠いのだ。本当に……眠い……。
「あ……シスタちゃん。眠いのかな?………シスタちゃん、ちょっとしか話して無いけど……うん。正直この国で逢った人達の中でも、君の事……嫌いじゃ無かったよ?まぁ邪神関係のせいで結構大変だったけど!……だから……本当にごめんね?ゆっくりとお休み、シスタちゃん……。いい夢を」
パイモンは私に近づいて、優しく優しく頭を撫でながら……語りかける様にそう言った。
それを聞いて、漠然と……嗚呼、私はここで死ぬんだな……と解った。
正直ふざけるな!!……である。
でも、優しく頭を撫でてくれるパイモンに、なぜか私は……あまり恨みを感じられずにいた。
だってこんなに優しい手つきなのだ……。
だから…………。
優しかった母を思い出して………………。
もう…………………ただ…………………。
◆
「なんという……ことだ………!!」
魔獣に抑えられ、身動きすら取れない私は、目の間で行われた無残な行いを唯々見ている事しか出来なかった。
「パイモン!!貴様……!!!よくも……!!!」
魔獣に痛めつけられてしまったせいで、最早動くのが口しかない私は、パイモンを責めるが……そんな私を、パイモンは冷めた目で見つめて言った。
「いや、君達もシスタちゃんの命狙ってたよね?自分達を棚に上げてよく僕を責められるよ……。シスタちゃんの友達とか、家族とかに責められるなら分かるけど……君だけには言われたくないな?」
確かに私達は彼女を……シスタ・フランソワ嬢の命を狙っていた。
だが元を辿ればこの男が我々に彼女が邪神の依り代だという事を伝えてきたのだ。つまり……始めからこの男が……!!
「僕を恨むのはお門違いじゃない?そもそも、シスタちゃん以外のモンルミエール一族を皆殺しにしてきたのは君達でしょ?どーせ僕が教えなくても、いずれ君たちはシスタちゃんに辿り着いて、彼女を殺そうとしたよ……」
どうでも良さそうにそう言うと、パイモンはパチンと指を鳴らす。
するとシスタ嬢の体がフワリと浮かび上がり、そのまま魔獣の背に移動する。
「さて……いよいよ邪神復活だね。正直レプリカの体で邪神を呼ぶことになっちゃうから、最悪弱体化するかもだけど……かわりに僕が仕掛けた呪いで、聖王騎士達や街の人間達が暴走して、今王都はめちゃめちゃの筈だから……邪神にとって最適な負のエネルギーは王都全体に広がってる筈!だから……よろしくね!!オセちゃん!!!」
そしてまた指を鳴らすと、今度はシスタ嬢の代わりとなった女性が苦しみだす!……これは……!!
「あああああああ!!!お姉!!!ヴェネア様!!!ああああああ!!!黒騎士ぃ!!!!
捩れてはいけない方向に体を捩り、悍ましい瘴気を発しながら、女性は呪いの言葉を吐き出しながら悶える。
そんな悍ましい光景が暫く続くと…………突然女性は悶えるのをピタリとやめた。……そしてゆっくりと立ち上がり………。
「………ふん、魔族よ……。随分と面倒な事をしてくれたな………」
不機嫌さを声に乗せ、パイモンへと言い放った。
ああ。なんということだ……。
姿形はシスタ嬢の偽物だが………間違いない。あれは……あれは…………!!!
「そう言わないで下さいよ?こっちだって大変だったんですから!………では、改めて……おはようございます!邪神アズライール様………!!」
女性の体を依り代に、ついに邪神アズライールが復活したのだった……。
嗚呼………最早……この世界に希望など………。
「さ!さっさと神器に封印された、残りの魂も回収しましょ?大丈夫!!神器も此処にありますし!!」
「……ほう?準備がいいな……?褒めて遣わす……」
「あはは!当たり前でしょ?大変だったんですよぉ?国王からこの神器かすめ取るの!!」
「くはは!その割には楽しそうだな?くくく……気に入ったぞ?小僧……名は?」
邪神とパイモンが楽しそうに話しているが、最早私にその声はとても遠く聞こえる。
全身の力が抜け、もう……何も見たくも無い。
やはり私がやってきたことは……私の人生は………全くの無駄………。
「光栄ですね。僕の名前は……」
パイモンが邪神の質問に答えようと口を開いた時、建屋の天井の窓ガラスが割れる激しい音が祭壇に響いた。
そしてそこから祭壇に侵入してくる一つの影……。………あれは……!!!
「随分と楽しそうだなぁ?……俺も混ぜてくれないか?」
「…………………ほう?」
こうしてこの国始まって以来の最悪の存在、邪神アズライールと、この国始まって以来最悪の犯罪者、黒騎士が邂逅を果たすのであった………。