最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
祭壇へと降り立った黒騎士は、ちらりと魔獣の上に横たわるシスタを見る。そして邪神へと向きなおると、おもむろにランスを構えて言い放った。
「お前が……邪神とやらか?お前が取り憑いた女性が双子だったとは知らなかったが……どうやら最初に取り憑いた女性とは別の女性の体を使って復活した様だな?」
「ほう……?お前が黒騎士とやらか……。アナスタシアの記憶は断片的にしか読めなかったから、こうして目にするのは、ある意味初めてだが……なるほど?大した戦士だ……。これ程の戦士、天界にも魔界にもそういまい?……かのバエルに匹敵する……とまでは言わないが、それに近しい戦士に相まみえるとは、思いもしなかったぞ?」
そう言うと邪神は不敵に笑い……首を傾げて言葉を続けた。
「黒騎士……お前……私と組まないか?」
「……なに?」
「ええ!?ちょ!!何言ってるんですかぁ?邪神様ぁ!!それは困るんですけど……!!」
邪神の提案に、パイモンが声を上げるが……邪神はそれを完全に無視すると、言葉を続ける。
「見ただけで解る。お前のそのむき出しの邪悪さ。何故その様な器に入れられているかは知らんが……大方湖の女神辺りか?……その辺の神にお前も翻弄されているのだろう?だが……私の手を取れば、お前をその窮屈な器から解放する事が出来る」
「……………ほう?」
邪神の言葉に黒騎士が……邪神に翳していたランスを下げる。
そんな黒騎士に、邪神は笑みを深めるとパイモンに向かって言った。
「おい。私を封じていた神器をここへ」
「え?あ……はいぃ……」
邪神に促され、パイモンは渋々と指を鳴らすと……空間が歪み、そこから邪神の魂が封じ込められた神器の鏡が出現する。パイモンはそれを手に取ると、おずおずと邪神へと手渡した。
「……ふ。こんな急造の適当な神器に封印されるとは……我ながら呆れるものだ……。さて……これを叩き割れば私の魂は封印から解かれる訳だが……黒騎士よ、どうする?今この状態ならば、お前は私を討ち取る事など簡単だろうが……復活すれば、私を討ち取るのは簡単じゃあないぞ?……だというのに動かないという事は……私と手を結ぶことに、同意してくれたとみていいのかな?」
「………」
そう言って邪神は笑うと、そのまま手に取った神器に魔力を溜める。すると神器はどんどんひび割れていき……けたたましい音と共に、粉々に崩れ去ったのである。
そして崩れ去った神器から、九つに分けられた邪神の魂が解放され……そのまま邪神へと宿る。
そして次の瞬間!邪神から今までとは比べ物にならない程の魔力が迸り、近くにいたパイモンはその圧倒的魔力に後ずさり、それを見ていた聖王ヨハネは絶望で、顔を両手で覆った。
「ふふ……これで完全復活……だ。………さて……黒騎士よ、まずはお前をその器から解放してやろう。そして共に歩もう……。この腐敗にまみれた素晴らしい地上を……な……?」
そう言って手を差し伸べる邪神に……黒騎士はゆらりと近づいてき………。
「!!!邪神様!!!」
「ほう……!?」
邪神にランスを突き立てるのであった!
邪神はそれを後ろに飛んで躱すと、着地と同時に魔力弾を黒騎士へと放つ。
黒騎士はその魔力弾を無造作に盾で弾くと、魔力弾は反射され、パイモンへと飛んでいった。
「うわっと!!?」
パイモンはそれをすんでのところで躱して、黒騎士を睨む。
だが、そんなパイモンの視線など気にも留めず、黒騎士はランスを邪神へと構えて言い放った。
「何をペラペラと勝手に話を進めているんだ?俺は別にお前と組む気など無い……。まぁお前の勧誘が、もう半年程早かったら考えたが……今は少なくとも、お前の話は魅力的には感じないなぁ……」
「………そうか?ならなぜ私の復活を阻止しなかった?」
「くくく。もうそこまで復活してしまったのなら、いっそのこと完全復活してから叩いた方がいいかと思ってなぁ?中途半端にさっきのお前を倒しても、またお前が復活する可能性があるのだろう?」
黒騎士は、言い終えたと同時に加速魔法を発動させ邪神へと襲い掛かる。
邪神は一瞬で目の前から消えた黒騎士に少し驚くが……落ち着いて手印を組む。
「『
次の瞬間、辺り一帯の重力が数倍になりパイモンやパイモンの使い魔の魔獣、そして聖王ヨハネ含むすべての物体と物質が地面へと引っ張られる。
「わあ!?」
「ぐうお!!?」
「ぎゃうう!!?」
「あぎゃあ!!?」
パイモンとヨハネ、そして二匹の魔獣がいきなり増強した重力に、なすすべも無く身動きが取れなくなる。
そしてその重力によって、加速していた黒騎士もまた動きを止められてしまうのだった。
「!!!」
「……確かにお前は非常に優れた戦士だが………少々私を舐めすぎではないか?すこし駆け足が早いからといって……その程度で私に勝てると思っているのか?」
そして動きが止まった黒騎士へ、邪神は手をかざし……
「『
黒騎士に向かって新たな魔術を発動させるのであった。
「ぐ!?」
「最初の魔術だけで跪かないのは流石だが、さらにお前の場所だけ重力(=引力)を追加した。……さぁ黒騎士、お前はどこまで耐える事が出来るかな?」
邪神は楽しそうに笑うと、どんどん黒騎士の周りの重力を強めていく。そして、始めは動きを止められていただけの黒騎士だったが、余りの加圧重力についに膝をつくのであった。
そんな黒騎士を見て、邪神は更に笑みを深めて言った。
「普通ならもう人の形が残らない程の重力だぞ?これ程の力を受けてなお、その程度で済んでいるとは……本当にお前は大した戦士だ……黒騎士。……やはり……私はお前が欲しいな……。黒騎士よ、何度でも問うてやろう……。私の騎士になれ。私と手を取り、この世界を手に入れよう?」
重力を強めながら、黒騎士へと問う邪神だが……そんな邪神に、黒騎士は嗤いながら答えた。
「くくく。この程度で……もう勝ったつもりか?戦いは始まったばかりだろう……?」
その言葉と同時に黒騎士は体を霧状に変化させ、辺りを黒い霧が覆いつくす。
黒騎士の予想外の行動に、邪神はまた一瞬驚くが……また笑みを深めて言い放った。
「はは!面白いな!!体を霧状に変えるとは!確かに霧状の細かい粒子ならば、私の重力の影響は最低限になるだろうが……分かっているのか?その状態では私を倒す事など出来ないし、また霧を解除すれば私の重力に押しつぶされる事になるぞ!?」
楽しそうに辺りを見回しながらそういう邪神だが……次の瞬間、上空から邪神目掛けて黒い物体が勢いよく落ちてきた!
「!!!」
邪神の発動させている魔術……重力場の影響を受けて、黒い物体は超高速で邪神を襲う!
邪神は驚いてその場から、ギリギリで飛び退くと……落ちてきた物体は、黒騎士の盾であった!
「ぐう!!?」
盾に気を取られていた邪神は、背後から自身の胸を貫くランスに苦悶の声を上げる。
「くくく。どうした?邪神様……?さっきまであんなに余裕だったのに、そんな苦悶の声を上げて……。お前は俺を大した騎士だと褒めたが、俺は逆にがっかりだよ……。まさかこの程度で終わる事は無いだろうな?」
嘲った笑みを含んだ言葉と共に、黒騎士がその姿を現す。
邪神は黒騎士のランスに貫かれながら、そんな黒騎士に向かって言った。
「そ……そうか。何もお前がそこまで動く必要は無い……。私の頭上で盾だけを物質化させ、私が飛び退いた所に槍を構えて霧状態を解除すれば……私が勝手にお前の槍に貫かれるという事だな……!!ふ……ふふ!!本当に大したものだよ……!!黒騎士!!」
「更にここはお前が作り出した重力場の範囲内だ。つまり……このランスはいつも以上に重く、簡単に引き抜くことが出来まい?では……このまま内部から破壊させてもらう……」
その言葉と共に黒騎士はランスへ魔力を籠める。黒騎士の得意戦術、ランスで貫いた相手を内部から魔力破壊する戦法である。
「邪神様!!?」
地べたに這いずっているパイモンが、慌てて邪神へと叫ぶが……邪神は何処か楽しそうに笑うと、ポツリと唱えた。
「『
「!!!」
その呪文と同時に、黒騎士は後ろへと引っ張られてそのまま祭壇へと激突する。
「おいおい。もう決着のつもりか?戦いは始まったばかりだろう?……なぁ?黒騎士よ……」
そんな黒騎士へ、ゆっくりと貫かれた胸を再生しながら余裕の笑みを浮かべて……邪神は笑いかけるのであった……。