最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
シスタ先生を乗っ取り、この王都をも乗っ取った邪神と呼ばれる存在から逃げて、この学園で籠城する事一週間と五日。………私達の生活は、本当に一変した。
今この学園は、新たにこの国の王となった邪神……アナスタシア・モンルミエールの圧政から逃げ出した人達と、元々この学園にいた学生たちで成り立っている。
だが………希望の見えないこの状況に、皆、心身ともに疲労しているし………だからといって、この国から逃げ出す事も出来ないストレスで、学園で生活している人達は最早限界に達している気がする。
私達は、今この学園で指揮を執ってくれているフローラ姫の下、皆に食事を運んだり、結界を張ってくれている魔術課の生徒達に飲み物を届けたりして、皆の役に立とうと奮闘してる。
しかし…………
「もう無理なんだよぉ!!この国は終わりだ!!もう皆死んじまうんだよぉ!!!」
「やめてよ!!そんな事言うんだったら、この学園から出て行ってよ!!沈んだ気持ちが移るから!!」
「なんだとぉ!!?」
「あーーーーーあーーーーーあーーーーーー世界は終わりだァ!!!あははははは!!」
「んだこら!!それは俺の今日分の食事だろうが!!てめぇ盗っただろう!!?」
「はぁ!!?言いがかりつけてんじゃねぇよ!!殺すぞコラァ!!!」
「はぁああ。今日の入浴時間まだぁ!?昨日できなかったから、さっさとしたいんだどぉ!?」
「もーーーーー!!ほんっとうに最悪!!誰か助けてよー!」
…………学園の中は今は安全だが、この安全が何時まで続かの保証なんて無い。
今日も今日とて至る所で、不満、嘆き……そして喧嘩が勃発して、それを止める事は出来ない。
本当はあの間に私達が入って、勇気づけたり、喧嘩を止めるのがいいのだろうが………正直ああいった人たちの相手が出来る程、私達に余裕がないのも現状だ。心も……体も………。
「ティファ……勇者様達、大丈夫かなぁ……。コウに……会えたかなぁ……」
いつも明るく元気なアンナが、沈んだ声でポツリと呟く……。
そう、勇者様達が壁の外へ出る為に、この学園を後にして………早五日が過ぎていたのだ。
当然学園の外の状況が分からない私達は、勇者様達の安否も分からないので、ただ無事を祈るしかない。
「……大丈夫ですよ、アンナ。勇者様達はきっと無事です。コウとも会えて……きっと仲間を沢山引き連れて、この王都を救う為にまた戻って来てくれますよ!」
自分で言っておきながら、何ともまぁ希望的観測だ。まったく現実味が無い。
私はそんな無責任な事を言う自分に呆れながらも、とりあえずアンナを慰めつつ………自分のやるべきことに集中する。
今私達は、交代で学園に結界を張ってくれている魔術課の皆さんに、食事と飲み物、それに着替えなどを持って、魔術課の校舎を目指しているのだ。
「はあぁあ……マジで荷物重いんですけど……。ねぇソフィア!アンタ魔法で荷物浮かせらんないの!?」
「できないことはないけど、私が魔法で荷物浮かせたら、そのまま突風で吹き飛ぶと思うよ?こんな軽いものを風で浮かせるなんて、そんな微細な魔力調整するぐらいなら……手で運んだ方がマシ」
「マジかーーー。やっぱ魔法も万能じゃ無いってことねー……」
私達の後ろを歩くナーサ達が文句を言いながらついてくるが……正直ナーサがここまで強い子だとは思ってなかった。こんな籠城生活、最初に根を上げそうな感じなのに……こうして文句を言いながらも私達について、皆の為に働いている。
それにソフィアだって、コウが心配で私達所じゃないだろうに……こうして私達を守る為に、学園に残ってくれている。
そんな二人を見て私は、私達もそう簡単に弱気になる訳にはいかないな……と、改めて思うのだ。そしてそんな思いはアンナも同じみたいで、少し顔を伏せていたアンナも、ナーサ達を見て笑顔を作った。
「あはは!!ナーサ!!もうちょっとで魔術課の校舎だよ!!がんばろ!!」
「はいはい……。あんたはいつも元気よねぇ……アンナ……。羨ましいわ」
「ふふ!それだけが取り柄ですので!!」
そう言って元気に駆け出すアンナを見て、私も気合を入れ直すのだ。
「さぁ!アンナの言う通りもう少しで魔術課の校舎ですよ!行きましょう!」
私達はまだもう少し頑張れる。こうして一緒に頑張ってくれる友達達がいる限り。
だから………だから早く、一刻も早く助けが来るのを、心から望むのだ。私達の心が、完全に折れてしまう前に………早く………!
◆
慌ただしい一日が今日も過ぎ、また助けが来ない事にため息をついて私はランプの灯を消す。
毎日の日課である日記を書き終え、既に寝息を立てているアンナと同じベッドで寝ようと机から移動しようとした時、
墨のように真っ黒な体で、瞳だけが血の様に赤い……小さな鼠。
始めそれを見た時、驚きのあまり声を上げそうになって………
「しーーーー。ティファ、声を上げてはダメだ」
黒い鼠が私に話しかけた。
そしてその声は私がよく知っている声で……!
「る………ルーカス君……!?」
そう。鼠から発される声は、私の幼馴染であり、普通科の問題児……ルーカス・サタノニアの声だったのだ。
よく見ると、鼠の口は動いておらず、声は鼠からともなく響いていた。
私が驚き目を見開いていると、ルーカス君の声の鼠は言葉を続ける。
「ティファ。急いで学園を出るんだ」
「…………は?な………何を言ってるんですか?学園を出たら………」
「なぜこの学園がまだ助かっているのか、君は知っているかい?それは邪神様が、この学園から流れる絶望を糧にしているからだ。邪神様は絶望や憎悪など、負の感情を糧にどんどん強くなる。だからこそ、外との連絡が断たれ、じわじわと食料も減り、どうすることも出来ない絶望的な状況でどんどん心を蝕まれていく学園の人間達をそのまま生かしているんだ。でもその終わりも近い」
黒い鼠は一度言葉を切り、部屋の窓から外を眺めて言葉を続けた。
「先日、王都を囲む壁を壊そうと、ラヴァダイ王国から援助を受けたこの国……王都を除く、エルセリオ王国の連合軍が攻撃を仕掛け………たった数時間で、聖王騎士達によって鎮圧された………」
「!!!?」
「その中には恐らく勇者エイシャもいただろう。だが………連合軍は全滅だ。生き残りは聖王騎士達に捕らえられ、近々処刑される予定だ」
「そ……そ……そん……な………」
ラヴァダイ王国といえば、勇者エイシャの王国だ。彼はその国の王子様なのだから。
でも……そんな話信じられない!!だってルーカス君は、一度私とコウを騙しているのだから!!
「………俺を信用できないのも分かる。俺はコウちゃんを騙して、邪神様に捧げようとしていたからね。………でも君だけは……どうしても助けたいんだ………!!」
「そんな勝手な……!!私は皆を差し置いて、自分だけ助かりたいなんて思っていません!!ルーカス君が私を助けたいという気持ちが本物にせよ、偽りにせよ……です!!そもそも何をしに来たんですか!?」
私の怒りに、黒い鼠は目を伏せると………ポツリと言った。
「さっきも言ったように、この学園はもう限界だ。というより時間が無い。………外の人間達がこの王都に攻め込んできたせいで………もはや学園程度の負の感情など、邪神様にとって必要無くなってきたんだ。………もっと広く絶望を振りまける状況を、今から作れるからね。………だからこの学園が、何時潰されてもおかしくは無い………。その前に、ティファ!!君だけでも逃げてほしい!!この鼠は、俺の守護霊だ。この鼠について行けば、君はこの学園から逃れて……安全に、僕の元まで辿り着くことが出来る!!」
そう言って懇願する様に私を見る黒い鼠に、私の心は一瞬揺れるが………大きく息を吐く。
「何を言っているのか……分かりません。さっきも言いましたよね?私は皆を差し置いて、自分だけ助かりたいなんて思っていません。だから……消えて下さい。これからの事は、皆で話し合います……」
私が投げやりにそう言うと、黒い鼠は一瞬硬直して………そして目を伏せてポツリと呟いた。
「そうか……やっぱり……ダメか……。でも、俺は本当に君を助けたいんだ。だから……手段を選んでは……いられないね……」
「………は?何を………」
私が訝しげに黒い鼠を見ると、次の瞬間黒い鼠から怪しい湯気の様な物が発された!!
そんな鼠に私が驚いていると、鼠はそのまま突風に吹き飛ばされて、壁に激突した!!
「!!?」
いきなりの事で驚くと、部屋の扉がいつの間にか開かれていて、そこから気だるげにソフィアが顔を出すのであった。
「…………密会ならもっと大人しくして?声が大きすぎて、アンナが目を覚まして………わざわざ私を呼びに来たんだよ?」
どうやら黒い鼠との会話に夢中になっていた私は、アンナが起きたのを気付かなかった様だ。
ソフィアは壁に激突した黒鼠を拾い上げ、そのまま口を開いた。
「お前には色々聞きたい事がある。悪いけど………術者もろとも、簡単には逃がさないよ?」