最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
深い傷を負ったコウを癒すための温泉旅行。
前回のセントラリアでの出来事は、私達に大きな影を落とした。
コウ本人は全く気にした素振りは無いのだが、私達がついていながら深い傷を負ってしまったコウに対して、私もマリィも……そして当然エイシャも、皆口には出さないが、大きな後悔となっていた。
しかし、そんなふとした拍子に暗くなってしまいそうな私達を気遣ってか、コウは本当に楽しそうにしていた。
実際温泉が楽しみというのもあるのだろが……やはり私達を気遣っているであろうコウに、私達もいつまでもクヨクヨしていられなかった。
だって……一番つらいであろう本人が、そんな自分を差し置いて私達の心配をしているのだ。コウの天使力は本当にとどまることを知らない。最早天使を通り越して女神だ!!まぁ実際女神な訳だが……。
ともかくそんなコウに釣られてか、私達もいつの間にか明るい雰囲気で旅を続ける事が出来た。
私もコウとの温泉が本当に楽しみになっていたし、マリィだってエイシャだって同じ気持ちだった筈だ。
こうして私達は目的地のユグドラまで、本当に楽しく旅を続けられていたのだ……そう、あの時までは……!!
◆
「どういうつもりだ……クロス……!!」
「ふはは!久しいね、エイシャ!!元気そうで何よりだよ!!」
雨が激しく降り注ぐ森の道。
盗賊?の一団に囲まれた私達は、馬車の車輪を破壊され、その場で槍と剣に脅され動けないでいた……!
目的地のユグドラまで行く途中の街ラグノアシティは、マフィアが蔓延る危険な街らしい。
とても治安が悪く、今の私達がその街を素通りするのは危険だという事で、その街を避け、大きく迂回してからユグドラへ向かった。
しかし迂回途中の森の中で……私達は襲われたのだ!!
始まりは一本の矢だった。
魔力で強化されていたのか、普通の矢よりもより高速で飛んできた矢は、エイシャが気付いた時には馬車の御者の胸を貫いて絶命させていた。
舌打ちをして馬車から飛び出したエイシャだが、次の瞬間馬車に向かって雨の様な矢が降り注いだ!
マリィがそれを、冷静に馬車に結界を張り事なきを得たが、それでも奴らの手は休まることは無かった!
森の中から馬に乗った男たちが大勢姿を現し、次々に矢を射りながら馬車へと近づいてくる。
最初の雨の様な矢を躱したエイシャは、次々と男達へ矢を放ち対処するが……次の瞬間閃光の様な速さでエイシャへと突進してくる男が現れた!
エイシャは瞬時にその男の剣を聖弓で止め、自身の剣を抜き男の首を狙うが……男は一瞬でエイシャから間合いを放すと片手を高々とあげ、指を鳴らす。
すると、なぜか私達の馬車の車輪が突如爆発したのだ!!!
私は慌ててコウを抱きかかえ馬車の外に飛び出す!
少し遅れてマリィも馬車から抜け出したが……そんな私達を、無数の剣と槍が出迎えた。
脅す様に剣と槍を突きつける男達に、私とマリィは歯噛みして動きを止める。間違いなく、私達が動けば奴の剣と槍の餌食になるだろう……!!
そして……先ほどの会話に戻るのである。
◆
「しかし……少し腑抜けたかね?エイシャ。昔の君ならばこの程度の奇襲、難なく対処できていただろう?うーーーん。嘆かわしいねぇ!!君ともあろうものが……こんなザマとはね!!友人として、嘆かわしすぎて……涙が出てきてしまうよ!!」
芝居がかった仕草で、長い金髪をかき上げる盗賊?の頭であろう男。エイシャと知り合いの様だが、一体だれなのだろうか……?
「黙れ……!貴様何故俺達を襲う?それに……こいつらは何者だ?……答えろ!!剣の勇者クロス・エンデヴァ!!!」
剣の勇者ですって!!?こいつが!!?
私と腕の中のコウが驚愕する中、今度はマリィが口を開く。
「確かに……剣の勇者様ともあろうお方が、なぜこの様な事を……?返答次第では……聖女教会の代表として、貴方の勇者としての資質を問う事になりますよ……!」
マリィが怒気を含んだ声で言った言葉に、クロスは驚くほど綺麗な笑みを浮かべ答えた。
「ふはははは!!これはこれは聖女様!!なぜ私がこのような事をするのかって?彼らは何者なのかって??……簡単だよ!!彼らは私の仲間で、マフィアの構成員。君たちを襲った理由は
その言葉を聞いた瞬間、腕の中のコウが少し震える。
………ふざけるな!!何を戯けた事を言っているの!!?この男は!!!そんな事……絶対にさせる訳ないじゃない!!!
「貴様……!!」
「ふっはは!!久々に会った友人と、積もる話もあるが……雨も降っているし、悪いがあまり時間も取りたくない!!エイシャと聖女様にはまことに申し訳無いが……ここで二人とも死んでくれるとありがたい!!」
「舐めるな!!貴様の様なゴミに殺される程耄碌はしていない!!!」
「うーーーん。そうかもな?だが……君たちを殺すのは私ではない。ということで……カモーーーン!!ジャバウォッキー!!!!」
またクロスが天高く腕を上げ、指を鳴らすと、雨雲で黒い空からゴロゴロと鳴り響く雷鳴。
そしてその雷鳴とどろく雨雲から現れる、黒く巨大な……存在……!あれは……ドラゴン!!?
「馬鹿な!!ジャバウォッキーだと!!?なぜこんな所に!!?」
「ふはははは!!さぁ?なぜだろうなぁ!!?エイシャ!!だが!!何故か何故じゃないかは……今は関係なくないか??大切なのは、今!!ここに!!ジャバウォッキーが居て!!それは……私の味方だという事実だけだろう!!!」
「!!!!」
次の瞬間、耳を塞ぎたくなる様な、地響きすらする大きな鳴き声と共に、ジャバウォッキーと呼ばれたドラゴンは口から雷と炎が混じったようなブレスを吐き出した!!
そのブレスは……器用にエイシャとマリィに向かって襲い掛かり、二人は……そのブレスを受けて……跡形もなく消し飛んでしまった……!!
「エイシャ様!!マリィ様!!!」
腕の中のコウが悲痛に叫ぶが……次の瞬間私は宙を舞っていた。恐らく……クロスに投げ飛ばされたのだろう。
「おねぇちゃん!!!」
コウの声が遠くに聞こえる。
「うーーむ。美しい女性をジャバウォッキーの餌にしてしまうのは忍びないが……目撃者が生きていても面倒だ。……食え」
ああ……。
私はこんな所で終わるのか……。
コウを……大切な大切な妹を守り切ることも出来ず……。
絶望的な無力感と、腹の底から湧き出る怒りが私を支配する。
しかし……宙に投げ出された私には最早何もできず……。
「グウォオオオオオオ!!!!」
「おねぇちゃあん!!!」
ドラゴンの声が近くに聞こえる。
そして……悲痛に叫ぶコウの声が……遠くで聞こえる……。
ごめんね……。結局最後まで……役に立たないおねぇちゃんで……。
「キーーーーー!!!!」
キーちゃんの声を遠くに感じながら、私は空中で気を失うのであった……。