最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
暴走して俺達に牙を剥いていた、聖王騎士団第一席・獅子王レグロスが邪神アズライールと名乗る女に向かって剣を振るう。
「じゃあああああああああああしししししししいんんんんんんんん!!!!!!」
「…………ほう?」
憎悪の叫び声と共に振るわれるその一撃を、邪神は特に驚きも無く手を翳すと……
「『
「じゃぁああ!?」
重力魔法を使い、地に伏せさせる。
圧倒的重力に、レグロスは這いつくばる様にうつ伏せになると、ピクリとも動けなくなった。
邪神はそんなレグロスをしげしげと眺めると……口元をニヤリと歪めて言った。
「呪いによって暴走している奴らは、その呪いの因子である私に対しては敵意を抱くことは無い……。だが……レグロス……お前の憎悪は、それを遥かに上回っていたんだなぁ……。くくく。本当に……ははは!お前は無様な男だよ……レグロス……」
「れ……レグロス……!!」
魔獣に囚われている聖王ヨハネが、地に伏しているレグロスに苦悶の声を上げるが……正直今俺はそれ所では無い!
邪神は未だコウの首を掴んでおり、コウが苦しみ喘いでいるからだ!!
俺は即座に自身の守護霊に聖弓を転送して、矢を射させる!!
「む?」
守護霊から撃ち出された矢を、邪神はコウを掴んでいない手で無造作に掴むが……それにより、俺に掛けている重力魔法が少し弱まった!!
俺は重力魔法という、強力な魔力によって発動出来なくなっていた瞬間移動を、瞬時に発動させ一瞬で邪神との間合いを詰める!!
「おお!?」
「邪神様!!?」
そして剣を抜き放ち、コウを掴んでいる邪神の腕を切り落とした!!
正直腕よりも首を墜とした方がいいだろうが……こういった手練れは、致命傷となる攻撃には確実に対処してくるだろう。たとえそれが不意打ち気味に放たれた攻撃だとしてもだ。
だが、恐らく自己回復が簡単にできるであろう邪神は、腕を切り落とされても特に問題なく回復出来る為……逆にそういった所への警戒心は少し薄れる。
故にこうして簡単に邪神の腕を切り落とす事が出来るのだ。
俺は斬り落とされた腕を払いのけ、すぐさまコウを抱き止める。そして間を置かず守護霊に矢を連射させつつ……一気に奴の間合いの外へと移動する。
守護霊はそんな俺の動きを読んでおり、矢を射ながら直ぐに俺の傍へと移動してくる。
俺の瞬間移動は、俺自身にしか適用されないので……コウを抱きながらでは瞬間移動を発動する事は出来ない。
俺は息も絶え絶えになっているコウを守護霊に抱き渡すと、聖弓を受け取り守護霊に目配せする。守護霊は直ぐに俺の意図を察し、その場を一瞬で後にした。
俺は瞬間移動で先にこの場に到着したが、今、聖女マリフィセントとコウの姉である剣の勇者ミリヤも、我が国でも選りすぐりの駿馬でこの王都へと向かっている筈だ。
始めは俺も馬でこの王都を目指していたが……非常に嫌な予感がして、直ぐに王城へと瞬間移動したのだ。
だが、そもそも予定では今日中には王都に到着する筈だったので、ミリヤ達も何を察して更に馬を早く駆けさせているだろう。
直ぐにコウをマリフィセントの元へと送り届けて、彼女に回復してもらう必要がある。
それにしても……あのいけ好かない槍の勇者マキシモ……。
今はホズムと名乗っている、インチキ探偵の読み通りに事態が動いているのは、非常に気に入らないが……邪神が復活してしまっている以上、奴の言う、邪神弱体化の作戦がこれからの戦いの要となる。
だが……奴の作戦までは、まだまだ時間が掛かるだろう。
「キーー!」
コウのペットである魔物のキーが、俺の攻撃により邪神の気が逸れた事で、邪神の足元から抜け出して俺の傍をパタパタと飛びまわる。……どうやら俺の援護をしてくれる気でいるようだ。だが……
「その気持ちがありがたいが、お前はコウの元へと行け」
「キィ……」
俺を心配そうに見つめる見つめるキーに、苦笑いが漏れる。どうにもペットというのは、主人に似るらしい。……何とも優しい奴だ。
「俺は大丈夫だ。……それよりも、コウの傍に居てやれ」
「……キーー!!」
キーは一瞬の間をおいてコクリと頷くと、勢いよく飛び出して行った。
……さて、では俺も全力で邪神の足止めをするとしよう。
正直コウを助ける事が出来たため、この場は瞬間移動で離脱してもいいのだが……このまま邪神たちを放っておくわけにはいかない。
そう思い邪神に目をやると……奴は想像通り、俺の切り落とした腕を既に回復で生やしており、何事も無かったかのように口元を上げている。
そしてその足元にはレグロスが転がっており、レグロスをゴロゴロと足で転がして遊びながら……邪神は口を開いた。
「ははは。いやはや……腐っても勇者君か?思った以上に実力者だな!ここに転がっている雑魚とは大違いだ!」
「じゃぁ!!……しぃいい……」
言葉と共にレグロスを強く踏みつけ、機嫌が良さそうに嗤うと、邪神は更に言葉を続けた。
「ああ……困った……。
「……ぬかせ。お前如きがコウに手を下せる訳がないだろうが。身の程をしれ……邪神アズライール」
「は……ははは!!そうかそうか!!では……私に身の程を教えてくれたまえ?
そう言うと邪神は掌を俺に翳してくるが……何度も同じ魔法が俺に通用するとでも思っているのか?
俺は瞬時に瞬間移動を発動させ、先程邪神が俺に向けてはなった重力場の範囲から外れる程度に距離を取り、弓を射る。
「ほう!」
俺の想像通り、邪神は魔法発動を止め弓を躱す。
邪神の魔法は恐らく重力や引力を操作するものが主なのだろう。
魔法の発動は非常に速く、範囲も脅威的だが……それでも俺の瞬間移動の方が発動が早い。
それと、恐らく奴は重力魔法を発動する際、奴が決めた荷重力発動範囲を、瞬時に変更する事は出来ない様だ。
何故ならそれが出来るのならば、瞬時に俺の弓を重力で反らすか、瞬間移動した先の俺を荷重力で捕らえる事が容易な筈だからだ。
つまり奴の重力魔法発動プロセスは、まず荷重力を発動する範囲を決定し、次に魔法を発動して荷重力場を作り出す……といった所だろう。
さらに範囲が狭ければ狭い程重力は力を増し、逆に範囲が広くなれば重力の力は弱くなる筈だ。
でなければ俺諸共この辺一帯に荷重力を掛ければ俺の動きを止める事が出来るのだから。
万が一超広範囲で荷重力魔法を発動したとしても……恐らく動きが止まる程度で、瞬間移動が発動出来ない程の重力では無い筈だ。それに……超広範囲の超荷重力を発動出来たとしても、それを発動するのにはあれ程手軽に魔法を発動するのでは無く、何かしらの溜めが必要なはずだ。
同じように引力魔法も、予め引き寄せたりする範囲を決めてから発動するのだろう。
故に、こうして瞬間移動を繰り返しながら攻撃を続ければ、少なくとも奴の重力魔法や引力魔法に捕まる心配は無い。……加えて……!
「じゃあああししししししいいいいんんん!!!」
俺の攻撃により注意を逸らされたせいで、邪神の足元にいたレグロスが解放され、魔力を全開にして邪神へと攻撃を繰り出した。
聖王騎士団第一席・獅子王レグロスの魔力は、自身が望む獣へと姿を変える事が出来ると聞く。
そしてレグロスはもっぱら、魔力を獅子の形に変えて相手を制圧するのだ。……故についた称号が『獅子王』なのである。
更に聖王騎士団は、入隊と共に守護霊と契約するとこができ、レグロスの守護霊はその巨体で大陸を飲み込むとされる伝説の巨大魚・バハムートの眷属達である。
基本的に普通の魚程度の大きさだが……群れをなしその牙で相手を制圧することが出来るのだ。
守護霊とは基本的に一人一体なのだが、レグロスが契約しているのは大本は一応バハムートの為……その眷属達は例え打ち倒されようとも無数に召喚する事が出来る。
レグロスは瞬時にバハムートの眷属達を無数に召喚し、邪神へと同時攻撃を仕掛ける。
邪神としては、荷重力範囲を一気に広げてレグロスごと守護霊を押しつぶしてしまいたいだろうが……それをすると、その隙をついて俺が上空に瞬間移動し、奴の脳天に矢を射る事が出来る。
恐らく邪神もそれを警戒して重力魔法を発動しないだろう。
そう思い俺は瞬間移動を繰り返しながら攻撃しつつ、奴の動きを警戒していると………邪神はニヤリと嗤い、口を開いた。
「『
次の瞬間、ズタズタに引き裂かれるバハムートの眷属達……そして……!!
「じゃぁああああああいっししっししぃいい!!!?」
「れ……レグロスぅ!!!」
両腕が引きちぎられるレグロス。そして響く聖王ヨハネの悲痛な叫び声。
だが……やられたのはレグロスとその守護霊だけでは無い!!
「ぐうぅうう!!!」
俺の左腕も、肩の根元から引きちぎられていたのだ!!思わず俺は苦悶の声をあげ、その場で膝をついてしまう!!
一瞬で俺やレグロスを制圧した邪神は、ニヤニヤと嗤いながらゆっくりと口を開いた。
「はは!読みが外れたな?勇者君?それにしても……まさか三重の魔法を使わされるとは思わなかったぞ?これを使ったのは、神々やバエルを除き、お前達以外では……黒騎士ぐらいだ……。誇ってもいいぞ?この私に本気を出させたのだからな?」
「黒騎士……だと……?」
痛みに脂汗を流しながらも、思いがけない名前に反応してしまうが……そんな俺に、邪神は絶望的な事を言ってのけた。
「ん?黒騎士と知り合いか?なら……挨拶しておくか?なにせ黒騎士は……
そう言って四角いキューブを召喚する邪神。
……まさか……まさか……!!?
「くくく。どうした色男?せっかくの美男子が台無しだぞ?……そんなにショックだったか?黒騎士が……封印されたのが………!」
そう言って口元を吊り上げる邪神に、俺は初めて恐怖と絶望を感じた。
何故なら……黒騎士は、どんな強敵であっても負ける事のない最強の騎士だったからだ。
そして、そんな最強の黒騎士に……俺は何処か憧れの様なものを感じていた。
どんな逆境であっても、黒騎士がいるならば何とかなるだろう……。そう思っていたのだ……!!
「くく……はははは!!おいおい!!そんなに絶望するなよ?勇者君程の人間が絶望してしまったら……私はもっともっと強くなってしまうぞ!?ふふ……はは……はははははははは!!!」