最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
第211話 現状(勇者エイシャ視点)
「……様!……エイ……様!!」
声が聞こえる……。
俺を呼ぶ……女性の声が……。
「エイシャ様!!目を覚まして!!」
この声は……!!
◆
「っは!!!」
「うわ!!びっくりしたぁ!!」
コウの声が聞こえて、俺の意識は完全に覚醒する。
俺が目を覚ますと、俺を覗き込んでいた女子生徒(?)が驚いて声を上げた。
俺はベッドから身を起こし、周りを確認する。どうやらここは医務室の様だが……一体……。
「……すまない……ここは……」
「みんなーーー!!勇者様、目を覚ましたよーーー!!!ティファ!!!ソフィ!!!」
俺が女子生徒に声を掛けると、彼女は慌てて飛び上がり、叫びながら部屋を出て行ってしまった。
そんな女子生徒に呆然としていると、バタバタと慌てる様子で何人かの女子生徒が、そしてその後ろから、少し殺気を纏ったエルフのソフィアが部屋に入ってきた。
そして女子生徒達のリーダーであろう、眼鏡をかけた女子生徒が口を開く。
「勇者様!!あの……!!コウは!?コウは無事なんですか!?今何処にいるか分かりますか!?シスタ先生は!?皆無事なんですか!?聖王様達は……!!」
「……ティファ。そんなに一気に話しても、勇者エイシャが混乱するだけ」
「……あ……。確かに……」
矢継ぎ早に俺に質問してくるティファと呼ばれた女子生徒を宥めて、今度はソフィアが俺の前に立つ。そしてソフィアは、俺を冷たい目で見下ろしながら口を開いた。
「勇者エイシャ。貴方はコウに会ったの?」
「……ああ。コウを助ける為に………王城へと赴いた」
「………そう。……で?当のコウは何処?お姫様が貴方を連れて学園まで来た時、コウは居なかった……。貴方は腕を奪われたみたいだけど……コウは?」
今にも人を殺しそうな目で俺を射抜くソフィアだが………俺はその視線を、甘んじて受けながら答える。
「分からない………。コウが邪神に襲われた時、俺は守護霊によってコウを逃がしたが……その後結局俺が邪神に敗北してしまった為、コウがどうなったかまでは……確認できなかった……。すまない……」
俺が目を伏せて謝ると、ソフィアは一瞬口を強く噛み………そして大きく息を吐き出して言った。
「……はぁああ。勇者エイシャが敗北するような相手だから……私が貴方を責めるのはお門違いだけど………でも……コウは貴方の前では殺されてはいない……それだけは……間違いない?」
「ああ。コウは生きている。それだけは………言える。何故なら」
俺は、失っていない右腕に神器・聖弓ウルスタッドを召喚し、言葉を続けた。
「俺は神器を失っていない。この神器はコウが……
力強くそう宣言する俺を、ソフィアは正面から見据えて……目を伏せて言った。
「分かった……。ごめんなさい、私だって結局コウの傍に居なかったのに………貴方を責める様な感じになってしまった……」
「………気にするな。君がコウを想っている事は俺も知っている。俺が君の立場なら……俺も恐らく同じ事をしただろう……」
俺がそう言うと、ソフィアは一瞬泣きそうな顔をして……首を振った。
そんなソフィアに、俺は再度声を掛ける。
「済まないが……教えてくれないか?ここは何処だ?あれから一体……」
「それは私が答えるわ?勇者エイシャ様……」
俺がソフィアに質問すると、部屋の扉からまた一人の女性が入って来た。……彼女は……!
「フローラ姫……か……?」
「ふふ。もう姫じゃないけどね?………お久しぶりね?元婚約者様?相変わらずつまらなそうな男で、逆に安心したわ?」
そう言ってフローラ姫は髪をかき上げると、ニヤリと笑うのであった……。
◆
その後フローラ姫から語られたこれまでの経緯と現状。
俺は邪神に敗北した後、命からがら瞬間移動で逃げ出したが……正直あの場から離れる為だけに力を使った為、どこに飛ぶかまでは決めることができなかった。
案の定城の近くで倒れていた様だが、それをフローラ姫とその使用人のヒサギが助けてくれたらしい。
因みにフローラ姫たちは、俺達の戦いを見届けた後、邪神に城を乗っ取られる前に何人かの使用人と侍女を連れて、さっさと城から抜け出していたらしい。
「コウ様をすぐにでもお助けしたかったけど……貴方の召喚獣が何処かに連れて行ってしまったからね?それに、貴方を打ち倒すほどの化け物、あんな奴を見たら……お父様はすぐにでも降伏するだろうし、お兄様達だって長い物には巻かれろ!ってタイプだから従うだろうけど……私、逆らっちゃいそうだから、その前にさっさと逃げたわ!」
得意げにそう言うフローラ姫には少し呆れるが……ともかくその後、城から逃げたフローラ姫達はたまたま倒れている俺を見つけて……拾ってくれたらしい。
そして暴走している聖王騎士団から逃げているソフィア達に出会い……共にフォストニア学園まで逃げてきたそうだ。
つまり今この場所は、王都一の学園であるフォストニア学園という事になる。
その後、副学園長に事情を説明し、フローラ姫が先導してこのフォストニア学園で籠城をしているらしい。
何故ならあの後すぐに、邪神は拡張魔法で王都全体にこう通達したからだ。
「諸君。御機嫌よう。私の名前はアナスタシア・モンルミエール。逆族により国を追われていたが、今、玉座を取り戻し、こうして王女へと返り咲いた!!王都の民衆たちよ!!今、私の手の者……聖王騎士達が街で暴れているが、これは私の総意である。そう……諸君らは、この王都で最早何をしてもいいのだ!!奪え!潰せ!殺し合え!!この王都に弱者は居ならない!!強い絶望と殺意がある者だけが生き残る、素晴らしい楽園に私が作り替えると約束する!!……なお、私の名に従わず、逆らう者には……必ず絶望と、死を約束しよう……!そう……勇者の様にな??」
最初は戸惑っていた民衆たちだが……次の瞬間、粘土の様に押しつぶされた警備隊の隊舎を見て……この通達は間違いではないと悟る。
そして戸惑い王都を出ようと逃げ惑う民衆たちだったが……王都の外に出る事は叶わなかった。
何故なら突如王都の境目の地面から、巨大な壁が立ち上がり王都を覆ってしまったからだ。
数百メートルに達する外壁を登って上がる事など不可能で、更に壁には出入り口が二つしかなく、そこには巨大な魔物が出入りを見張っていた為……民衆は王都から出る事すら出来なくなってしまったのだ。
その通達を聞いて、フォストニア学園の副学園長とフローラ姫は……このフォストニア学園を王都最後の砦にする事を決めた。
すぐに魔法科の教師と生徒の力を合わせて、フォストニア学園全体を覆う結界を作り出し、外からの侵入を阻んだ。
そして騎士課の教師と生徒達は……逃げ場を失った民衆達を助け、このフォストニア学園へと招き入れたそうだ。
幸いフォストニア学園は学園内で農園などを営んでいる為、数カ月分の食料は確保しているそうだが……それもいつまで持つかは分からない。
この非常事態に、一刻も早く他の街や諸外国からの救援が欲しいのだが……連絡用の魔道具も、何故か機能しないらしく、外との連絡は絶望的らしい。
「貴方の腕は聖女教会のシスター達に何とかして貰ったけど……残念ながら、腕を新しく生やす事なんて出来なかったわ?」
全く悪びれも無くそう言うフローラ姫だが……そこに関しては何も問題は無い。
今今こちらに向かっている聖女マリフィセントならば、他人の腕を生やす芸当など簡単だろう。
しかし……俺はこの後思いがけない事をフローラ姫から言われるのだ。
「それと……貴方、一週間も寝てたのよ?」
「……………は?」
一週間……!?一週間だと!!?
「な……ならば、聖女マリフィセントやミリヤ達は……!!」
「………残念ながら、この一週間で聖女様達は……王都にはお越しになっていないわ。むしろこの一週間、この王都に近づく者は……恐らく居なかったと思うわ」
そう言って肩を竦めるフローラ姫に、俺は愕然としてしまう。
だとしたら、コウは一体どうなった?
俺の守護霊と共に、聖女マリフィセントと合流出来ていればいいが……もし出来ていないのならば、コウは一週間も……どこへ……!?
……外の状況が何もわからない以上、俺は守護霊を呼び戻す事も出来ない。
俺はこの絶望的な状況に、只々拳を握りしめるしかなかったのである………。