最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
私は自分の行動に疑問を持つことなんて、ほとんど無い。
他人がどうなろうとも関係無いし、私は私とコウさえ無事ならば、他がどうなってもどうでもいいのだから。
だから……勇者エイシャが、コウを探す為に王都から出て行くと言った時、当然ついて行こうと思っていた。
だってコウが私にお願いしてきた、ティファ達を助けて欲しいという願いは……達成されているだろうし、例えこの先学園が襲われてティファ達が死のうとも……正直私には関係ない。
そう思っていたのだが………いざ自分から出てきた言葉は、自分自身すら内心驚くような言葉だった。
「だって……コウに頼まれたから。ティファ達を助けてくれって……。だから……無責任にここを離れる訳には……いかない……」
この言葉に勇者エイシャは驚いていたが、本当に驚いたのはこんな事を言った自分自身だった。
何で安否も分からないコウが待っているのに、あんな事を言ってしまったのか……。
この学園で過ごしているうちに、そんなにティファ達に情が湧いてしまったのだろうか?
いや……………本当は解っているのだ。……正直少しだけ……。少しだけ、確かにティファやアンナ……それに一応ナーサには、ほんの少しだけ情が湧いていると思う。
だから……もしコウと無事に会えた時に、コウの口からティファ達の安否を聞かれた時に………もしティファ達の身に何かあったら………私は少しだけ、コウに対して後ろめたさを持ってしまうかも知れないと思ってしまったのだ。
はぁ………。夫婦はよく似るとは言ったものだが、私はいつの間にか、伴侶であるコウの甘さが移ってしまった様だ………。
だが……だからといって、自分の中で完全に納得がいっている訳では無い。
だからこそ………私は心の奥から湧いてくる、理不尽な憤りをこの鼠にぶつける事にした。
赤髪の騎士と、学園の見回りを終えた私が部屋に帰ると、突然アンナが部屋に飛び込んで来た。
なんでも目を覚ましたら、ティファが怪しい黒い鼠と話をしているらしく、その黒い鼠がとても危険そうなので見て欲しいと言うのだ。
そしてアンナ達の部屋に入ると………確かにティファは怪しげな黒い鼠と会話をしていた。そして……黒い鼠がティファとの交渉に失敗したのか、魔術を発動してティファに何か仕掛けようとしていたので、とりあえず風魔法で吹き飛ばす。
そして壁に激突した黒い鼠を拾い上げると……その黒い鼠が誰かの守護霊という事が分かった。
最初は使い魔かと思ったが、使い魔の場合流れる魔力はその本人からの魔力だけであり、この鼠からは鼠自身の魔力と、術者の魔力が流れている。守護霊の場合は契約した術者と守護霊の二つの魔力が流れる為まず間違い無いだろう。
そしてここからが肝心なのだが………守護霊というのは、何も便利な召喚獣という訳では無い。
勘違いしている者も多いが、守護霊とは術者本人とその守護霊との魂的な契約の元成り立っており、万が一守護霊の身に何かあった場合はその術者にもフィードバックが行く場合が多いのだ。
その事を良く知っている者は、守護霊に万が一の事が無いように、例えば守護霊の能力だけを発動させたり、契約した守護霊の眷属を呼び出したりする。
まぁ中には超強力な守護霊の為、やられる心配をする必要も無いのもいるが……ともかく守護霊を召喚するにはそれなりのリスクがあるのだ。
そしてこの鼠だが………どうやらこの鼠自体が守護霊であり、何かしらの眷属という訳では無い様だ。
恐らくこの守護霊の能力は、術者との視覚などの共有だろう。まぁ言ってしまえば非常に地味な能力だ。………この鼠の守護霊の本来の使い方は、黒い鼠の守護霊を主とした、大量の眷属を呼び出し圧殺する………といった使い方なのだろうが、術者本人が未熟すぎる為このような使い方なのだろう。………あるいは守護霊を呼び出して、まだ日にちが浅いか………。
まぁどちらにしろ、これは私達にとって好機だ。主に奴らの情報を得るのと、私の八つ当たり的な意味で。
私は指先に魔力を籠めて…………鼠の後頭部………頭蓋骨がある辺りを貫いた。
「うええ!!?そ……ソフィ!!?な……なにを!!?」
私の行動にアンナが驚きの声を上げるが……取り合えず無視だ。
頭蓋骨を貫かれ、脳に直接触れられた黒い鼠は、ビクンビクンとニ、三度跳ねるとそのまま小刻みにガタガタと震え始めた。
「あ……!?あががあがあああ!!?な……なぁあ!!?」
そして聞こえる術者の声。
………やはり私の想像通り、この黒い鼠と術者は視覚などを共有しており、当然それは脳を通じて行われている。
つまり……この黒い鼠の脳を直接触るという事は、間接的に今、術者本人の脳に触れているのと同じなのだ。
「さて………じゃあ知ってる事を洗いざらい吐いてもらうよ?私の質問に大人しく答えてね?………まぁもし答えないなら……お前の何も入って無さそうな脳みそ、グルグルかき回して強制的に喋らすことも出来るけど……その時の後遺症はお楽しみだね?まぁ良くて廃人……悪くて脳死……ってとこかな?……あ、あと、守護霊は消せないよ?」
この三流術者は、守護霊は簡単に出し入れできると思っている様だが、守護霊の召喚というのはそんな簡単なものじゃない。
契約した守護霊は、召喚するのにも、そして魔力を切って消すのにもそれなりのプロセスがいる。そのプロセスとは何かというと………守護霊を召喚するのは術者だが、魔力を切って消える事を選択するのは守護霊という事だ。
何故なら守護霊と術者の立場は対等であり、決して術者の方が上という事は無いからだ。故に、この世界に守護霊を実体化させた後、守護霊が消えるという選択をするまで……術者はその守護霊に魔力を捧げ続けなければいけない。
そしてこの鼠は今、私に脳を握られ、魔力で操られているので……鼠自身にそういった選択を取る事は不可能なのだ。だからこの鼠の契約者である術者は、この鼠を消すことは出来ず……結果としてその術者の脳も私に握られ続けるのだ。
「まぁ今度から守護霊を呼ぶときは、こういったリスクをちゃんと考えておくんだね?………お前に次があるかどうかは知らないけど………ね?」
◆
さて、その後鼠から情報を吐かせるだけ吐かせた訳だが………どうやらこの鼠の術者は、ティファの知り合いだったそうだ。
名前はル……ルー……なんとか。
私としては初めて聞いた名前なのだが、どうやらクラスメイトだったらしく、その事を完全に忘れていた私は、ティファとアンナに非常に驚かれた。……なんで?
まぁともかく、そのルー……なんとかの話では、どうやら壁の外で連合軍が組まれて邪神に戦いを挑んだそうなのだが………聖王騎士とやらに全滅させられたらしい。
そして連合軍は捕虜となり、近々処刑されるそうなのだが……その後、今度はこの学園も潰されるだろうという話だ。
この鼠の術者は、ティファと懇意にあったらしく、せめてティファだけでもこの学園から逃がそうとしていたらしい。そしてティファにそれを断られ、無理やり事を運ぼうとして……私が現れた訳だ。
まぁその辺の話はティファが鼠から聞いていたそうなので、本題はその後の筈なのだが………この鼠の術者、知っている情報はそれだけで、それ以上の情報は殆ど無かった。
どれだけ脅してもこれ以上の情報は得られなかったので、恐らく本当にこれ以上の事は知らないのだろうが……何とも役に立たない奴である。
仕方なく私たちは、鼠に指を突っ込んだままお姫様にこの事を伝えた訳なのだが………お姫様は話を聞いて少し考えた後、私達を見据えて口を開いた。
「貴女達………ここで一つ、賭けに出てみない?」
そう言って不敵に笑うお姫様に、私は非常に嫌な予感がするのであった………。