「それで、この組み分けは?」
独り言を終えたのか、狼牙は千冬に質問をする。
3人ずつのチームになり、専用機組は一般生徒たちに何やら指導を行っている。
「3人編隊の実習だ。フォーメーションや各人の役割をしっかり把握させている。どうも、今年の1年生は我が強い奴が多いようだからな」
「そう、だな……」
どの世界でも、この学年は変人揃いなのだ。
と、狼牙はそれぞれのチームを見て回ると、一人目につく女子がいた。
それは眼鏡をかけ、水色の髪をした女子。元の世界で、狼牙が愛した人。
「簪……」
狼牙が小さく呟くと、その声が聞こえていたのか、その女子……更識簪が狼牙の方に目を向けた。
「え……あの……あなた、誰?」
怯えたように狼牙に問いかける簪。
今日何度味わったかわからない気持ち。自分は知っていても、相手は知らないという物悲しい気持ちが、また狼牙を襲った。
「驚かせてすまない。俺は銀狼牙という。1組に転校してきたものだ。日本の代表候補生に挨拶をと思ってな」
「そう……」
狼牙は初対面でなくても、簪は初対面。もともと内気な性格の彼女は、やはり初対面の男子に抵抗があったようだ。
「邪魔して悪かった。授業、頑張ってくれ」
「う、うん……」
これ以上は、自分も辛くなる。そう思った狼牙はそそくさと千冬の隣に戻った。
「元の世界で、いい仲だったのか?」
2人のやりとりを見ていたのか、千冬が狼牙に聞いてきた。
「ああ。愛し合った仲だ」
「セシリアとも、恋仲と聞いたが?」
「一人だけ、ということができなくてな」
「そうか……よく更識姉を納得させたな」
「楯無もそういう関係だ」
「……節操なしめ」
「なんとでも言ってくれ。言い返せるほど、心に余裕がない」
予想以上にダメージが大きかったようで、狼牙の表情はいいとは言えない。
いつまでこの世界にいるかはわからないが、この状態が続くのは千冬も望んでいない。
発散させるにはどうしたらいいかと、千冬は考える。
「……銀、放課後にアリーナへ来い」
「唐突だな。何をさせる気だ?」
「ちょっとした余興だ。人払いはしておく」
千冬は小さく笑みをこぼすと、フォーメーションの練習をしている生徒たちの元へ歩いていった。
「……嫌な予感しかせんな」
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IS実習も無事に終わり、狼牙は着替えなくてもよかったではないかと愚痴をこぼしつつ、一夏と更衣室に向かっていた。
「あらかじめ伝えておけばいいものを……」
「まぁ、一人だけ違う格好だと、浮くと思った千冬姉の配慮だって。……多分」
「俺は違うと思うがな……」
そう言いながら更衣室の扉を開けると、そこには滝のような汗を流しながらISスーツを脱いでいる将冴の姿があった。
「あ、一夏に狼牙。お疲れ〜」
「将冴もお疲れさん。今日もアレか?」
「うん。さすがに疲れたよ……」
「いったい何をしていたんだ?」
「シュミレーターを使った、集団戦における司令塔の訓練。銀の福音の暴走事件……ってわかる?」
「ああ。こちらの世界でもあった」
「そっか。その時、僕が簡易的な司令塔をしたのが織斑先生の目に止まってね。夏休み明けから、司令塔としての訓練もやってるんだ。これがまたキツくてね。部隊全体を見ながら、落とされないようにしなきゃいけないし、シュミレーターを作ったの束さんだから、衝撃までリアル再現されてて……」
話せば話すほど将冴の目から光が消えていく。
余程大変なのが目に見えてわかる。
「将冴。時にはノーということも必要だぞ」
「千冬さんや束さんに面と向かってノーって言える?」
「……すまなかった」
「千冬姉と束さんが恐ろしいのはわかるけど、2人とも目に生気宿せよ……」
本気で2人が心配になってきた一夏の声に、2人は目に光を宿した。
「ほら、早く着替えようぜ。また出席簿食らうのはごめんだぜ」
「そうだな。まぁ、まだ時間もある。ゆっくり着替えようではないか」
「僕はシャワー浴びてくる。さすがに汗だくのままだと、ね」
将冴は義足をつけて、一人シャワールームへ入っていく。その光景に、狼牙はなんだか不思議なものを見ている気分になった。
「義足があるのはわかっていたが、さっきまで車椅子に座っていたものが立って歩いているというのは、なかなかに不思議なものだな」
「俺も義足使ってるところ見た時驚いたよ。小学校の時とか、まだ手足があるところ見てたのに」
「……将冴が手足を無くしたのはいつ頃なんだ?」
「2年前、ドイツでな。俺も詳しくは知らないけど、テロリストが将冴の両親……ISの研究者だったんだけど、その研究データを奪おうと誘拐した時にだって。俺も違うところで誘拐されてたんだけどな」
「そうか……」
「でも、ここからがすげぇんだけどさ。その時将冴を助けたのってハルフォーフ先生なんだって」
「ほう?それはまた運命的な出会いだな」
「だろ?それで今は恋人同士だもんな。本当、人生どう転ぶかわかったもんじゃ……」
「一夏、何ベラベラ僕のこと喋ってるの?」
いつの間にか一夏の背後に腰にタオルを巻いた将冴が腕を組んで立っていた。
「あ、いや、これは狼牙に聞かれたから……」
「だからって、僕の許可なしに話さないでよ」
「わ、悪りぃ……」
「悪りぃ、で済んだら警察はいらないよ」
「そんな大事にすることか!?」
「まぁ、警察云々は冗談としても……それなりの罰は受けてもらうね?」
「罰って……まさか……」
「お・し・お・き」
そのあとのホームルームで、ぐったりと元気のなくなった一夏が目撃された。
狼牙はしきりに、「義手であれだけの技術を行使するとは……」と呟いていた。