最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由   作:でかそう

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第1話

「ふひー……」

 

 ギルドの受付のカウンターに頭をのせ、情けない声が出た。

 だがいいのだ。

 

 今日は人も少ないから受付は一人で任されていて、この痴態を見ている者はいないだろう。……多分。

 

 

 俺の名前は、山口光輝。

 

 二年前、ひょんなことで命を落とした俺は、湖の女神さまの横暴でこの世界へと転生させられた。

 

 そこで金と銀の命とかいう訳の分からない命と、チートな能力を手に入れて調子に乗っていた俺は、殺したドラゴンに呪われて気がづいたら体を少女に変えられていた。

 

 その後なんやかんやあって、冒険者であり今の俺の姉代わりでもあるミリヤに拾われて、この街にやってきた。

 

 右も左も、ついでに言葉も分かんない俺を献身的に助けてくれたミリヤや、教会の神父様達には本当に感謝している。

 今では大分こっちの言葉を覚えて、会話や読み書きも出来るようになった。

 

 そんなこんなで、今はギルドの受付でバイトをさせて貰っている訳なのである。

 

「ふふふ。コウちゃんったらだらしないんだ」

 

 ギルドの受付カウンターでダラーっとしていると、後ろから声を掛けられた。

 慌てて振り向くと、そこには茶色の髪を三つ編みにして、大きな眼鏡をかけた女性が笑っていた。

 

 この人はギルドの受付嬢であるマイカだ。

 いつも俺に優しくしてくれる、もう一人のお姉さんのような人だ。

 

 ちなみに「コウ」とは皆に呼ばれている俺の名前である。

 当時、光輝と上手く発音出来なかったため、この名前で定着してしまった。

 まぁ昔から仇名が「コウ」だったので違和感は無いけどな!

 

 俺は恥ずかしさに頬を染めながらマイカに謝った。

 

「マイカさん……。ごめんなさい……」

「ふふ。全然大丈夫だよ?コウちゃん!今日はいい天気だし、人も少ないし、ダラーっとしたくなっちゃうよねー」

 

 朗らかに笑いながらマイカは俺の頭を撫でてくれる。

 

 マイカはいつもこうやって俺を甘やかすが、撫でられるのが気持ちよくてなすが儘になってしまう。

 いや、マイカだけじゃない。

 

 厳つい顔のギルド長のゲンヤさんも、金髪の超絶イケメンでギルドの絶対的なエースであるアレックスも、そして俺の義姉であるミリヤも、教会の神父様も、みんな俺に甘いのだ。

 

 少し厳しくしてくれるのは教会のシスターぐらいであるが、彼女も大概甘い気がする。

 甘やかしてくれるのは嬉しいのだが、このままでは俺はダメ人間になってしまう!

 

 と、思って何とか自分自身を奮い立たせようとするのだが、如何せん元がダメ人間であるため上手くいかない。

 

 どうしたものかと悩んでいると、マイカがそうだ!と言って指を立てた。

 

「コウちゃんったら昨日、迷いの森でミリヤ置いて一人で先に行っちゃったんだって?」

「う……!」

「コウちゃんは不思議な力持ってて怪我してる人とか探し当てるのが得意なのは知ってるけど、一人で行っちゃだめだよ?」

「うう……」

「ミリヤがめっちゃ心配してたよ?今朝なんてコウちゃんがまた一人でどっか行っちゃわないように、見張ってて言われたしね」

「あうう……。ごめんなさい……」

 

 めっ!と叱るようにマイカに言われて俺は小さくなる。

 

 昨日、迷いの森で魔族と魔物に襲われていた男性を黒騎士に変身して助けた後、放置するのも可哀そうだったので、急いでミリヤを連れて迷いの森に戻ったのだ。

 

 そう。

 今の話で分かるように、今巷を騒がせている黒騎士の正体は、なんと俺なのである!

 

 湖の女神様に貰ったであろうチート能力で黒騎士へと変身できる俺は、日夜正体を隠しては魔物や魔族退治に勤しんでいるのである。

 

 なんで正体を隠しているのかって?

 

 それは黒騎士が街の人たちにめっちゃ嫌われてるからだよ!!

 

 義姉のミリヤは黒騎士の話題が出るだけで顔をしかめるし、いつも優しいマイカやアレックスだって黒騎士にはいい顔をしない。

 

 確かに黒騎士になった俺はめちゃくちゃ口が悪くなる。

 どんなにやさしい言葉を投げかけようとしても、なぜか口から出る言葉は嫌味な中二病セリフばかりだ。

 

 だがしかしだ!

 口は悪いが黒騎士はちゃんと人々を守ってるし、悪事を働いたことだってない!!

 だからあそこまで皆嫌わなくても良くないか!?

 

 最初は黒騎士が嫌われてる理由は口の悪さだと思ってたけど、最近は別の理由がある気がする。

 でもそれが何か分からない以上、俺が黒騎士だと皆にばれる訳にはいかないのだ!

 

 なぜなら俺は、皆に嫌われたくないからだ!!

 めっちゃ個人的な理由だが、これだけは絶対に譲れない。

 

 そんなこんなでまた悶々としていると、マイカが優しく微笑んで俺の頭を撫でてくれた。

 

「もう……。そんなに悲しまないで?コウちゃんが優しい子なのは皆知ってるから」

「マイカさん……」

「怪我人とか放っておけない子なのは分かってるけど、皆コウちゃんが大切なんだから……あんまり無茶とかしちゃだめだよ?」

 

 そう言って朗らかに笑い俺を撫で続けるマイカ。

 どうやら彼女は俺が悶々としている理由を、さっき注意されて落ち込んでいると思っている様だ。

 

 確かに皆に心配をかけるのは俺も心苦しいが、だからといって街の人達が困っているのを放っては置けないのも事実だ。

 

 得体も知れない俺を、快く受け入れてくれたこの街の人達には本当に感謝している。だから少しでも恩返ししたいのだ。

 

 それに最近よく現れる魔族達は、正直な話この街のギルドの人達の手に余るだろう。

 だからこそ俺はこの街を守るためにもこれからも戦い続けるのだ!!

 

 だからもう少し街の人達も、ギルドの人達も黒騎士をよく思ってほしい……。

 じゃないといつまで経っても俺が黒騎士だと打ち明けることが出来ない。

 

 俺が黒騎士だとばれない為の魔法を編み出したとは言え、隠れてコソコソと黒騎士に変身しては人助けに勤しむのも限界がある。と言うか何時バレるかと思うとひやひやする。

 

 本当にどうしたものか……。

 そんなことを思ってまた悶々としていると、ギルドの扉が慌ただしく開かれた。

 

 一体なんだ?っと思ってギルドの玄関を見てみると、そこにはギルド所属の冒険者が息を切らせて駆け込んで来ていた。

 彼はアレックスのチームの副リーダーをやってるオーバだ。この街でも珍しいアフロヘアーの大柄な男の人だ。

 

 アレックスと共にチームのまとめ役の彼だが、珍しく慌てた様子でギルドの受付までやってきた。

 

「マイカちゃん!コウちゃん!大変だ!!」

「ど……どうしたの?オーバさん!そんなに慌てて!」

「勇者だ!王都の連中が最近この辺に魔族が頻繁に出没するからって、勇者を派遣してきやがった!」

「ええ!!?勇者様が!!?」

「???」

 

 マイカとオーバが何やら盛り上がっているが、その勇者が派遣されるのがそんなに驚くことなのだろうか?

 オーバの口ぶり的に勇者が派遣されるのはあまり好ましくないみたいだが、いったいなぜだろうか?

 

 俺は頭に疑問符を浮かべて首をひねるのであった。

 

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