最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
「ところで気になってたんだけど……貴方どうして王都に戻って来たの?」
無力感に拳を握りしめていた俺に、フローラ姫が首を傾げて聞いてくる。
確かに……俺は王都エルセリオ……もっと言えば、エルセリオ王国への入国は禁止されていた。
それはあの阿保探偵が、魔族をいぶり出す為に素っ頓狂な推理で、俺を黒騎士だと言った事もあるが……なにより、元・剣の勇者クロスからコウを助ける為、ハッシュ・ベルンハイト王を脅した事が一番だろう。
それにより俺は父からエルセリオ王国への入国を禁止されていたが……そんな俺達を訪ねて来たのだ……。あの阿保探偵……ホズム・エドワードが………。
奴は俺やマリフィセント達に、このままではこの王都エルセリオで邪神アズライールが復活してしまう。というかもう復活してしまうだろう。
邪神には聖王騎士団だけでは対処できず、何よりコウにも危険が及ぶ可能性が高い。……邪神はクロスより先代の剣の勇者を簡単に葬ったとされる為、正直俺一人でも荷が重いだろうから……今この大陸にいる勇者達の力を合わせる必要がある。
そう饒舌に語ると、奴は満足したのか馬を走らせ、俺達の答えも聞かずにさっさと居なくなってしまった……。
聖女教会のごたごたで、結局ミリヤの洗礼もままならなかったマリフィセント達だが……奴の話を放置しておくわけにもいかない。
マリフィセントは最悪聖女の立場を捨てる覚悟で、そして元・剣の勇者クロスの屋敷を襲撃した罪を、このエルセリオ王国で問われている為、簡単に入国出来ないミリヤは……犯罪者として追われる立場になる事を承知で、この王都エルセリオを目指して旅立った。
当然俺も、父や兄の制止を振り切り、最悪王族との縁を切ってもいい………その思いでマリフィセント達と共に、この王都を目指した訳だ。
そして馬を全速力で走らせ、王都を目指していた訳だが…………唐突に俺は嫌な予感に襲われた。
こういった嫌な予感は、俺が培ってきた経験則によるもので……大体外したことは無く、俺は瞬時にコウの危険を察知した。
マリフィセント達に最低限の言葉を残し、驚きの声を上げるミリヤを無視して……俺は王都エルセリオの王城へと瞬間移動した訳なのだが…………まぁ結果はお察しだ。
結局俺は大した役に立つことも無く、無様にこの場で拳を震わしている訳である。
その事を掻い摘んでフローラ姫に説明すると………フローラ姫は合点がいったのか、「なるほどなるほど……」と呟いて頷いた。
「これで話が分かりました。だから先程貴方は、聖女様達が王都へまだ来ていないか……と聞いたのね?確かに……その話だと、一週間もあれば聖女様達は王都に到着しててもおかしくはないものね……。だとすると……聖女様達にトラブルがあった……か!この王都を囲む壁を突破できずに、まだ王都へ侵入出来ていないか……よね?」
「……まぁそのどちらかしか考えられんな。……どちらにせよ、コウがマリフィセント達と合流さえ出来ていればいいのだが……」
俺の言葉にフローラ姫は顎に手を当てて答えた。
「確かにね。でも……多分だけど、コウ様は聖女様達と合流出来たんじゃないかしら?だって現に、貴方の神器が失われていないというのなら……何かしらがコウ様の命を救ったとみて間違いは無い。そしてそれは……恐らく聖女様の可能性が高いでしょ?」
「それは……そうだな………」
「ふふ!なら話は早いわ!!だって王都の外には既に私達の味方がいる!!だとしたら……まずはその方々と合流して、共に邪神を打倒する手を考えないとね?ここで籠城して腐ってても仕方が無いわ!!ヒサギ!!」
そう言うと、フローラ姫は使用人のヒサギを呼び寄せる。
そしてこれからの事について作戦を練り始めるのだが………正直そんなフローラ姫を見て、俺は内心驚いていた。
フローラ姫は俺の元婚約者だが、正直当時の俺は、フローラ姫は只の我儘お嬢様としか思っていなかった。
自分勝手な事を言って周りを困らせているフローラ姫を、内心見下してすらいたと思う。
だから………こんな危機的状況で、尚且つ邪神に王族としての地位すら奪われたというの………ここまで希望を持って行動できる女性だとは思ってもみなかったのだ。
フローラ姫はニヤリと笑うと、呆然としている俺を見据えて言った。
「私、負けっぱなしは性に合わないの!だって私は我儘だから!このままゲームセットなんて絶対に認めない………私達はまだまだ、戦える!!………そうでしょ?勇者エイシャ様?それとも………もう心が折れちゃったの?」
そう言って挑発的に笑うフローラ姫に………俺もまた、ニヤリと笑みを返す。
「ぬかせ。こっちも一週間も寝たきりで、体が訛っていた所だ。さっさと始めるぞ?……邪神への反撃を……!」
◆
さて王都を出て、外にいるであろうマリフィセント達と合流する事になったのだが……そこで誰が行くかという話になった。
この学園に籠城しているメンバーで、戦闘能力が高いのは……片腕を失っているとはいえ、まだまだその辺の教師や学生に負ける気はない俺と、そしてコウの友人でエルフのソフィアだ。
ソフィアは基本的に行動がコウ第一優先で、その他は二の次の為、当然俺についてくると思っていたのだが………。
「……私はティファ達を守る為にこの学園に残る。この学園は結界で守られているけど、邪神の僕と化した……聖……騎士?だっけ?達は、何度も結界の破壊を試みている。それを聖騎士?を裏切って私達について来た、赤髪の騎士……「バルフレッドさんね?」……と、一緒に対処してるけど……ここで私が抜けると、あの赤髪だけじゃどうしようも無いと思う」
目を伏せそう言うソフィアに、俺は正直驚愕していた。
まだソフィアとはそんなに長い付き合いでは無いが、まさかソフィアがコウでは無く……学園の人間達を優先するとは思っていなかったからだ。
「だって……コウに頼まれたから。ティファ達を助けてくれって……。だから……無責任にここを離れる訳には……いかない……」
下唇を噛み、悔し気に声を出すソフィアを見て、俺はまたしても驚かされる。
彼女は自分の欲望の為に、コウとの約束を無下にする様な人物では無かった訳だ………。
まったく、フローラ姫といい、ソフィアといい、俺は本当に人の本質を見る事が出来ていなかった訳だな………。
「本当は……本当は私もコウに会いたいけど……!!……ここは貴方に任せる。……コウをよろしく、勇者エイシャ……」
「…………お前の気持ちは良く解った……。コウの事は俺に任せておけ……!学園の守りは任せたぞ?」
俺はソフィアの気持ちに応えると、改めてフローラ姫を見据えた。
「王都の外へは俺一人で行く。ソフィアならまだしも、他の連中がついてくるのならば、正直俺一人の方がまだいい筈だ……」
「あら!それはどうかしら?両腕が万全な勇者様ならまだしも、貴方は弓を片手で引けるの?」
「……弓を引けなくても、俺には剣がある。………それだけでもその辺の連中に遅れは……」
少し声を落としてしまった俺に、フローラ姫はニヤリと笑うと指を鳴らして言った。
「ヒサギ!!勇者様についていってあげて?」
「承知いたしました。では勇者様、どうぞよろしくお願いします」
そう言って綺麗にお辞儀するフローラ姫の使用人のヒサギだが………この女は俺の話を聞いていなかったのか?
聖王騎士ならいざ知らず、その辺の騎士課の学生にすら劣る使用人を………。
そう思い眉をひそめ、フローラ姫に苦言を言おうとした瞬間!
「失礼します勇者様」
その言葉を聞き終える前には、既に俺の首筋に大型のナイフが構えられていたのだ!
「……!!?」
「ふふ!驚いた?ヒサギはローレンシアン大陸のプロインセ王国の王都ジャマハドの特殊部隊『スラッシュ』の元隊長なのよ!?……って言っても、正直私もその特殊部隊のことはよく分からないけどね?あはは」
得意げに語るフローラ姫だが……俺は唯々驚愕していた。
確かに少し油断していたのは認めよう。だが………まさか使用人に、俺が不覚を取るとは……!!
「この大陸と違い、あちらではあまり魔力が流通していないので、どちらかと言えば銃器などが発展しています。故に……この大陸の人間や魔族達には想像もつかない戦法なども熟知しておりますので……足手まといにはならないかと思います」
そう言うとナイフを下げ、ヒサギは右腕を差し出した。
「という訳で、お嬢様の命令ですので……よろしくお願い致します。勇者様?」
そうしてニヒルに笑いながら差し出された手を……俺は苦笑いをしながら取るしか無いのであった………。