IS 〜偽りの腕に抱くもの〜【本編完結】   作:sha-yu

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やりたいこと詰め込みました。

もうね、自分が楽しんでおります。


12話

 

「今日の訓練は終了だ。解散」

 

『ありがとうございました!』

 

 

本日の仕事を終え、帰り支度をするために更衣室へ向かうと、数名の女子が着替えていた。

 

中にはクラリッサやラウラもいる。

 

 

「織斑教官!本日はありがとうございました」

 

 

私に気づいたラウラが下着姿で敬礼をする。

 

ラウラは訓練している中で一番伸びがいい。後々、隊長なんかを任せられるほどの器になると感じている。

 

 

「敬礼を解け、ラウラ。もう私の今日の仕事は終わったし、プライベートだ。あと、早く服を着ろ」

 

「はい!」

 

 

どうも、このノリは抜けないようだ。

そんなか、私に話しかけてくる者がいた。

 

 

「千冬さん」

 

「クラリッサか。どうした?」

 

 

将冴が一番気を許しているクラリッサだった。よく将冴の話し相手になってくれている。どうも、将冴は私と話すとき少し萎縮してしまっているようだからな。クラリッサのような存在は、私としても助かる。

 

 

「今日、夕食をご一緒してもよろしいでしょうか?」

 

 

寮では夕食が出る。私は将冴に食べさせるためにいつも一緒に食事を取っていた。私が言うのもなんだが、教官である私が将冴の世話をしているのが近づきづらい雰囲気を作っているらしく、いつも私と将冴の二人だけで食べているのだ。

 

クラリッサが前から一緒に食べようとしていたのは知っていたが、他の人の前では言い出しにくかったのだろう。

 

この更衣室にいるのは数名。まぁ、絶好の機会だろう。

 

 

「別に構わないぞ。クラリッサが来てくれた方が、将冴も喜ぶだろう」

 

「ありがとうございます!」

 

 

パァッと顔を輝かせたクラリッサ。本当、いい顔をする。

 

 

「きょ、教官!僭越ながら、私もご一緒してもよろしいでしょうか?」

 

 

ラウラが挙手して志願してきた。

 

 

「ああ、人数が多い方がいいだろう」

 

 

それにつられてか、他の数名も挙手して名乗りをあげる。

 

今日の夕食は賑やかになりそうだな。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

リョーボさんにドイツ語を教えてもらっていると、すでにみんなが帰って来る時間だった。

 

 

「おっと、もうこんな時間かい」

 

「そろそろみんな帰ってきますね。僕、出入り口行きますね」

 

「あいよ」

 

 

帰って来る人たちを出迎えるのも、日課になりつつある。

少しすると、寮生の人達が帰って来る。

 

 

「お帰りなさい」

 

「あ、将冴君ただいま」

 

 

みんな返事を返してくれる。受け入れられてる気分がして心地いいものだ。

 

しばらくすると、千冬さんが見えた。

千冬さんの周りには、クラリッサさんにラウラさん。ルカさんや他の寮生の人がいる。

 

いつも一人で帰って来る千冬さんが、みんなと帰って来るなんて。少し驚いた。

 

 

「みなさん、お帰りなさい」

 

「ああ、ただいま将冴」

 

「すごい大所帯ですね、千冬さん」

 

「ああ、一緒に食事がしたいと言われてな。将冴がよければ、一緒させてもいいか」

 

「もちろんです。ふふ、少し楽しみだな」

 

 

日本にいたときはお父さんやお母さん、一夏、たまに鈴も一緒だったから、こんな大勢でご飯は久しぶりだなぁ。

 

 

「それじゃ、食堂に行きましょう」

 

「ああ」

 

「あ、ちょっと待て」

 

 

方向転換して、食堂へ向かおうとすると、クラリッサさんが制止した。なんだろう?

 

 

「私が車椅子を押す。思考制御は疲れるだろう」

 

「クラリッサさん、ありがとうございます」

 

「あ、クラリッサずるい。私も押したい!」

「私も!」

「いや、私が!」

 

 

食堂までの短い道を、何人も代わる代わる押してくれた。

久しぶりにお腹を抱えて笑った。

 

いや、実際にお腹を抱えたわけじゃないけどね。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

食堂に着くと、美味しそうな料理の匂いが漂ってきた。

 

 

「今日はカレーだね」

 

「ああ、そうだな」

 

「将冴の分は私が取ってこよう。待っていてくれ」

 

 

クラリッサさんが僕を空いてる席まで押してから、夕食を取りに行った。

 

 

「教官!教官の分は私が取りに行きます。座って待っていてください」

 

「あ、ああ。すまないな」

 

 

ラウラさんも駆け足でクラリッサさんの後を追う。

千冬さんは、僕の正面の席に座った。

 

 

「騒がしい奴らだな」

 

「そうだね。でも、僕は楽しいですよ」

 

「そうか。……すまないな、もっと早くみんなと食事を取るようにしていれば」

 

「千冬さんが謝ることじゃありません。いつも世話してもらってるのに、僕は何もできなくて。むしろ謝るのは僕の方です」

 

 

千冬さんに僕はかなり負担になっている。それでも、千冬さんはいつも通り接してくれる。

 

食事の介助、トイレや寝るとき……全部千冬さんの手を借りなければならない。

 

せめて、手だけでも使えたらと……そう思うようになっていた。

 

そんな事を考えていると、ビシッと千冬さんにデコピンされた。

 

 

「あうっ!」

 

「余計な事を考えてるな?」

 

「いてて……千冬さんにはお見通しですね」

 

「私がお前の世話をすると決めたんだ。お前が負い目を感じる必要はない」

 

「はい……すいません」

 

 

わかればいいと笑った千冬さん。本当、千冬さんには敵わないや。

 

 

「将冴、夕食を持ってきたぞ」

 

 

ちょうどよくクラリッサさんが戻ってきた。カレーが置かれたお盆2つを器用に両手で持って。

 

 

「教官、お待たせいたしました」

 

 

ラウラさんも戻ってきた。他の人達も、自分の分を持って、僕達が座っている席の近くに座っていく。

 

 

「クラリッサさん、ありがとうございます」

 

「どういたしまして」

 

 

嬉しそうにそう返してくれた。

 

 

「冷めないうちに食べよう」

 

 

ラウラさんからカレーを受け取った千冬さんが、そう言うとみんなも食べ始める。

 

僕は千冬さんが食べ終わるのを待つ。千冬さんが食べ終えてから僕の食事をするのが、僕と千冬さんの決まりごとになっていた。というか、僕が決めた。

 

と、その時、目の前にカレーを掬ったスプーンが差し出される。

 

 

「ほら、将冴。あーん」

 

 

クラリッサさんが、さも当然のように言った。

 

 

「え、これは……」

 

「今日は私が将冴の食事介助する。あーん」

 

「あ、あーむ……」

 

 

千冬さんがやってくれるのは慣れたんだけど、クラリッサさんにやってもらうとすごい恥ずかしい。

 

 

「おいしいか?」

 

「は、はい……」

 

「そうか。はい、もう一口」

 

 

もう一口食べさせてもらう。他の人達はニヤニヤと見ていた。千冬さんも、にやけを隠しきれずに、口角を上げながらカレーを食べている。

 

 

「はい、あーん」

 

「あーん……」

 

 

本当に恥ずかしい……




クラリッサさんにあーんしてもらいたいのは、私だけじゃないはず。きっとそう。
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