やや慌ただしい昼食会は予鈴とともに終了し、将冴達は午後のIS実習のために着替えを始めていた。
将冴、一夏、狼牙は当然のことながら教室を追い出され、離れたところにある更衣室で着替えていた。
「昼食食った後にIS実習とか、結構俺たちのこといじめてるよな」
「織斑先生のことだし、食事管理も必要なスキルだ、とかそう言う意味なんじゃないかな?」
「まぁ、専用機を持っていないものも一緒に行うんだ。そうキツイものでもないだろう」
「そうかもしんないけどよ……そういえば、狼牙は昼にお粥食べてたよな?体格に似合わず」
「体格に似合わずは余計だ。まぁ、元の世界では何かと胃をやられることが多くてな……」
狼牙の顔に悲壮感が浮き出る。
将冴と一夏が想像できないほどのことが、狼牙の身に起きていたことは容易にわかる。
「狼牙、苦労してるんだね」
「お前もなかなかに苦労しているだろう?」
狼牙は将冴の姿を見てそう返す。
あるべき体の部位が欠落している将冴の姿もまた、将冴の身に起きた惨劇を物語っている。
「まぁね……」
「その義肢、束さんの仕業だろう。あの人でなければ、こんなことはできない」
「あはは……束さんはどの世界でもそんな認識なんだね」
「世界変われど、束さんは変わらずってか」
篠ノ之束に深く関わる3人は、その人の恐ろしさというか、そういうものをよく知っているため、よくわからないが気が滅入る。
「……多分、今夜あたり来るよ」
「俺、部屋に篭ってる……」
「無駄だ。あの人の前ではどんな厳重な鍵も意味をなさん」
「束さんが暴走しないように気をつけよう。……狼牙がいたら意味ない気もするけどね」
『はぁ……』
3人同時にため息をつく。
狼牙という、謎の存在をあの束が放っておくはずがない。
「っと、こんなことしてる場合じゃなかった。グラウンドに行こう。織斑先生に怒られちゃう」
「このままわざと遅れて、3人一緒に出席簿を食らうのもアリかもな」
「狼牙、朝のこと根に持ってたの?」
「根に持つというよりは、どうして将冴が叩かれなかったのかを知りたくてな」
「な、なんでだろうね……車椅子だから?」
「それは関係ないだろう」
「おーい、2人とも。早く行こうぜ」
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「遅い」
スパンスパン、と一夏と狼牙の頭に出席簿が落とされ、すでに集まっていた女子たちからクスクスと笑いがこぼれた。
そして、やはり将冴の頭には出席簿は落ちなかった。
「将冴、お前は早く山田先生とハルフォーフ先生のところへ迎え」
「わかりました。それじゃ、一夏、狼牙。頑張ってね」
将冴は2人に手を振り、どこかへ行ってしまう。
そんな将冴の後ろ姿を、一夏と狼牙は頭をさすりながら眺めていた。
「お、おう」
「やはり納得いかん……」
「お前達も早く並べ。実習を始める」
「その前に質問いいだろうか?」
すっと手を挙げた狼牙に、千冬は「なんだ」と短く答えた。
「将冴はどこに行ったのだ?」
「将冴は別カリキュラムだ。内容については、後で本人から聞け。他に質問は?」
「いや、ない」
「では始める。全員、以前決めたチームごとに固まれ。銀、お前は見学だ」
見学ならば着替えなくてもよかろうに、と口に出しそうになったが、千冬から制裁が降る可能性もなきにしもあらずだったため、なんとか押しとどめた。
それぞれがチームに分かれるのを眺めながら、狼牙は千冬の横に立った。
「不満か?」
「いや、むしろありがたい。俺が専用機を持っていることが生徒たちに知られたら、どうなるかわからないからな」
「別段何が起こるわけでもなさそうだがな。話すかどうかはお前に任せる」
「いいのか?」
「何がだ?」
「いや、俺のような得体の知れない男に任せるなど……」
「将冴が、お前を信じると言ったのだろう?なら問題ない」
なぜここで将冴の名前が出るのか、狼牙にはわからない。
それほどまでに、将冴のことを信頼しているということか、と結論付けるしかなかった。
その時、突然狼牙が頭を押さえ、小さく小言を呟き始めた。
「いきなり叫ぶな……はぁ?おい、白。あのブリュンヒルデがだぞ?……女心をわかっていないって、女ではないのだからわかるわけなかろう……」
突然の狼牙の独り言に、千冬は本当に信じていいのか不安になるのだった。
一方、チームごとに分かれた専用機持ちたちは、それぞれのチームごとにこそこそと話し合っていた。
曰く、『狼牙はもしかしたらアブナイ人なのではないか』と。