最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
深夜。
本来なら王都は寝静まっているはずの時間だが………街は騒々しく、下種な笑いと狂気と暴力で満ちていた。
そんな王都を、俺とヒサギは誰にもばれぬ様に静かに……しかし俊敏に行動していた。
「ところで……勇者様は瞬間移動が使える様ですが……何故、今使われないのですか?……私に気を使って、という訳では無いでしょう?」
建屋が折り重なった裏路地で、たむろしていた男達を無手で一瞬で無力化しながらヒサギが俺に問いかける。
………どうでもいいが、この男………本当に腕が立つな。こういった対人ならば、俺などよりよっぽどの使い手だ……。……正直彼の技術を、全てが終わった後教わりたいぐらいだ……。
そんな事を考えつつ、俺はヒサギの質問に答える。
「使いたいのは山々なのだが……どうやら王都を覆う壁が、移動系の魔術に作用している様でな。他の魔術ならば問題なく使える様だが、移動術を妨害する結界で、この王都を覆っているのだと思う。故に今、瞬間移動を使う事が出来ないのだ……」
「なるほど……」
などと会話をしつつ、俺達は特に問題も無く壁の出入り口へと辿り着いた。
フローラ姫の説明通り、出入り口付近には巨大な一つ目の魔物が三体程おり、深夜だというのに警戒を怠ることなく目を凝らしている。……あれは……サイクロプスという奴か……。
「……一つどうでもいい質問をしていいか?」
「何でしょうか?」
この壁に、二つしかない出入り口の一つ……東側の出入り口を、少し遠くで見つめながら、俺はヒサギに問う。
「なぜ邪神は……壁に出入り口を設けたんだと思う?普通に考えれば、閉じ込めたいのならば出入り口は不要だろう?」
「……奴は絶望を糧に強くなるそうですね。ならば……王都から出れるかもしれないという淡い期待。そして出入り口に辿り着いた時、あの門番の魔物を見て、絶対に出れないと悟る絶望……更には、あの門番のせいで外からの救援も儘ならないのではないかという絶望も合わせて、邪神への最高のスパイスになる……っと言った所でしょうか?」
「……やはりか………」
まぁヒサギの言う事が正解なのだろうな。いかにもあの邪神が考えそうな悪趣味な事だ………。
「ですが……これは我々にとっては好機です。邪神の奴は我々を……人間を完全に見下している。そして自分に反抗して来る者には楽しそうに対処するが………それは自分が絶対に負けないという自信からくる余裕。裏を返せば、ここで私達がこの門番を対処した所で……邪神が飛んでくる様な事態にはならず、奴はこの事態を楽しむはず……」
「……ふむ。では……どうするのだ?」
するとヒサギはライフルを構えて……ニヤリと笑って言った。
「あの阿呆面を下げて目を見開いているデカブツどもに、それこそ目にものを見せてやりましょうか……!」
次の瞬間、辺りに響く銃声と共に……大きな一つ目を撃ち抜かれて痛みに悶えるサイクロプス!そして間を置かずヒサギは、二発目、三発目を残りのサイクロプスの瞳に撃ち込むと走り出した!
俺は後を慌てて追いながらヒサギに問う。
「このまま門を突っ切るのか!?だが……もしかしたらサイクロプスたちは、直ぐに再生するかも知れないぞ!?あの程度でやられる連中ならば……すでに何人かは外に出れるはずだ!!」
「っくく。そりゃそうでしょう」
ヒサギはまたニヤリと笑うと、目を再生して怒り狂うサイクロプスの瞳に向かって……走りながら正確に弾丸を撃ち込む!!
またもや瞳に弾丸を撃ちこまれたサイクロプスは、今度は目を押さえて叫び声を上げながら……仰向けに倒れてしまった!!
そんな仲間のサイクロプスを見た他の二匹は、慌てて両手で目を覆う。……しかし。
「っは!間抜け共!勇者殿!奴ら
「つまらん!!」
俺は直ぐに鞘から剣を抜き放ち、目を覆っている二匹のサイクロプスの脚の腱を瞬時に斬り裂く!
飛び道具に警戒していたサイクロプスたちは、突然の脚への攻撃に……痛みの叫び声を上げながら倒れてしまった!
「お見事。このままとどめを刺したいところですが……ここは放置しましょうか?恐らく奴らはこの門から離れる事は無いでしょう」
「確かに、邪神の命令を無視するわけにはいかないからな。しかし……外にも同じように門番がいると思うが、そっちはどうする?」
俺がヒサギにそう疑問を投げかけると……ヒサギはニヒルに笑ってこう答えた。
「そりゃあ困った。じゃあ………門から出るのを止めましょうか?」
◆
「今すぐこの辺りを探すのです!!まだ遠くには行っていない筈!!」
「は!!」
「承知しましたぁあん!!」
「ハイィ!!」
私の号令を受けて、周りの騎士たちガ、行動を開始する。
私の名前は聖王騎士団第十二席・黄金のクライブ。
あの忌々しい黒騎士に敗北した後……失意のうちにいた訳だが、一週間前のあの日……突然の胸の痛みと、頭がおかしくなるような感覚に……少し暴走したアト……私は正気に戻り、天命を受けた。
そう……何故気付かなかったのだろうか?
我々聖王騎士団は………世界を壊し、絶望させる為に存在しているという事にぃ!!
そして全ては邪神様の為に!!この世界は邪神様のタメィにぃ存在しているという事に!!はぁい!!
さて……話は戻るが……本当に哀れなものだ……。
私は一度打ち倒されて、怒りに震えるサイクロプスたちを見て……この王都から脱走を企てた哀れな犯罪者共に、心から同情していた。
恐らくは学園で籠城を続ける連中の一派だろうが……本当に哀れだ。
何故ならこの門は、決して奴らには開けられないからだ。
別に門がオブジェな訳では無イ。しかしこの門は……なんと邪神様への信仰心によって開くという不思議な門なのだ。
つまり邪神様を信仰し崇める者だけガ、この門をくぐる事を許されるのである。
つまり例え門番のサイクロプスたちをどうにかしても……決して開く事のない門に、奴らは絶望するしか無いのだ……。
恐らく犯人たちは、サイクロプス達を打ち倒した後……我々聖王騎士団が集まるまでの間、懸命に門を開けようとして……我々が辿り着いたため、姿を隠したのだろう。
故に……まだ学園までは戻れていない筈だ!!FUUUU!!
私は今、生まれてから一番頭がサエテイルと思う!!未だに邪神様に逆らう愚か者たちを捕らえ、邪神様に差し出してェ……お褒めの言葉を貰わないト!!!
こうして私は、すぐに来るであろう逆族たちを見つけたという報告を待つのである!!……そう、何時までも…………。
◆
「間抜け共め」
ニヤリと笑って俺達を探し回っている聖王騎士団を
そう見下ろして……だ。
それもその筈、ここはなんと数百メートルはあるであろう王都を囲んでいる壁の……その上だからだ!
「はぁ……はぁ……く!!もう……二度と……!!お前とは一緒に行動……しない!!」
俺は息も絶え絶えにヒサギを睨みながらそう言った。
サイクロプスを倒した後、直ぐに門へと向かうと思っていたのだが……なんとヒサギは踵を返し、門から離れた壁へと走ったのだ。
そしてその近くの茂みに隠してあった、ロープのついた巨大なボウガンを壁の上へと撃ちだし………驚愕の言葉を口にした!!
「さて、では……上りましょか?勇者様は片腕でしょうから、私と貴方をロープでつないで、私が先導します。悪いですが急ぎますので、そのつもりで」
それだけ言うと、ヒサギは俺と自分をロープでつないで、命綱もつけずに、先程ボウガンで上へと撃ち放って垂れたロープを掴んで……どんどん上り始めたのだ!!
俺も引っ張られる様に一緒に登るのだが……最初から壁を登るなら、なんでサイクロプス達を襲った!?
「おい!」
「しーー。……静かに。何故あのデカブツを襲ったか……ですが……。まぁ巡回している聖王騎士達を集める為ですよ。深夜とはいえ、流石に壁を登ってたら気付く連中もいるでしょう。だからワザとデカブツ達に暴れて貰えば、こっちに警戒する目が手薄になるでしょう。それに……この辺りのゴロツキ共は、道中にのしているので、我々を発見する奴は聖王騎士団ぐらいになる」
……なるほど……だから道中でわざわざこの辺のゴロツキを倒しながら進んでいたのか……。
「ですがもたもたしていると、門に集まった聖王騎士達が、今度は辺りを探し始めるでしょう。だから……勇者様も頑張って下さい?私一人では、正直もう登り切っていますよ?」
「……っく!言わせておけば……!」
そこからは……正直地獄だった。
俺に両手があったとしても登れるか分からない程の速度で、どんどん上へと昇っていくヒサギに引っ張られながら、片腕と足で必死について行ったからだ!!
そして……こうして今、門の頂上に到達して……俺達を探す為に集まった、聖王騎士達を見下ろしている訳である。
俺は息も絶え絶えでヒサギを睨み、先ほどのセリフを言うと……ヒサギは一瞬きょとんとした後、またニヤリと笑って悪魔の様な事を言い放った。
「くく。そりゃあ残念ですよ。ですが……まだ一緒に行動しましょう?何せ今度は……下らなきゃいけないんですからね?」
「……………あ…………」
そう言うと、ヒサギは反対側にロープを落とし……俺の腰を持ち上げ、まるで荷物の様に抱えると………そのままロープを掴んで飛び降りたのだ!!
「うお!!?」
「っはは!女の子の様な悲鳴を上げないで下さいよ?」
そのまま片手でロープを滑る様に急降下するが……こいつの手は何性で出来ているんだ!?普通は摩擦で大やけどだろう!!?
というか……俺を荷物の様に扱うな!!!
そんな俺の心の文句は、王都の夜へと消えて行くのであった……!