最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 作:でかそう
エルフが神聖な種族だなんて、俺は全然知らなかった。
だってソフィアは……滅茶苦茶綺麗な子だけど、普通の女の子だって思ってたんだ……。
俺の名前はダン。
ラグノアシティで生まれたストリートチルドレンだ。
この街、ラグアドシティは、この国で最も治安の悪い街だ。
マフィアの巣窟で、その辺に居る人は大体マフィアの構成員だ。
マフィアは無数に存在するが、その全てのマフィアを統括するのが、この街で最も大きな組織ラ・ローザ・ネーラだ。
ラ・ローザ・ネーラはこの街の支配者で、彼らに逆らえる者はこの街には……いや、この国には居ない。だって国ももうこの恐ろしいマフィアに対して逆らう事は出来ないし、もし逆らったりしたら……その人の家族や友人、友達に至るまで全てにラ・ローザ・ネーラは報復する。
そして何より恐ろしいのが……誰もが目を背けている真実。
そう。ラ・ローザ・ネーラの最高幹部は……勇者クロス・エンデヴァなのだ。
ラ・ローザ・ネーラのボスと非常に親密らしい勇者クロスは、数年前にラ・ローザ・ネーラに入ったらしいのだが、たった数カ月で最高幹部に上り詰めた。まぁ当然と言えば当然だ。だって勇者なのだし。
勇者は表向きは、貴族であり国が誇る最高の勇者らしい。
なぜらしいと言うかというと、俺が見た事のある勇者クロスは、只々恐ろしい怪物だからだ。
自分に逆らう奴らを……光る聖なる剣で、笑いながらなぶり殺しにする奴を、怪物と言わずしてなんと言うのだろうか?
ともかくそんな恐ろしい怪物、勇者クロスの後ろ盾もあってか、ラ・ローザ・ネーラは本当に誰も逆らえない化け物組織になってしまったのだ。
そんなラ・ローザ・ネーラが支配するこの街……ゴミ溜めの街ラグノアシティで……俺達は出会った。
◆
彼女を初めて見た時、俺は今本当にラグノアシティに居るのか不安になった。
だって……あり得ないぐらいに綺麗な子だったのだ。
綺麗な金髪に、見たことも無いほど整った顔立ち。少し憂いを帯びた青い瞳は、見る者を虜にする。
初めて会ったのは……ごみ漁りしてた帰りに、マフィアの下っ端に絡まれてる彼女を見かけた時だった。
普段なら見て見ぬフリをするだろう。だってマフィアと関わって、いい事なんて一つも無い。なのに……。
俺が気がづけばそいつらを、その辺にあった木の棒で殴り倒して、彼女の手を取って走り出していた!後ろでは奴らの叫び声が聞こえるが……そんなのお構いなしに俺は彼女の手を引いて走った!!
奴らにばれない様に、何時もとは違うルートで俺の根城に戻った時には、辺りは暗くなっていた。
俺は肩で息をしながら、彼女に問った。
「はあ……はぁ……!悪い!だ……大丈夫……だったか……?」
だが、そんな息を切らしている俺とは違い、彼女はすました顔で静かに言った。
「別に大丈夫。私より、貴方こそ大丈夫なの?」
可愛らしく小首を傾げる彼女に、俺の心臓は更に早くなる。これは……間違いなく、走って来たからだけとは違う……!!
「だ……大丈夫だぜ!俺はこう見えて……走るのは得意なんだ!!」
精一杯の強がりを言って彼女にウインクすると、彼女は特に興味が無さそうに頷いた。
「そう。ならよかった……。一応助けてくれてありがとう。私はソフィア。貴方は?」
「ソフィア……。あ!お……俺はダン!!よ……よろしくな!!」
「……ええ。よろしく……ダン」
俺が手を差し出すと、彼女は一瞬迷った後……俺の手を取ってくれたんだ!
◆
そこから俺の生活は一変した!!
ソフィアは無口で無表情な女の子だが……とても手先が器用で、そしてとても賢かった!
それまで俺は読み書きなんて出来なかったけど、ソフィアは当たり前の様にそれが出来た。
俺が教えてくれと頼むと、少し面倒そうにしてたけどちゃんと教えてくれた。そして……なんと彼女は魔法も使えたのだ!!
指先から小さな炎を出して、暖を取ってくれたり、食べられなさそうな生ものとかも火を通す事が出来る様になったのだ!!
ソフィアはとても綺麗好きで、一日一回は水浴びをしたがる。
そんなに頻繁に水浴びなんてする必要あるのか?って聞いたら……滅茶苦茶怖い目で睨まれたのを今でも覚えている。それに水は貴重だが、ソフィアは水も自分で作り出すことが出来たので、文句なんて言えなかった。
小さな俺の根城で二人っきりで過ごす毎日だが、今までの腐ったゴミみたいな生活が、まるで色が付いたかのように明るくなった!!それもこれも……全部ソフィアのお陰だ!!
俺はいつまでもソフィアと一緒に……二人で暮らして生きたいと思っていた。
でも……正直不安だった。
それは……ソフィアもそう思ってくれてるか……だ。
ソフィアは無表情で、何を考えているのか解らない少女だった。
口数も少ないから、必要以上の事を話したりもしない。今まで何処で何をしていたかとか、これからどうしたいのか……とか、何も話してくれなかった。
でも……それでも此処を出て行かないのは、ソフィアも俺との生活を悪くないと思ってくれているからなのだろうと……勝手に自分で納得する事にした!!
だから……そんな生活が、何時までも続くと本気でそう思ってたんだ……俺は……!!
◆
「このクソガキぃ!!あの時は良くも後ろから殴りやがったなぁ!!」
顔の形が変形するんじゃないかって程、しこたま殴られる。
俺達の大切な根城は、こいつらマフィアによってズタズタにぶち壊されていた。
「いやーーーー。君みたいなのが一番困るんだよ!彼女の価値を解って無い様な、君みたいなゴミ君がさ?」
そいつが口を開くたびに、俺は震えが止まらなかった。
俺を殴ってる三下なんて、全然怖くない。だって口だけの小物野郎なのだ。
でもそいつは違う……!
どす黒い漆黒の殺意を纏った、本物の怪物。
俺の目の前には、勇者クロス・エンデヴァがニヤニヤと笑いながら俺を見下していた。
そして……ソフィアは、クロスに肩を抱かれる様にして、捕らわれていた……!!
「彼女はさ、エルフっていう貴重な種族なんだよ!!君みたいなゴミ君では本来、どんだけ頑張ってもお目にかかれない、ひじょーに希少種なの!!……まったく!!どんだけ探したと思うの!この私がさ!!」
しらねぇよ!!エルフってなんだよ!!俺達と……何が違うってんだよ!!
そう言ってやりたい!!……でも、恐怖と殴られた影響で、俺の喉からはひゅーひゅーと、言葉にならない空気しか出てこなかった。
「クロス様!!こいつもう殺していいですよね!!では……殺っちゃいますねぇ!!!」
三下が嬉しそうに口を開く。その三下の手には……ナイフがあった。
「うーーーん。まぁいっか。こんなゴミどうでも!!んじゃ殺ろ「まって」……ん??」
クロスの言葉を遮るように、ソフィアが口を開く。
「私は貴方達についていく。でも……ここでもしダンを殺したら……私は自らの魔力を暴走させて自害する」
感情の籠っていない目でクロスを睨みつけるソフィア。
自害するって……そんなのだめだ!!俺の為なんかに!!
「そっか。それは困るし、じゃ!いっか!!よし、ゴミ君は殺さないよ!大丈夫!私は約束は必ず守る!!……というわけでゴミ君。よかったねぇ?ソフィアくんに感謝したまえよ?」
「ええ!!?こいつころさ……でぶぁあああ!!?」
文句を言おうとした三下が、俺の目の前で真っ赤なトマトを床にぶちまけたみたいにはじけ飛ぶ。
「え?馬鹿なの?私の話、聞かなかった?それとも君……私を嘘つきにしたい訳かい??ってもう居ないじゃないか!!……どうでもいいけどね!!」
こわい……怖い怖いこわいこわいコワイ!!!
何だこいつ何なんだ!!?なんでこんなに簡単に……人を殺せるんだ!!!?
「さ!ソフィアくん!ゴミ君に別れの挨拶をしたまえよ!」
「……解った。……ダン。さようなら、もう会う事は無いと思うけど、貴方との生活……悪くなかった」
「そ……そふぃ……ソフィア……!!」
それだけ言い残し、クロスの高笑いと共に、ソフィアは振り返ることなくその場から居なくなったのだ……。
俺は……俺は……!!!
「うわあああああああああ!!!」
誰もいなくなった、俺の根城だった所に、負け犬の遠吠えが響く。
でも……その遠吠えを聞いているものは、その辺に居るドブネズミぐらいしか居ない……!ソフィアはもう……ここには……居ないのだ……!!!