最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由   作:でかそう

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第59話 やっぱり気に入らないあいつ(クルミ視点)

「いいわよ、コウ!!もっと腰を落として!!ワンツーワンツー!!いいわね完璧!!」

 

 気に入らない……。

 

「素晴らしいわ、コウ!!なんて美しい歌声なの!?」

 

 気に入らない……!

 

「最初はどうかと思ってたけど……コウが入ってくれて良かったねー」

「ホントだよー。たった一週間の特訓でここまで出来る子いないよー?」

 

 気に入らない……!!

 

「あの娘は……まさにアイドルをするために生まれてきた子だわ!!」

 

 ほんとーに……気に入らない!!あいつ!!……コウ!!!

 

 

 私達がLumi(ルミ)Twinkle(トゥインクル)に加入してから早一週間。

 私達は寝る間も惜しんで、ひたすらレッスンに励んでいた。

 

 カノン社長の考えでは、私とコウはこの一カ月でステージに立てるぐらいになるまでみっちりと鍛える。その後、再出発としてLumi(ルミ)Twinkle(トゥインクル)の復活ライブを行い、その勢いで残り三カ月、一気にスパートをかける……というものだ。

 

 セントラルステージへ行けるアイドルグループは私が幼い頃見た頃より少し増え、今では五組のアイドルがセントラルステージへの切符を手に入れる事が出来る。

 セントラルステージへの切符は、それ以外の音楽活動でのポイントでランキングが決まり、その上位五グループが手にする事が出来るのだが、幸いLumi(ルミ)Twinkle(トゥインクル)は今まで活動でギリギリランキング圏内の八位につけていた。

 

 そして……私達の再出発後すぐにある大きな野外フェス。

 これはセントラルステージを除く大きなイベントの最後になるため、ここでいかに上位に潜り込むかで私達がセントラルステージへ行けるかどうかが決まる。

 

 その為にも私達は、セントラリア郊外にあるLumi(ルミ)Twinkle(トゥインクル)のミュトス・プロダクション専用スタジオで、日夜レッスンに励んでいたのである。

 

 早朝からの体力作りの走り込み食後のダンスレッスン、昼食後は歌唱レッスンで夕方には表情とM(マイク)C(コメント)の練習。

 

 体も心もへとへとになりながらも、私は心の底から楽しんでいた。

 

 これこそ私が望んだトップアイドルへの道だ!私はここで……必ずトップアイドルになるんだ!!

 その想いさえあれば、どんな辛いレッスンも乗り越える事が出来た!!

 

 でも……。

 

「本当に……素晴らしい歌声だわ……。やっぱりコウ専用のソロパートがいるわね……!!」

 

 コウの歌声をうっとりと聞いているカノン社長を見て、私は嫉妬の炎を心に燃やした。

 

 ダンスでも、歌唱力でも、私はコウに勝つことは出来なかった。

 同じ素人の筈なのに……ううん、むしろ私はアイドルになる為に、昔から日夜頑張ってきたのだ!スタートラインが違う筈なんだ!

 

 なのに……なんで!?

 

 そもそもコウはそこまで乗る気じゃ無かった筈だ。

 

 勇者様一行としてこの街に来たコウの目的は、あの勇者ギーツを勧誘する事。

 その勧誘目的でコウは今アイドルをやっている。……まぁ私が無理やり連れて来たんだけど……。

 

 だから私と違って、モチベーションも違う筈なのに……どうして!?

 

 やはりコウと最初に会った時の私の直感は正しかった。この子は敵だ。どうしても相容れない奴だ!

 

 

 でも……不思議と嫌いにはなり切れなかった……。

 

 なぜなら……。

 

 

「ふひー……ふひー……かふ……ふひー……」

 

 息も絶え絶えにコウが地べたに座り込んでいる。

 今日も早朝の日課である体力作りのランニングをしているのだが、コウは本当に体力が無い。

 

 ここだけは私が勝っている所だ。ダンスも歌も……なんと意外にもM(マイク)C(コメント)まで完璧にこなすコウだが、体力だけは絶望的に無かった。

 

「コウ!大丈夫?ほらしっかり深呼吸して!?」

 

 リーダーである兎人(とじん)のラビルがコウの背中をさすりながら懸命にコウに話しかけるが、最早それにこたえる余力はコウには無かった。

 

「コウ!あたしお水持ってくるからね!ちょっとまってて!」

「……はいぃ……」

 

 死にそうになりながら答えるコウに、ラビルは文字通り脱兎のごとき素早さに水を取りに行く。

 ラビルが居なくなり、コウと二人きりになった時、ちょうどよかったので私は前からコウに聞いてみたかった事を聞くことにした。

 

「ねぇコウ……ちょっと聞いていい?」

「ふひー……え?……なに……?」

「あんたなんであんなにMC上手いの?」

 

 違う。そうじゃない。それも聞きたいが、本当に聞きたいことはそれじゃない。

 

「え……と……ふうう……。それは……もはや自分を殺すことで……別の何かに……なりきってるんだよ……」

「なにそれ……」

 

 本当になにそれ。聞いた私が馬鹿だった。……それよりも。

 

「ふうん。んじゃもう一つ聞いていい?」

「えええ……今は……ふひぃ……ちょっと……」

「なんであんた……そんなに頑張ってんの?別にコウはアイドルやりたい訳じゃないんでしょ?私が巻き込んだわけだし。ギーツ様の勧誘だって、コウが居なくても私がセントラルステージで優勝すればいいわけだし……ねぇなんで?」

 

 そう。これこそコウに聞きたかった事。

 なんでコウはここまで頑張るのだろうか?エイシャ様にいい所を見せたいから?

 

「……それは……ふう……」

「それは……?」

「……クルミが……頑張ってるから……だよ……」

「………は?」

 

 私が頑張ってるから……?なんで!!?

 

「クルミが……誰よりも頑張ってるから……だから……そんなクルミを見て……私も頑張ろうって……思えたの……」

「な……なによそれ!?なんで……!?」

「私……結構めんどくさがり……ふう……だけど……すぐにやめちゃう事……多いけど……でも……傍で一番頑張ってるクルミを見たら……私も負けてられないな……て思えたんだ……」

「……っつ!!」

「だから……クルミには感謝してるんだ………ありがと……」

 

 疲れ切って、だらしない顔でふにゃりとコウが笑った。

 ほんとーーーに調子が狂う!!やっぱり私はこいつとは合わない!!気に入らない!!

 

 何が私が頑張ってるから、だ!!だったら簡単に私を置いて次々先に行くな!!

 

 もうほんとーに頭来た!!頭にきすぎて……頬が熱い!!

 

 決めた!!

 私は絶対にコウには負けない!!だって……私がこの子に負けない様に頑張れば頑張るほど……コウも頑張るんでしょ!?

 

 未だににへらっとだらしなく笑うコウから顔を背けて私は強く思った!!

 

 やっぱり、ほんとーに……気に入らない!!コウ!!

 ……でも、そんなコウの事を、私は最初ほど嫌っては……いなかったのだった……。

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