右腕が……右腕がぁー!
ジェニーとステフはたっぷり30分ほど居座った。そんなにいても何もないのに……。帰り際、僕は2人を見送るために廊下に出た。
「この後、2人はどうするの?」
「ゆっくり見て回るつもり。いろいろ設備も見たいしね」
「そっか。僕は色々忙しいから、一緒に回れないかもしれないけど……」
「心配しないでよ、ショウ。ジェニーのお守りは私に任せて!」
「ジェニー、ステフをお願いね」
「わかってるわよ」
「2人とも酷い!?」
ふふ、ステフは弄りがいがあるね。あまり弄りすぎてもかわいそうだから、これ以上はしないけど。
っと、そうだ。
「この後会えるかわからないから、今のうちに渡しておくよ」
僕はポケットから小さな箱を取り出し、ジェニーに渡した。
「それ、帰ったらナターシャさんに渡してくれる?」
「何これ?まるで指輪を入れるための箱みたいな……」
ジェニーが箱を開けると、中には綺麗に輝くシルバーの指輪。束さんが直してくれた銀の福音だ。
しかし、僕はわかってるから何の疑いもなく渡したけど、ジェニーとステフはそうはいかないようだった。
「ちょ、ちょっと!あんたクラリッサさんという人がいながら!」
「修羅場!?日本で有名なヒルドラ展開!?」
「あはは……何も言わなかったらそりゃ勘違いするか……」
僕は少し頭を抱え、改めて説明をする。
「それ、ナターシャさんが乗っていた銀の福音だよ。僕の所属してる企業が海から引き上げて、直してくれたんだよ」
束さんは何も言ってなかったけど、おそらく色々と手が加えられてるだろうなぁ……福音の原型とどめてないかも……。
「あんたの企業ってなんなのよ……」
「バーチャロン開発したり、デュノア社を買収したりする程度の企業だよ」
「ショウ、そうでもない風に言ってるけど、それすごいことだからね?」
うん、知ってる。あの人が関わってるんだから……。今日も学園に来てるんだろうし……。
「いえいえ、そんな大層なことはしていません」
唐突に聞こえてきた声に僕たちは振り返った。
そこには黒い髪を三つ編みにして一つにまとめ、ビン底グルグルメガネをかけた女性が……って、これ変装したクロエさんだ!
クロエさんの横にはまるで貼り付けたような笑顔を浮かべるオータムさんも……2人ともこんなところで何してるの!?
「こんにちは、将冴様」
「ど、どうしてここにいるんですか!クロ……リリン社長!」
クロエさんと呼ぼうとしたらオータムさんからキッと睨まれたので急ぎ言い直す。そうだった、この姿の時はリリン社長と呼ばなければ。
「「社長!?」」
2人の反応は最もだ。正直、この冴えない雰囲気の人が社長なんて思わないだろう。
「えっと、一応紹介するね。こちらが……」
「MARZ社長のリリン・プラジナーです。彼女は、私の秘書の巻紙礼子さんです」
「初めまして。うちの将冴がお世話になっております」
オータムさんが、2人に名刺を渡してる。わざわざ作ったのかな……ていうか、巻紙礼子の時のオータムさんはやっぱり慣れない……。
「ど、どうも……」
「ありがとうございます……」
2人が戸惑いながら名刺を受け取る。
オータムさんはやはり貼り付けたような笑顔を浮かべたままだ……。本性を知ったら2人はどう思うだろうか……。
「将冴、何か失礼なことを考えましたか?」
「い、いえ……そんなことは……」
今日のオータムさんはものすごく怖いんですが……。と、とりあえず……
「リリン社長、礼子さん。よければうちの店に……」
「お言葉に甘えさせていただきます」
「将冴、後で話があるから必ず来てくださいね」
「は、はい……」
はは……僕の心が持ちそうにない……。
「ショウ、大丈夫?なんか顔色悪いけど……」
「少し休んだほうがいいんじゃないの?」
「大丈夫……うん、大丈夫。それじゃ、お店戻らなきゃいけないからこれで。楽しんでいってね。あと、福音のことよろしく」
早く行かなければ、オータムさんに何かされそうだ……。
なんであんなに不機嫌なんだろう……。
将冴の胃壁がどんどん削られていく。
しかし学園祭は始まったばかり。
頑張れ、将冴