最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由   作:でかそう

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第55話 夢を追いかけて(クルミ視点)

 私は歌う事が好きだ。踊るのが好きだ。

 誰かに可愛いと言われるのが好きだ。誰よりも……目立って輝くのが好きだ。

 

 そしてそんな私は絶対に……絶対にセントラリアでトップアイドルになるんだ!!

 

 

 私ことミルク・スウェイスがなぜこんなにアイドルに拘るのか、それを知る為にはまずは私の過去を振り返らなければいけない。

 

 私はとある街の男爵令嬢として生まれた。

 父は商才があり、私の家は非常に裕福だった。

 

 そんな私は両親に連れられて、エルセリオ王国の首都セントラリアに連れて行って貰った。

 

 初の海外旅行に気分が上がっていた私は、セントラリアの美しい街並みに心を打たれた。

 国の規模としてはラヴァダイ王国の方が上だというが、この圧倒的な芸術性に富んだ街並み……!

 

 私はすぐにこの街に夢中になった。

 滞在は四泊五日の予定だったのだが、父に無理を言って更に伸ばしてもらったぐらいだ!

 

 毎日が新しい物の発見で、私は将来この街に住みたいと強く思った。幸いこの国の言語は我が国と発音が同じなので、言葉にも苦労はしない!!

 

 そんな事を思っていた私は……その時運命に出会ったのである。

 

 滞在最終日、完全に気分が沈んで今にも泣き出しそうな私を両親は哀れに思ったのか、セントラリアで最も大きな会場へ連れて行ってくれた。

 そこでは今、セントラリアで最も流行っているもの……そう、アイドル達によるコンサートが行われているらしい。

 

 アイドルとは読んで字のごとく偶像という意味だが、若い女性たちが熱狂的な支持者(ファン)達の前で歌って踊る姿は、まさに現代の偶像礼拝!!

 

 見たこともない魔道具で煌びやかに彩られるステージで、見たこともない音響魔道具を使い広い会場全体に歌声が響く!!

 

 稲妻が奔るとはまさにこの事なんだと思う。

 

 アイドル達の歌と踊りを見て私は……自分の夢を、将来を確信した!!

 絶対に絶対に……必ずあのステージに立ってやる!!私が……最強で究極のアイドルになる!!!

 

 興奮冷めやらぬ私は、その時会場を虜にしたアイドルを一生忘れないだろう。

 

 この祭典は年に一度開かれ、選ばれしアイドルグループのみがこの会場で歌うことが出来る。選ばれた三組のアイドルグループは、その歌唱力、パフォーマンス、そしてファンたちの熱狂により、会場に設置された魔道具が更に色とりどりに光り輝く。

 

 そうやって最も強い力を発したグループがその年のナンバーワンアイドルグループとして、その名を刻むのである。

 

 そして……その年優勝したグループ、後に伝説のアイドルグループとしてセントラリアの歴史に刻まれるグループ……Radiant(レディアント) Muse(ミューズ)

 

 その絶対的センター、カノンを私は一生忘れない!!

 誰よりも笑顔で、誰よりも素敵に、そして誰よりも輝いていた彼女を!!

 

 彼女こそ私が追い求めてきたものそのもの!!

 

 私は……彼女の様になるんだ!!!

 

 

 その後カノン率いるRadiant(レディアント) Muse(ミューズ)はなんと三年連続優勝を果たし、殿堂入りする事になった。

 

 カノンはそれを期にアイドルを止め、別の道を歩むことになったそうだ。

 

 私はセントラリアでアイドルがしたい!!

 そう思い両親に相談したのだが……答えはノーだった。

 

 まぁ当然といえば当然である。

 お嫁に行くならまだしも、何が悲しくて嫁入り前の娘を他国にやって、どうなるかも解らない未知の事などさせたいと思うのだ。それをいえば私の両親は至極まともな親だったといえる。

 

 でもそれではダメなのだ。まともではアイドルになるなんて夢は叶えられないのだ!!

 

 私は両親の説得を諦め、密かに計画を進める事にした。

 それは十六歳になったらこの家を出て、一人でセントラリアへと行く!!そして……そこでアイドルになるのだ!!

 

 無謀と言われるかもしれないが、私の夢はもう止まらない!!

 

 密かにお小遣いを貯め、私は思い出の中のダンスを一人で練習しながら私は十六になるまで耐えた。そして……海外へ行っても十分に生活できるほどのお金が貯まった十六歳の誕生日の翌日、私は計画を実行したのだ!

 

 両親は酷く心配するだろうから手紙を残し、こっそりと家を出る。

 

「パパ……ママ……ごめんね……。でも……私必ずアイドルになるからね!!」

 

 私がトップアイドルになって引退した後、今度は胸を張ってこの街に戻ってこよう!!

 

 雇った護衛と案内人と共に、私は希望に満ちた旅路へと一歩踏み出すのであった!!

 

 

 そして……。

 

「ぐひゃひゃ!!今時ここまで馬鹿なお嬢ちゃんも珍しいぜぇ!!」

 

 盗賊に捕まったのである。

 

 どうやら私が雇った人間と盗賊は繋がっていたらしく、私はまんまと罠にかかった訳だ。

 

「大丈夫だぜぇ?ちょおっと眠った後にとぉってもいい所に連れてってやるからよぉ!!」

 

 吐き気がするような口の臭さと醜悪な顔を近づけないでほしい。

 でも私は何の抵抗もする事は出来ない。だって私は武術とかからっきしだし、魔法を使うことだって出来ないのだ。

 

 出来る事は歌って踊る事……。でもその意味ももうない……。

 私はこのまま盗賊に売られて……。

 

 パパ……ママ……ごめんなさい……。

 

 両親への謝罪を胸に、私の意識は深く深く沈んでいくのであった……。

 

 

「あ!ようやく目が覚めたのね?」

「ふあ!!?……あ……貴女は……?」

 

 目が覚めると、私を覗き込むように赤い髪の綺麗な女性がいた。

 どう見てもさっきの盗賊の仲間とは思えないけど……もしかしてもう売られた先なのだろうか?

 

 それにしては辺りはまだ森に見えるけど……。

 

「あ!大丈夫よ!あなたを捕まえてた盗賊はもういないから。……私は冒険者のミリヤ!よろしくね?」

 

 冒険者!!

 つまり私は助かったのだ!!

 

「あ……ありがとうございます!!私……なんとお礼を言ったらいいか!!」

「ううん?別に気にしないで?それで……貴女の名前を聞いてもいい?」

 

 ……助かった矢先にまずい……。このまま私が馬鹿正直に名前を言えば、家に帰してもらえるだろう。そうすれば……私の夢は完全に潰える。

 両親はもう私を一人で外に出すことなど……絶対にしないだろうから……。

 

「私は……クルミです。あの……私……記憶が……無くて……。名前しか思いだせないんです!!」

「ええ!!?そうなの!!?」

 

「おい、どうした……」

 

 きゃあ!!?めっちゃイケメンが来た!!?何このイケメン!!?国宝級じゃない!!?

 

 私がイケメンの登場にドキドキしていると、その後ろから銀髪の少女が覗き込んできた。

 

 彼女を見た瞬間……敵だと理解した。

 なぜだろう?どうしても相容れない気がする……!!彼女とは!!

 

 その少女こそ後に私とアイドルグループを組み、ライバルとして切磋琢磨する関係になる少女なのだが……今の私はそんな事、知る由も無かったのである。

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