シャルルの問題が思いの外面倒です。
あ、昨日更新できなかったのはネタが浮かばなかったわけではなく、私の大好きなバンドのthe pillowsのライブに行っていたからです。
たくさん暴れてリフレッシュしてきました。
寮監室の前まで来て、扉をノックする。さっき織斑先生が戻っていったのは知ってるから入ると思うんだけど。
ガチャリと扉が開き、シャツにハーフパンツ姿の織斑先生が出てきた。
「将冴か。どうした?」
「ちょっと、相談したいことがありまして……」
「……そうか、入れ。立ち話……ではないが、ここで話す話ではないのだろう?」
「はい、では失礼します」
部屋に入るとテーブルの上には蓋の空いた缶ビールが二本と、食べかけのカレーが置いてある。どういう組み合わせなんだ……。
「もう夕食は食べたのか?」
「いえ、まだ食べてないです」
「そうか、なら食べていけ。カレーだが大丈夫か?」
「レトルトですか?」
「手作りだ」
千冬さんが自主的に料理を……ドイツで家事をできるようにしていて良かった。涙が出るほど嬉しい。
「何を感動している……」
「あの真っ黒フレンチトーストのことを思い出しまして。僕がいなくても部屋も綺麗ですし」
「あれだけ叩き込まれれば嫌でも習慣付く。ほら、飲み物は麦茶しかないが、いいか?」
「ありがとうございます。織斑先生」
「もう今日の仕事は終わっている。先生はやめろ」
「わかりました、千冬さん」
千冬さんは少し微笑みながら、麦茶を僕の前に置いてくれる。
手を合わせて、いただきます言い、カレーを一口頬張る。
うん、ちゃんとカレーだ。美味しい。本当にあの真っ黒フレンチトーストを作った人とは思えない。
「何か失礼なことを考えてないか?」
「そんなことないです。カレーおいしいですよ?」
「そうか」
そう言って千冬さんはビールをぐいっとあおる。そして、やや赤らんだ顔で僕の方を真剣な表情で見る。
「それで、相談とはなんだ?」
「はい、シャルルのことなんですが」
千冬さんの眉がピクッと動く。この様子だと、多分事情は全部知ってる。
「単刀直入に聞きます。シャルルが女だということを、学園は知っていますよね?」
「……ああ。学園では事情を全部把握している」
やっぱりか……。千冬さんや他の教員の人があんなあからさまに怪しい人物を調べないわけがない。
しかし、知っていて学園に転入を許したのは一体……。
「どうやら、お前は事情を全て知っているようだな。ということは、一夏も……」
「はい。今のところ、僕と一夏がシャルルの事情を知っています」
「そうか。案外早かったな。あの鈍感な弟のことだから、もう少し時間がかかると思っていたが」
「鈍感ではありますが、トラブルメーカーでもありますから。多分、シャルルがシャワーを浴びてる時にシャワー室に入ったんでしょう。一夏のことだから……」
「ああ……なんとなく想像つくな」
ラッキースケベとでも言うのだろうか?とりあえず、一夏は女性に関することだとトラブルに巻き込まれまくる。その度に鈴とかに殴られていたっけ。
「将冴、シャルルのことを聞きに来ただけか?それに関しては、あまり口外しないようにとしか言えないのだが……」
「いえ、シャルルの今後についてお話があるんです」
「ほう?」
「シャルルの問題を早期解決してあげたいんです。友達として」
千冬さんの顔が険しくなる。難しいことは百も承知だし、僕がそれを言ったところでどうにもならない可能性があるのも知っている。それでも、泣きそうな顔で女の子として過ごしたいというシャルルを放っておくことはできない。
「将冴、それがどれだけ難しいことかは……」
「承知しています。承知した上で、相談に来たんです」
「そうか……」
千冬さんはビールをまた一口飲み、ふぅと息を吐いた。
「結論から言えば、できないこともない、と言ったところだな」
「可能性はあると……?」
「ああ、教師陣でも、解決すべく動いている。フランス政府とデュノア社の間で、不正な金が動いているのは突き止めた」
ネタは上がっているのか。このネタを世間に公表できれば、フランス政府の信用は落ち、デュノア社は存続できなくなる。
「しかし、この問題はフランス政府が関わっている。下手に学園が手を出せば、国際問題になるのは明らかだ」
「そうですか……」
IS学園が大きな力を持っているとはいえ、一つの政府相手に喧嘩を売ってはタダでは済まない……。
最善の結果は、IS学園が手を出したと思わせず、フランス政府とデュノア社が不正を働き、一人の人間の性別を詐称して日本に送ったということを世間に公表すること。
……そんなことをできる……いや、それ以上のことをできる人を、僕は一人知っている。
「千冬さん。学園としても、この問題は解決したいんですよね?」
「ああ、シャルル・デュノアはこの学園の生徒だ。生徒のことを守るのは学園の義務だ」
「わかりました。すいませんが、少し電話してもいいですか?」
「ん?ああ、構わないが」
僕は携帯を取り出し、アドレス帳から相手を選び電話をかけた。
「もしもし……久しぶりです、束さん」
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携帯電話を机の上に置いて、その前で正座待機すること2時間。
私……篠ノ之束は、しょーくんからの電話を待っている。今日、しょーくんのところに義肢が届くはず。律儀なしょーくんのことだからお礼の電話をくれるはず!まだかな、まだかなぁ〜。
「束様、電話を待つくらいなら、こちらからかければよろしいのでは?」
「くーちゃん、違うよ!こういうのは相手からかけてもらうから価値があるんだよ!」
「はぁ……そういうものでしょうか?」
「そういうものなんだよ!」
そろそろ電話きてもおかしくないんだけどなぁ……まさか、お礼の電話は無し!?しょーくんが反抗期だぁ!束さんは悲しいよぉ、しくしく。
なんて泣いていると、電話に着信が!相手は……しょーくん!
『もしもし……久しぶりです、束さん』
「お久しぶりんこ!しょーくんから電話来るのを待っていたんだよ!こうして電話をくれたってことは義肢は届いたんだよね!大丈夫?なんの問題もなかった?今度の義肢は前よりも頑丈に作ったからそうそう壊れないと思うけど……それよりも、しょーくんのことを足蹴にするなんて許せないね!IS学園の雌どもは全て抹殺しなきゃいけないかなぁ、ねぇ、どう思う?しょーくん?」
『あー、とりあえず抹殺はやめてあげてください』
「ぶぅ〜、しょーくんがそういうならやめるけど……」
変なことをしてしょーくんに嫌われたくないしねぇ。それよりも久しぶりのしょーくんの声だ!もうこれだけでムラムラヌレヌレになるほど興奮しちゃうよぉ。
『それで束さん。義肢を直してもらったばかりで申し訳ないんですけど、お願いがあるんです』
「むむ!しょーくんのお願いならなんでも聞いちゃうよ!なんて言ったって、束さんの大切な人だからね!もちろん箒ちゃんやちーちゃん、いっくんもだけど!それで、お願い事って何かな?」
『はい、実は……』
しょーくんのお願いは、私からすればどうでもいい国とどうでもいい企業の不正を調べて欲しいっていうことだった。
んー、正直気乗りしないけどねぇ、しょーくんの頼みなら聞かないわけにはいかないんだよね。
「わかったよ!調べておけばいいんだね!」
『はい、できるだけ詳しく調べてくれると助かります。多分、それが終わった後にもう一つお願いを聞いてもらうことになると思うんですが……』
「うんうん、全然構わないよぉ〜。束さん、今そこそこ暇だし!」
『すいません、こんなこき使うみたいに……』
「謝らなくていいよぉ。それに、しょーくんにこき使われるのは、それはそれでイケナイ感情が芽生えそうでゾクゾクするし……」
『束さん?』
おっと、いけない。つい考えていたことを口走っちゃった。
「ううん、なんでもないよ!それじゃ、調べ終わったらデータをバーチャロンの方に送っておくからね!多分明日の午後には終わるから!」
『はい、よろしくお願いします。あ、それと……』
「ん?」
『義肢、ありがとうございます。なんの問題もなく動いてます。そのうちお礼に伺います。それでは』
そう言ってしょーくんは電話を切った。
おおお、なんだか顔が熱くなってきたよぉ〜。
「束様?なんだか顔が赤いですよ?」
「ふ、不意打ちでお礼なんて卑怯だよぉ、しょーくん……」
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「ふぅ……とりあえず、明日までは何もできないので、待つしかないですね」
「まさか……束まで使うとはな……」
「あまり気は進みませんが……」
束さんはやりすぎる傾向があるから……とりあえず調べてもらうだけにしてもらったけど、最終的には束さんに頼まなければいけない。
「しかし、将冴。この問題は、お前が抱え込む必要は……」
「友達が苦しんでいるのに、見て見ぬ振りはできませんから」
「……あまり、無理はするな」
ポンと、僕の頭を撫でる千冬さん。
「身体的なハンデを背負っているから気にかけているわけではない。お前は……」
「千冬さん、僕は大丈夫です。僕にできることはさせてください……」
「将冴……」
「では、そろそろ失礼します。カレー美味しかったです」
千冬さんの部屋を出て、自分の部屋に戻る。
あ、クラリッサはご飯食べないで待ってるんじゃないかな……なんだか申し訳ないことをしたかも。
そうだ、もう一つ電話しなきゃいけない場所があったな。まだつながるだろうか。
束さんの変態度が増しました。
シャルルの問題は、案外早く片がつきそうです。
次回、あの人たちが……