最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由   作:でかそう

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第45話 九天王のザガン(聖女マリフィセント視点)

 ファリス嬢の衝撃的な告白に、私はしばらく呆然としてしまった。

 

 だってそうでしょう?

 ファリス嬢を裏で操っていた黒幕が、まさか第二王子であるフェネクス様だったなんてとても信じられなかった。

 

 しかし……目の前で涙を流し、震えて小さくなっているファリス嬢を見ると、とても嘘を言っている様には見えなかった。

 これも演技ならばまぁ彼女は本当に、大した女優だ。

 それに……私の力で彼女の心を覗いてみても……彼女が本心で言っているのが解った……。

 

「……俄かに信じられませんが……」

「!!!」

 

 私の言葉にファリス嬢は、絶望したような表情で私を見る。

 

「貴女の……その涙を信じましょう」

「マリフィセント様……!!……ありがとうございます……!!」

 

 ファリス嬢は涙を流しながら私に感謝した。やはり……この女性が嘘を言っている様には見えない。

 だとすると彼女の言うように、黒幕はフェネクス様なのだろう……。

 

 なぜフェネクス様が彼女を使ってレオン様や教会の幹部連中、果ては国王陛下まで操ろうとしているのかは私には解らない。彼はそんな……権力を掌握しようとするタイプではない様に思っていたのだが……。だとすると別の理由が……?

 

 私が考え込んでいるとファリス嬢は、おずおずと躊躇する様に私に言った。

 

「あの……フェネクス様は……恐らくですけど……コウ様?……を狙っているのかも……しれません……」

「!!?」

「直接は言われませんでしたけど……レオン様を利用してコウ様を貶めようと……なさっていたと思います……」

 

 なんて事でしょう!!

 フェネクス様はコウ様を狙っている!!

 

 だとすると一連の流れが納得できる。彼の目的は権力でも力でもなくましてはリリーナ嬢でも無かったとしたならば、後はコウ様だ!!

 巻き込まれて牢獄へ拘禁されたと思っていたけれども、コウ様こそ狙いだったのだ!!

 

 だとしてもなぜ!?なぜフェネクス様がコウ様を!?

 

 理由は分かりません……。ですがこのままコウ様を牢獄へ残しておくのはあまりにも危険です!

 

「ファリス様!ありがとうございます!勇気を出して私に話してくださって!」

「はい……!あの、マリフィセント様……私……!!」

「貴女は被害者です。一連の事柄の裏にはフェネクス様によって行われた事だと解った今、貴女が罪を受ける事は無いでしょう」

「私!!家族が!!……恋人が!!フェネクス様に……!!」

 

 なるほど。彼女がフェネクス様の言いなりになっていた理由は、人質でしたか……。

 

「貴女の家族も、恋人も必ず私達が救い出します。だから……安心なさってくださいな」

「マリフィセント様……!!お願いします……!!皆を……救ってください……!!!」

 

 絞り出す様に声を出すファリス嬢。

 彼女も孤独の中、必死に戦っていたのだろう。やりたくもないレオン様達への篭絡……彼女にとっては多大なるストレスだっただろうに……。

 

 私はファリス嬢に深く同情し、優しく抱き寄せた。……あの時コウ様が私にそうしてくれた様に。

 

 ファリス嬢は一瞬驚いて硬直した後、声を上げて泣き出してしまった。

 

 私はその涙を肩で感じながら、フェネクス様へ……そして恐らく裏で糸を引いているであろう黒幕へ怒りを募らせていた。

 

 急がなければいけない。

 取り急ぎ勇者エイシャと合流し、コウ様を救い出す。そしてファリス嬢の家族と恋人を救い出さなければならない。

 

 私は腕の中でしゃくり上げているファリス嬢の背を優しく叩きながら、次への行動を思考していた……。

 

 だが次の瞬間……!!!

 

 一瞬焼けつくような匂いが鼻をかすめたかと思うと、轟音をかき鳴らしあたり一面は大爆発したのだった……!!

 

 

 肉が焼けつくような匂いがする……。

 

 私は一瞬のうちに、自身とファリス嬢を囲うように結界を張っていた。

 それにより爆発を防御する事が出来たが、恐らく私以外の人間。大祭司やシスター達はそうはいかなかっただろう。

 

 辺りを見回すと聖女教会そのものが崩壊し、辺り一面火の海へと変わっていた。

 これは……いったい……!!

 

「ほう……仮初とはいえ腐っても聖女か……。あの程度では死なぬか……」

「!!!?」

 

 それを見た瞬間、炎に燃える辺り一面が凍り付いたかのような錯覚を受けた。

 

 禍々しい魔力、見たことも無い程表面化された圧倒的暴力の化身。赤い体に四本の角を持つ頭。

 高い背丈に大きな黒い翼を持った魔族が私の前にゆっくりと歩いて来た。

 

「あ……貴方……は……!!」

「ふむ……今から死ぬお前に名乗る必要などないが……まあそれもまた一興か……」

 

 目の前の魔族は両の手を大きく広げると、天を見上げ声を出した。

 

「我は魔王軍七十二の幹部の一人にして、魔王様直属の配下九天王……ザガンだ……」

 

 魔王様直属の配下九天王……!!

 話には聞いたことがあるが、誰一人その姿を見たことはない。故におとぎ話の類かと思っていた。

 勇者達に打ち取られた魔族の中にもその名を名乗る者はいなかった。しかし……!!

 

 今ならはっきりと解る。

 

 魔族達の最初の進軍の敗北など、彼らからしてみればほんのお遊びに過ぎなかったのだ!

 彼らは牙を潜めて勇者達の堕落を待った。直接戦闘しても勝てる見込みはあるだろうが、より確実な方法を取って人類を敗北に追い詰める為に……!!

 

 慎重にして狡猾……!!

 彼ら九天王こそ、魔族の本当の主力戦力なのだ……!!

 

 私は腕の中で震えるファリス嬢を強く抱きしめながら、己の敗北を悟った。

 

 恐らくこの魔族に私が勝つことは出来ない。私は聖女だが最低限の戦闘もこなせる。だが本来の得意分野は支援だ。

 そしてこの魔族は間違いなく私が……人類が戦ってきた中で最強の魔族だろう……。

 

 コウ様……!!!

 

 私は心の中で、敬愛するコウ様へ祈りを捧げ、ファリス嬢を私の後ろへ下がらせ杖を召喚し構える。

 例えこの魔族を打ち倒す事が出来なくとも、少しでも次に戦う人達へバトンが繋げるように……!コウ様が認めて下さった聖女としての責務を此処で果たす!!

 

「ほう……無理を承知で戦いを挑むとは……これは見上げた小娘だ……。敬意を表す……仮初の聖女よ」

「ふふ……。それはどうもありがとうございます……!!」

「そして……去らばだ……」

 

 魔族の周りに小さな魔力の塊が無数に光り輝く。恐らくあの一つ一つが先ほどの爆発を引き起こすほどの威力を秘めているのだろう。

 

 私は決死の想いで結界を張り………次の瞬間、魔族に向けて打ち込まれる無数の光の矢を目にした。

 

「俺を抜きにして随分と盛り上がっているな?悪いが俺も混ぜて貰おう!」

 

 矢を撃った方角を見れば、そこには建屋の上から魔族に向かって矢を放ち、不敵に笑っている勇者エイシャが立っているのだった……!

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