福音戦が憂鬱……
将冴が温泉に行ってしまい、私……クラリッサは山田先生にグラスを渡され、ワインを注がれた。
教師がお酒を持ってきてもいいのか……。
「さ、飲みましょう?クラリッサさん」
「しかし、教師が飲むのは……」
「多分、織斑先生は飲んでますよ。織斑先生の荷物から缶の音がしましたし」
「そうなんですか……」
「だから、私達も。大丈夫です。酔い潰れるほどは飲みませんよ」
そう言って私の持つグラスに、山田先生は自分のグラスをぶつけた。
「乾杯」
「か、乾杯……」
山田先生はくいっと飲み干してしまうが、私は少しだけ口に含み飲み込む。
……やはり酒は苦手だ……。
「ハルフォーフ先生は、お酒は苦手ですか?」
「恥ずかしながら……今までも飲むことは無かったので」
「これから飲むこともあるとは思いますので、少しだけ慣れておくといいですよ。特に、織斑先生と飲むとなると、酷いですからね」
「そうなのですか?」
にわかには信じがたい……いつもキリッとしているから、そんな印象がない。
「織斑先生、居酒屋でもバーでもたくさん飲みますから。三軒ハシゴなんて普通です」
「三軒……」
「おかげで、私もお酒好きになってしまいました」
そう言いながら、二杯目をグラスに注ぐ山田先生。
いつの間に飲み終えたのか……。
「ハルフォーフ先生は、この学校に来てどうですか?前はドイツ軍にいたと聞きましたが……」
「とても楽しいです。ドイツ軍にいた時のように、訓練や戦いに明け暮れる生活とは無縁で、毎日が勉強で……」
「ドイツ軍は、居心地が悪かったんですか?」
「そういうわけではありません。ドイツ軍には友人もいますし、誇りもあります。でも……」
「でも?」
「その……将冴といる方が……充実しているというか……」
将冴がいない間の一年間は、心に穴が空いたようだった。毎日の仕事をただ機械的にこなすだけ。そんな生活だった気がする。ラウラ隊長やルカには申し訳ないこと言っているかもしれないが……
「本当に、将冴君のことが好きなんですね」
「えっ……あ、まぁ……」
面と向かってそう言われると、なんとなく気恥ずかしい。
山田先生は小さく笑っている。
「ふふ。でも、ほどほどにしなきゃダメですよ?教師と生徒なんですから」
「山田先生、それは自分にも返ってくるのでは……」
大浴場の件とか……
「あ、あれはプライベートなことですから……」
「聞いたところによると、私が来る前に将冴とシャワーに入ったとか……」
「え、えっと……それは……」
バツの悪そうな顔をする山田先生。
やはり、山田先生も将冴のことを……
と、その時、部屋をノックする音がする。
「あ、誰か来たみたいですね!」
山田先生が好機と言わんばかりに、扉の方へ向かった。
あからさまに話を逸らされた……。
「はーい……あら、ボーデヴィッヒさんにデュノアさん?」
「こんばんは」
「夜に失礼する」
隊長とデュノア?
将冴に用だろうか?
「二人とも、どうかしましたか?」
「えっと、ラウラが……」
「兄さんに会いに来た。部屋にいるだろうか?」
「隊長、将冴は今温泉に行ってます……」
「む……そうか……」
明らかに落ち込んでいる。日本に来てから、軍にいては見ることができない隊長の姿を見ることができるな……カメラでも買おうか。
「でしたら、中に入って待っててもいいですよ?」
「え、いいんですか?」
「はい。どうぞ」
山田先生が二人を部屋に招き入れる。私は冷蔵庫に入っている缶ジュースと取り出し二人に渡した。
「隊長、デュノア、これを」
「ありがとう、クラリッサ」
「いただきます、ハルフォーフ先生」
二人はジュースを飲み始める。
それを見た山田先生は、またワインを注ぎ始めた。
「や、山田先生……お酒飲んでいたんですか?」
「はい。お二人には口止め料を払いましたからね?」
「くっ、このジュースは罠か……」
いや、別にそういうつもりでわたしたわけではありませんからね?
「はは……そういえば、僕ハルフォーフ先生と将冴の馴れ初めとか聞いたことないなぁ……」
「馴れ初めなんて……そんな大層なものでは……」
「それ、私も気になりますね。ハルフォーフ先生、聞かせてくれませんか?」
「そんな楽しい話ではないのだが……」
「いいではないか。話してやれクラリッサ」
「……隊長が言うなら……」
私は、将冴と出会った時のことを少しずつ話し始めた。
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「で、お前たちは一夏のどこに惚れたんだ?」
一夏が将冴と温泉に行った後、女子3人に口止め料としてジュースを与え、私……千冬は缶ビールに手をかけた。
そして、この一夏にベタ惚れの女子達に、弟のことを聞いてみる。
「一夏のどこに……ですか?」
「優しいところとか……」
「男らしいところ……でしょうか」
またありきたりな……まぁ、好きな気持ちに理由をつけるのは難しいか。
どれ、少しいじめてやろうか。
「それならば、将冴も当てはまりそうな気はするがな」
「将冴は、そういう感じではなく……私としては恩人というか……」
箒は恩人……なるほど、なにやらスッキリした顔をしている。束との仲を修復したか。
「将冴さんは、確かに頼りになるお方ですが、どちらかというと、弟のような……」
クラスで将冴が弟のポジションを確立しているという話は本当だったか……。オルコットまでそう思っているとは、全く呆れるな……。
「凰は?お前は、一番一夏と将冴と付き合いがあるだろう?」
「私は……」
凰は悩むような仕草をするが、すぐに答えを出したようだ。
「将冴って、人間として出来すぎているんです」
「ほう?」
「昔っから何やらせても上手く立ち回るし、人の気持ちに敏感だし、何も言わなくても私が一夏のこと好きだって気づくし……」
それはお前がわかりやすいからだろう。
「将冴が泣いたところを見たことないし、怒ったところも前のタッグ戦の時が初めてで……だから、将冴はそういう対象ではないんです」
「なるほどな……」
確かに、両親が亡くなった時も、将冴は泣かなかったな……。
「まぁ、お前達の言いたいことはわかった。それで選ぶのがあの愚弟か……お前達も大概馬鹿だな」
「「「うっ……」」」
まぁ、人の色恋に口を出すのは野暮というものか……
「そういえば、織斑先生に一つ聞きたいことがあるんです」
箒が恐る恐る手を挙げる。
私に聞きたいことか……この流れで検討つかないが。
「なんだ?それと、今は千冬でいい」
箒の質問に耳を傾けながら、ビールを煽る。
「では千冬さん。なぜ、生徒や弟の一夏は苗字で呼ぶのに、将冴だけ名前呼びなんですか?」
「ぶふっ!?」
つい吹き出してしまった……山田先生にも以前に突っ込まれたが、まさか生徒にまで聞かれるとは……。
「大丈夫ですか!?織斑先生、ハンカチをお使いくださいませ!」
「大丈夫だ……必要ない」
オルコットにハンカチを差し出されるが、自分の袖で口元を拭う。
くっ、変なところを見せてしまった。
「そ、それで……質問の答えは……」
凰が追い打ちをかけてくるか……。
「何もない」
「でも、何か特別な……」
「何もない!」
「「「すみませんでした!!」」」
少し声を張り上げると、3人は土下座した。
まったく……これからは気をつけなければならないか……。
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温泉から上がり着替えていると、一夏がげっそりした顔でサウナから上がってきた。
「あれ、束さんは?」
「なんか、いじるだけいじってどっか消えてった……」
「お疲れ様。早く着替えちゃおう。女子の時間になっちゃうし」
「おう。先に戻っててもいいぞ」
「それじゃ、お言葉に甘えて」
浴衣を着て、車椅子で自室に戻った。まぁ、この後することないし、さっさと寝ようかな。
「ただいまぁー」
「兄さん!」
そう言いながら扉を開けると、ラウラが駆け寄ってきた。
部屋の中を見ると、シャルの後ろ姿も見える。
「ラウラ、来てたんだ」
「うむ、兄さんに会いたくてな」
「それは別にいいんだけど……シャルは……」
「ぐすっ……将冴おかえり……」
「なんで泣いてるの!?」
え、クラリッサと山田先生が泣かせたの?
いやいや、二人がそんなことするはずがないし……。
「将冴くぅん……大変だったんですね……うぅっ……」
「山田先生まで!?いったい何が……」
「すまない、将冴。私と将冴が出会った時の話をしたら……」
「あぁ……」
自分で言うのもなんだけど、結構壮絶な出来事かもね……。
「将冴に比べたら、僕のゴタゴタなんて……」
「比べるものじゃないから……」
次回から臨海学校二日目。
やっと福音戦ですね。100話もかかってしまって……申し訳ねぇです……