ラグ0109様の作品の方に、将冴君がお邪魔しています。是非、ご覧ください。
私も続きが楽しみなんです。
将冴の拳が狼牙の脇腹に突き刺さった。
ズドンという衝撃音とともに、狼牙はアリーナの壁まで吹き飛ばされる。
「ぐっ、がはっ!?」
「ふぅぅ……」
壁に激突し呻き声をあげる狼牙と、残心で息を吐く将冴。シールドエネルギーの残量は両者互角といったところだろう。
将冴は群狼による攻撃で削られていったが、狼牙は将冴の渾身の一撃で多くのシールドエネルギーを失った。
お互いに一歩も譲らない。管制室にいる3人も手に汗握るほどの試合展開だ。
「げほっ……随分と、えげつない拳を放つものだ」
「まだ動けるんだ。生身の人に打ち込んだら確実に意識を失う攻撃だったんだけど」
「生憎と頑丈なものでな。しかし、よもやお前の瞬時加速にそれだけのバリエーションがあるとは思わなんだ」
基本的に瞬時加速は曲がったり急停止することができないと言われている。それをやってのける将冴に、狼牙は驚きを禁じ得ない。
「もう一段階、レベルを上げても良さそうだな」
「まだ隠していたの?」
顔が隠れているのに、将冴の顔が青ざめているような気がした狼牙。
しかし、狼牙は確信を得ていた。この男なら、まだ付いてこれると。
「案ずるな。まだ試合の範囲だ」
その瞬間、天狼白曜のスラスターが起動しギュンと狼牙が急加速。
瞬時にして、拳を構えた状態で将冴の目の前に現れた。
「え……」
「ここからは力くらべと行こう」
狼牙はさっきのお返しと言わんばかり、将冴の顔面に拳を放つ。
「くっ!?」
将冴は上体を後ろにそらしなんとか躱す。そのままバク転で狼牙と距離を取る。
「まだあんなに早く……」
「お前も、まだ早くなれるのではないか?」
「え、うし……」
「ふんっ!」
いつの間にか将冴の背後に狼牙が立っており、将冴に回し蹴りを放つ。完全に予想外の攻撃に、回避も防御も間に合わない。
「があっ!?」
「そら、まだまだ行くぞ」
先ほどと打って変わって、狼牙が超高速で将冴を翻弄し近接格闘を仕掛けていく。
群狼や、ワイヤーブレードを使わない。純粋な格闘戦を挑んできている。
将冴はハイパーセンサーでどうにか狼牙の攻撃を見切るが、反撃に転じることができない。
(狼牙の攻撃が早すぎる……アファームドでも動けないなんて……)
「どうした。このままされるがままか?」
「(仕方がない……使いたくないけど)されるがままは嫌だね。ここから反撃させてもらうよ。『フェイ・イェン』」
将冴の音声認識により、アファームドの装甲が変化する。
迷彩だった装甲はピンクの縞模様が基調となり、男らしいかったシルエットもすらっと細くなり、フリフリのスカートのような装甲。手には可愛らしいハートの装飾がなされたレイピア。そして、一番目を引くのは頭部。小さくまとめられた髪のようなパーツがツインテールになってくっついていた。
フォーム『フェイ・イェン』。将冴の胃にダメージが入る。
「将冴……それは……」
さすがの狼牙も引くレベルである。男がこんな可愛らしい格好をするのは明らかにおかしい。
「そうだよね!それが普通の反応だよね!決して歓声があがるものじゃないよね!」
フェイ・イェンは学年別タッグトーナメントで、なぜかアリーナが今まで見せたことのない盛り上がりを見せた問題児(?)である。
引かれているのに、なぜか普通の反応が返ってきたことが嬉しかったのだ。
「正直、ふざけているとしか思えないが……この場面でフォームを変えたんだ。意味があるのだろう?」
「もちろん。これなら……」
スラスターを点火させ、急加速。先ほどまでと比べ物にならない早さで狼牙に追いつく。
「追いつける!」
レイピアを狼牙に突き立てる。鋭い攻撃が狼牙の腕と肩に突き刺さった。
「くっ……見た目に騙されてはいけない、ということか」
「僕のIS、『バーチャロン』のフォームの中で最速。これで渡り合えるよ」
「ふっ、面白い。早さ比べと行こう!」
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「なんなの……あの二人……」
「早すぎる……動きを追うので精一杯だ」
「将冴はまだ許容範囲か……銀の方はまだまだ余裕といったところか。いったいどれだけのスペックを詰め込んでいるんだ」
将冴と狼牙の会話を聞く限り、狼牙はまだ全てを出し切っていない。将冴は使いたくなかったフェイ・イェンまで引っ張り出しているというのに、だ。
「将冴君、辛そうですね」
「このままでは……織斑先生、すぐに試合を中止してください!二人とも、これ以上は危険です!」
「いや、中止はしない」
「なぜですか!将冴が以前に血を吐いたのをお忘れですか!?」
「分かっている。だが、ここで止めるのは無粋というものだろう。それに……」
千冬は思案するように顎に手を当てた。
「先生、狼牙君のことが気になるんですか?」
「ああ。どうも銀は異質に感じる。どうしてそう感じるかはわからないがな」
言い知れぬ違和感を感じながらも、千冬はモニターに目を戻した。
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一進一退の攻防が続き、将冴の残りエネルギーは220。狼牙は250。僅かに狼牙のエネルギーが勝っている。
「はぁ……はぁ……」
「っはぁ……お互いに、もう後がないな」
「そう、だね……そろそろ終わりたい気分だけど」
「ならば、次で決めるつもりで行こう」
「賛成、かな」
お互いに最後の攻撃と覚悟を決めて構える。
2人の間に緊張が走る。
「……」
「……」
次の瞬間、弾かれたように2人は飛び出した。
狼牙はブレードトンファーを展開し、突くようにして前に出した。一方、将冴はレイピアを構えてはいるものの、ノーアクションで狼牙に向かっている。
(何か企んでいるのか?しかし、これで決めてしまえば!)
トンファーの切っ先が、将冴の体に接触する正にその時だった。
狼牙の手に、軽すぎる手応えが伝わった。
「浅い!?」
「いい感じだよ、狼牙」
将冴がそう呟く。
将冴のエネルギーが110。決めるつもりの攻撃が届かなかった……いや、将冴が届かないようにしたのだ。瞬時加速キャンセルからのバックブーストで後ろに下がり、ダメージを最小限にとどめたのだ。
「おかげで、僕はもっと早くなれる」
フェイ・イェンの装甲の色が変わり、ピンクから金色になる。そして、狼牙が色を認識した時には、目の前から将冴の姿は消えていた。
「消え……」
「こっちもさっきのお返しだよ」
背後からの将冴の声。
次の瞬間に、背中に連続してレイピアによる攻撃が突き刺さる。
「これでとどめだよ!」
「くっ!」
将冴のとどめの突きは狼牙の背中に的確に打ち込まれる……筈だった。
「え?」
何もないところにレイピアが振るわれた。そこにいた筈の狼牙は忽然と姿を消した。
そして……
「ぐぬぅ!?」
将冴の側頭部に衝撃が走り、シールドエネルギーが0になった。
「しまった……つい本気の速度を出してしまった……」
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試合が終了し、狼牙はISを解き将冴の元へ向かった。
将冴もISを待機状態にしたようで、義手をつけた状態で地面にうずくまっていた。
「将冴、すまない!つい本気で頭に蹴りを……」
「大丈夫。ちょっと頭がグラグラするくらいだから……ゲホッゲホッ!」
「大丈夫じゃないだろう!抱えるぞ」
将冴を抱き抱えると、地面に赤い液体が落ちていた。
そして将冴の方を見ると、口が赤く汚れている。
「お前……」
「はは……ちょっとやりすぎちゃった。クラリッサに怒られちゃう……ゲホッ!」
「喋るな。すぐに医務室に……」
「将冴!」
狼牙が将冴を医務室へ連れて行こうとすると、クラリッサが血相変えて走ってくる。
おそらく、試合を見てこうなることが分かったのだろう。
「クラリッサ、すまない。将冴に無理を……」
「話は後だ。将冴、すぐに医務室に行くぞ」
「俺が運ぼう」
「待て」
将冴を連れて行こうとする狼牙を、千冬が止めた。
「銀は残れ。医務室には、クラリッサと楯無が連れて行け」
「はいはーい。頼まれました」
いつの間にか、楯無が狼牙から将冴を奪い、抱き抱えていた。
「さ、将冴君。行きましょうか」
「待て!将冴は私が!」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。少しはおすそ分けしてくださいよ。クラリッサ先生」
くだらない言い争いをしながらも、ぐったりしている将冴を連れて医務室へ向かっていった。
「……それで、わざわざ止めてまで俺に話があると?」
「ああ。単刀直入に聞こう。……お前は人間か?」