最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
突然訳の分からない事を言い出した勇者を、私はいぶかしげに睨む。
私の隣に立っているコウも、頭に疑問符を飛ばしながら首を捻っていた。
「本当はコウだけを仲間にしたい所だが、お前も放っておくと何をしでかすか分からん」
「悪かったわね!!余計なお世話よ!!」
「……故にお前達二人を俺のパーティに加入させれば、直接お前たちを守ることが出来る」
「……足手まといはごめんよ……。それに……」
私はコウを見る。
勇者のパーティーに入るという事は、それだけコウも危険にさらされるという事だ。
私と勇者の視線を受け、コウはおずおずと口を開いた。
「私……ゆう……エイシャ様のお役に立てません……本当に……足手まといです……」
「コウは最近自分が
「え?あ……はい……」
「自覚が出来たのなら、君は
突然今度は何を言い出すのだろうか?この勇者は。
「ええ。知ってるわよ。当然でしょ?」
「そうか。その聖女だが……正体は
「!!?……うそでしょ?そんな事伝承には一言も……」
「まぁそれは無理もない……その伝承の一部改ざんについては聖女教会も絡んでいるからな……」
「!!!」
聖女教会。
代々勇者を支える聖女を輩出している、この国どころか世界的に見ても巨大な組織だ。
聖女に選ばれるのは、神託を得たたった一人の聖女の筈だが……。
「千年前の魔王との戦いの後、この世界に聖女は降り立たなかった。当然だな。
「だから……偽物の聖女をでっち上げたっての!?今の聖女様も……!?」
「正確には少し違う。聖女教会の願いを得た神々が、
「なるほど……ね」
「この事は俺含め一部の王族や聖女教会関係者しか知らん」
そんな重要な事、私やコウに教えないで欲しかったが、コウが
「だが魔族の連中はそれを知っている。故に連中は
「コウ自身も狙ってきた……!!」
「そうだ。だからこそコウを守る為にも、コウは俺の側にいるのが一番なんだが……その時またコウが大切に思っているお前が人質にでもされたらかなわん……」
「それなら……!!私だけじゃなくて神父様やシスター……それに皆だって!!」
「だがコウが一番大切に想っているのはお前だ……違うか?」
「!!!」
面と向かってはっきりと言われてと照れてしまうが、そうなのだ。
コウは私を一番慕ってくれている!!……その実感に胸が震える。
「今までは黒騎士によってお前たちは守られていたが、それだけでは何時まで経ってもこの街への魔族の攻撃は収まらん。それに……お前たちがこの街を離れればそれだけで魔族達もこの街への攻撃の手を緩めると思うぞ?当の本人であるコウが既にこの街に居なくなるのだからな……」
「……結局神父様達とは離れ離れになるじゃない……」
「そこは本当に申し訳なく思うが……それもコウの為だ。それに……俺はこれを機に俺の国だけではなく他の国などにも足を運ぼうと思っている」
またなんで話が飛ぶのか。
こいつが遠出することなど私達には関係がないではないか……勇者パーティーに入ったら関係がある話にはなるが……。
「今まで鳴りを潜めていた魔族達だが、やはり奴らは人間界を諦めていた訳ではなく俺達勇者の弱体化を待っていたんだ。そして俺以外の勇者が弱くなり、先代
「!!」
「コウが
「……」
「まぁすぐに答えを出せとは言わない。俺もしばらくこの街に滞在するし、ゆっくり考えてほしい」
言いたいことを言い終えると勇者は話は終わりだと言わんばかりに目を閉じた。
正直いきなりこんな事を言われても困る。
それは当然私自身もだし、コウも同じ気持ちだろう。
勇者の話を突っぱねるのは簡単だが、勇者の言う事も一理ある。何故なら私自身も魔族の魔の手にかかりコウを傷つけたからだ。
コウは勇者の側の方が安心だろうし、それは私だって同じことだ。
だからといって……。
悶々と悩んでいると、勇者が思い出した様にまた口を開いた。
「そうそう。俺は黒騎士も仲間にしたいと思っている」
「黒騎士……!」
そうだ黒騎士!!
彼にも悪い事をした。
私は操られた時の記憶が鮮明に残っているので、黒騎士が私の呪いを解いてくれた事を知っている。
正直逢う度に私は黒騎士に対して口うるさく罵っていたのでまさか助けてくれるとは思っていなかったが、そんな私を彼は助けてくれたのだ。
……いや、今回だけじゃない。最初から彼は私達を助けてくれていた。
彼は口が頗る悪いだけで、悪い奴じゃないのは街の誰もが知っている。
でも……冒険者の中心人物である私やアレックスが極度に彼を嫌っているため、表立って黒騎士の事をよく言う人たちがいなかったのだ。
黒騎士が街の人達に嫌われてるのは私達のせいでもあるのに……黒騎士はそんな事お構いなしに私たちの街を守ってくれていたんだ。
コウの事を悪く言う黒騎士は今でも好きにはなれないが、彼に感謝を伝えたい。
「黒騎士は……?」
「魔族を打ち倒すと挨拶もなく何処かへ消えてしまったよ……。俺はこの街に滞在している間に黒騎士を仲間にしようと思っている」
「……」
「先ほども言ったがこの街に魔族が襲ってくる理由は……悪いがコウにある。……だからお前たちがこの街を離れれば恐らく黒騎士もこの街を離れるだろう」
確かにそうかもしれない。
彼の目的はあくまで魔族を倒す事の様だから……。
「さて……長々と話してしまったが、続きは明日にするか。コウも疲れただろうしな」
「ホントに長々とよくもまぁ……でもそうね。コウ……帰りましょうか?」
「はい!」
元気よく返事をして私の手を握ってくるコウを、今まで以上に愛おしく感じる。
もう何があってもこの手は離さない。
私も心を強くもとう。誰にも負けない様に……二度とコウを傷つけないように……!!
最悪の長い夜が終わりを告げる。
綺麗な月の光が、私達を祝福する様に聖なる森に降り注いでいた……。