ここからすっ転がっていきますぜ。
長いような、短いような沈黙が私と篠ノ之束博士の間で流れた。もう一人の銀髪の少女はこちらを気にせず、ただキーボードを叩いていた。
「それが、どんな結果になっても、君は耐えられるかい?」
先に沈黙を破ったのは、篠ノ之束博士だった。
「昨日、腑抜けていた君が、耐えられるとは到底思えないんだけど」
……当然か。昨晩は、自分の不甲斐なさを情けなく思い、前に進み出せずにいた。でも、ルカが私に気づかせてくれた。私がやらなくてはいけないこと。私が進めべき道を。
「どんな結果になろうと……いや、結果は一つだけです。私は、将冴を連れ帰ります」
「……ふふ、やっぱり私が認めただけはあるね、くらちゃん」
博士はすっと椅子から立つと、私の前に来て手を差し出した。
「頼んだよ、くらちゃん。君が頼りだ」
「はい!」
差し出された手を握り返し、私は強く頷いた。
「さて、実はこんな話をしている場合じゃないんだよね。今起こってること、くらちゃん何も知らないでしょ?簡潔に説明するから、自力で理解してね」
博士から、将冴が暴走状態で太平洋上で静止していること、スペシネフを利用してダイモンがすべてのISを手に入れようとしていることを教えてもらった。
……確かに、時間的猶予はあまりなさそうだ。私達がISを使える猶予は1週間もない。だが、スペシネフの戦闘力は生半可な者ではない。この短い間に、どれだけ準備できるか……。
「くらちゃん、その手に持ってるの、ISかい?」
「ええ、シュバルツェ・ハーゼで副隊長をしていた時の専用機で……」
「ちょっと借りるよ」
ひょいと私の手からISを奪うと、待機状態のまま機体スペックを確認し始めた。
「ふんふん。まぁ、それなりに頑張って組み上げたってのはわかるね。でもこのままじゃ、スペシネフには敵わないか……」
「あの、篠ノ之束博士……」
「くらちゃん、いい加減その堅苦しい言い方やめない?ほら、たーちゃんとか、呼び方色々あるでしょ?」
「いや、しかし……」
ジト目でこちらを見てくる博士。
そんな突然言われても困るのだが……。
「で、では……束さん、と……」
「しょーくんと同じか。まぁ、いいけど。それで、何か聞きたいことでもあった?」
「その、シュバルツェア・ツヴァイク……そのISは、今の持ち主から借りたもので、あまり弄られると……」
「今はそんなお国の事情なんて知らないよ!この非常時にそんなこと言ってられないし!」
いや、それはそうなのですが……正直、将冴の話を聞いていると、シュバルツェア・ツヴァイクが原形をとどめない可能性が……。
「大丈夫、私が責任を持って魔改造してあげるから!」
「魔改造と認めた!?」
すまない、ルカ。
どうやらシュバルツェア・ツヴァイクは元の状態で返せそうにない……。
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「はぁ……」
職員室の自分のデスクにどかっと座り込み、大きくため息を吐いた。
ダイモンによって校舎が破壊されたが、職員室や整備室のある場所まで被害が及ばなかったのは不幸中の幸いか。
「織斑先生、お疲れ様です」
山田先生がコーヒーを私のデスクに置きながら声をかけてくれる。私は「ありがとう」と一言返し、コーヒーに口をつけた。
「将冴君……大丈夫でしょうか?」
「わからない……あの束ですら、対応策を示さなかったんだ」
初めてダイモンが襲撃してきた時も、ラウラがVTシステムに囚われた時も、銀の福音事件の時も、将冴は一番に体を張って解決してきた。
だが、今回は他ならぬ将冴が原因となっている。将冴の戦闘能力は、かなり高い水準にあり、それがスペシネフという機体でさらに底上げされている。
そして束のいうことが本当なら、あれはエネルギー切れがない。世界中の戦力を集めても、厳しい戦いになるだろう。勝てないことはないが……それでは将冴はただじゃ済まないだろう。
「将冴に危害を加えないようにしつつ、事態を収拾する……はっきり言って藁の中から針を探すようなものだ」
「織斑先生でも、そう思うんですね……」
「……考えたくはないが、現実的に考えてそういうことになる。全く情けない。これではクラリッサのことは言えないな」
昨日、あの後からクラリッサの姿は見ていないが……大丈夫だろうか……。
「あまり一人で気負わないでください。私もいますから!」
「ああ、ありがとう」
どうしようもなくなった時は……私が将冴を……。
と、その時、ポケットに入れていた携帯が震えた。こんな時に……相手は束か。
「どうした。学内にいるなら直接……そうか。わかった。集めておこう」
すぐに通話を切り、私は携帯をしまって立ち上がった。
「織斑先生、篠ノ之博士からですか?」
「ああ、大天災がやってくれたようだ」
望みは繋がった。
クラリッサが動き出し、それを起点として全てが回っていく。