やっぱり、いろんな人にも読んでもらいたいですからね。
(これを機にクラリッサの絵が増えないかとかいう浅い目論見なんてありませんよ?)
どうしてここに千冬さんが?
束さんに用事があってきていた……?
……あの千冬さんがわざわざ会いに来るだろうか?
でも、そうじゃないと目の前の光景に納得が……なんだろう。昔抱きかかえられた時とは明らかに何か足りない気がする。千冬さんはもう少し柔らかくて大きかったような……。
「何か失礼なことを考えている顔をしているぞ、柳川将冴」
「え、あ、ごめんなさい!」
「とりあえず下ろすぞ。車椅子を出せ」
「は、はい!」
言われた通り車椅子を出すと、千冬さんに似た女性は僕を車椅子に乗せた。
改めてその女性……っていうか女子?を見てみると、年は僕より少し下くらいの女の子だった。千冬さんに激似の。
「お前の言いたいことはわかるが、私は織斑千冬ではないぞ」
「う、うん……改めて見たら、そうだね。えっと、名前は?」
「……エムだ」
エムさん……彼女には悪いけど、なんだかそっけない名前というか……。
「まーちゃん、コードネームじゃなくて本名言わなきゃ〜、クンカクンカ」
「必要性を感じない。あと、お前はいつまで柳川将冴の服の匂いを嗅いでいる」
そう言うと、エムさんは束さんから服を奪おうと手を伸ばすが、束さんはひょいひょいと躱してしまう。あの人、いろいろ規格外だから、本気で逃げられると捕まえるの大変なんだよなぁ……。
「まーちゃんがちゃんとお名前言えたらしょーくんに返してあげるー」
「このっ……」
「エムさん、いいですよ。束さんが飽きるまでそのままで。部屋に着替えありますから」
「……そうか」
エムさんはそう言うと束さんを捕まえるのをやめて、こちらをじっと見てきた。
「あの……何か?」
「マドカ」
「え?」
「名前、織斑マドカだ。さん付けしなくていい」
織斑マドカか。
名字が織斑なのが気になるけど、そこは触れない方がいいだろうか。
「うん、わかったよマドカ。僕のことも、将冴でいいよ」
「ああ」
僕は手を差し出すと、マドカは意図を理解してくれたのか、手を握ってくれる。
すると、手を握ったままマドカがこちらをじっと見てくる。ただ、さっきと違って僕の顔ではなく、少し下……お腹のあたりに目線が行っている。
「ま、マドカ?」
「……」
「えっと……」
「……」
「……触ってみる?」
そう聞くと、マドカはコクンと頷き、僕のお腹をペチペチと硬さを確かめるように叩き始めた。
「……」
ペチペチペチペチ
「……」
ペチペチペチペチ
「……楽しい?」
「よくわからない」ペチペチペチペチ
さすがに何度も叩かれると、ジンジンしてくるんだけど……ていうか、上半身裸だから少しずつ寒くなってきた。
……くしゃみでそう。
「んっ……くしゅっ」
「将冴様、寒いですか?」
「うん……夏とはいえ、冷房効いたところで上半身裸は、ちょっとね」
「それはいけません。束様、将冴様の服を返してください!」
「エェ〜、もう少し嗅いでおきたいよぉ〜」
「将冴様が風邪をひいてしまいます。さあ、お返しください!」
「ぶー、しょうがないなぁ〜。ま、束さんの匂いも染みついているから、それはそれでいいかもねぇ〜」
何がいいものか……。
クロエさんは束さんから服を受け取り僕のところへ持ってきてくれる。
「どうぞ、将冴様」
「ありがとうございます、クロエさん。マドカ、服着るからお腹の叩くのやめてくれる?」
「……わかった」
一瞬残念そうな顔を見せ、僕のお腹を叩くのをやめてくれた。
さっさと服を着ると、束さんが僕の目の前にやってくる。
「さあさあ、しょーくん。改めて、私の住処へようこそなのだよー。とりあえず、しょーくんの義肢とバーチャロンを預かるよ。そろそろフルメンテしておいたほうがいいからねぇ〜」
「束さん、義肢なんですが、代わりの義手はありませんか?足はまだいいとしても、手はないと不便ですし……」
「しょーくんには申し訳ないんだけど、義手の予備はないんだぁ〜。すぐに終わらせちゃうから、今日のところは我慢してくれないかな?」
義手を後からメンテしてもらうという手もある気がするけど……それは束さんの負担になってしまうか……。しょうがない、諦めよう。
「わかりました、メンテよろしくお願いします」
「はいはーい!」
僕はまずバーチャロンの待機状態であるピアスを耳から外し、束さんに渡す。
義足は拡張領域に入っているから、束さんなら取り出せるだろう。後は義手だけど……。
「将冴様、義手を外しますね」
「お願いします」
クロエさんが義手をゆっくりと外してくれる。
……やっぱり手足がないと不便だなぁ……。
「ではでは、束さんは研究室にこもってくるよ!くーちゃん、後でお夕食持ってきてねぇ」
「かしこまりました」
束さんは研究室に入って行ってしまった。
さて、この後はどうしようか。ISも義肢もないからトレーニングはできないし……。
「将冴」
「ん?どうしたの、マドカ」
「また触らせてくれ」
「……今?」
「今」
どうせ抵抗できない。
僕はマドカにお腹の主導権を渡した。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
数十分ほどマドカにお腹をペチペチされていると、クロエさんが料理を乗せたキャスター付きの台を押して束さんの研究室に向かっていくのが見えた。
「あ、クロエさん。もうお夕食できたんですか?」
「はい、そちらの部屋にご用意してきたので、先に食べてても構いません」
「わかりました。ほら、マドカ。もう叩くのはやめて」
「わかった」
今度は十分に堪能したのか、さっきのように残念そうな顔を見せなかった。
思考制御で車椅子を動かし、料理が置いてあるという部屋に向かおうとすると、マドカが僕の後ろに回り、車椅子を押し始めた。
「私が押す」
「ありがとう、マドカ。それじゃあ、お願いしようかな」
マドカに押され、部屋に入ると、まるで一軒家のリビングのような部屋がそこに現れた。
「うわぁ……」
二年前はなかったために、これにはさすがに驚きを隠せない。
ていうか、束さんはこのラボをどこまで持っていくつもりだ。そのうちIS学園より大きな建物になるのではないだろうか……
「そこでいいか?」
マドカが指差す方向には、大きなテーブルに椅子が5つ置いてある。しかし、一つだけすっぽりスペースが空いている。
車椅子用に空けておいてくれたようだ。
「うん」
マドカはスペースへ車椅子を止めてくれ、左隣に座った。
テーブルの上にはすでに美味しそうなハンバーグやスープなどが四人分並んでいた。
「美味しそうだね」
「ああ。……将冴」
「何……むぐぅ?」
突然口の中に何か突っ込まれた。これは……ハンバーグだろうか?
「私が食べさせてやる」
「ん、んぐっ……はぁ……。それは助かるけど、いきなり口の中に突っ込まないでくれるかな?」
「善処する。ほら、口を開けろ」
マドカがハンバーグを小さく切り分け、それをフォークで突き刺し僕の口元に持ってくる。
この感じも久しぶりだな……。
そんなことを考えながら、僕はハンバーグを口にした。
と、その瞬間、部屋の扉が開いた。
「おーい、飯できてんの……か……」
「オータムか」
ここに来る時に来ていたスーツではなく、シャツにホットパンツというラフな格好のオータムさんが入ってきた。
何やら口をパクパクさせているが……
「エ、エエエム!お前何してんだ!?」
「見ての通り、将冴の食事を手伝っている」
「手伝ってって、なんで……」
「束さんに義手持ってかれてしまって」
ここで、オータムさんは僕の体をまじまじと見つめてきた。
「……ったく、そういうことかよ。驚かせんじゃねぇよ」
「お前が勝手に驚いたんだろう」
「うるせぇ!ガキは黙ってろ!」
そう言うと、オータムさんは僕から一つ席を空けたところに座った。
「オータム、将冴の横に座らなくていいのか?」
マドカが何やらオータムさんに絡んでいる。
「は、はぁ!?なんでわざわざ隣に行かなきゃ……」
「電話、鏡……」
「だぁ!お前!それ以上言うんじゃねぇ!」
一体何のことか……
オータムツンデレ可愛い。
束むつかしい。
クロエマジメイド。
マドカなぜか不思議ちゃん