彼……将冴と話してからは、なんというか考えがまとまったというか、すっきりした気持ちになった。
訓練にも集中して取り組める。最初は訓練に参加するつもりはなかったが、これも彼と話を出来たおかげだろう。
「ラウラ!ワンテンポ遅れているぞ!」
「はい!教官!」
織斑教官は、誰かにものを教えるのは初めてだと言っていたが、そんなことを感じさせない厳しさがある。
そういえば、昨日は織斑教官も彼のところに行くと言っていた。日本に戻った後のことを聞いてしまった手前、彼を放っておきたくない。そんな気持ちが強くなっていた。
まぁ、一軍人に何ができるというわけでもないが。
「よし、集合!」
織斑教官の号令が響いた。
「午前の訓練はこれで終了する。午後の訓練だが、少々野暮用が出来てしまい、指導することができない。したがって、午後は休息とする。しっかり体を休めるように。以上だ」
『ありがとうございました!』
予想外にも、午後は休みになってしまった。
いつもなら、ルカなんかを誘って食事に行くのだが……
「……そうだ」
彼のところに行こう。
日本語も勉強したんだ、ちょうど良い。
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はぁ……この要介護状態はどうにかならないものか。トイレのたびにナースコールして、女の人にすべて見られながら用を足し、処理をしてもらうという……。
思春期男子には拷問だ。退院するまでに、僕の精神が持つのかな。
……退院後も誰かしらにやってもらわなきゃいけないのを忘れていた……。
そんな傷心に浸っていると、コンコンとノックする音がした。目が覚めてから、毎日誰かしら来てくれるなぁ。
「どうぞ」
そう返すと、小さく「失礼します」と聞こえ、扉が開いた。
入ってきたのはクラリッサさんだ。また来てくれたんだ。すごい嬉しい。
「き、来ちゃった」
……?なんだろう。この違和感は、何かが色々間違えてる気がする。
「こんにちは、クラリッサさん。来てくれてありがとう」
「昨日、あ、会えなかったから……私、寂しかった……」
可愛らしい仕草で……そう言ってきた。
「……」
えっと、なんて返せば……というか、この少女漫画のような台詞は一体……1日会わなかっただけで、一体何が……。
「こ、これ……君のために作ってきたんだ……食べてくれる?」
?……??
バスケットを前に取り出されても受け取れないよ?手がないから……。
「……」
「……」
「……チョット、マッテクレ」
沈黙に耐えられなくなったのか、初めてお話した時みたいな片言の日本語でそう言って、どっからともなく本を取り出しパラパラとめくっている。
一瞬見えた本は、なんか日本の有名少女漫画のように見えたが……気のせいだろうか……。
『どういうことだ、これが日本の正しい作法なのではなかったのか?意味はよくわかってないが、言っててなぜか恥ずかしいんだぞ……』
ドイツ語で独り言をつぶやいてる。
ああ……なんとなくわかった。
「クラリッサさん?」
「っ!?ナンダ!」
「それをお手本にしちゃダメだと思うよ……」
「ソウナノカ!?」
「それ日本の漫画でしょ?それが通用するのは、漫画の中だけだと思う」
クラリッサさんはショックを受けたようで、その場で崩れ落ちた。
『なんということだ……まさかこれが間違いだったなんて……』
んー、ドイツ語だけど、なんとなく何言ってるかわかるような……。
「確かに、今のは間違いだと思うけど、来てくれたのはすごい嬉しいよ。ありがとうクラリッサさん」
「え、あ、う……コウイウトキ、ナンテ返セバ……」
「ふふ。どういたしましてって言えばいいんだよ」
「ドウイタシマシテ……ウン、ドウイタシマシテ!」
新しい事を覚えて、嬉しがってる子供みたい。可愛らしい。
「でも、さっきの漫画の台詞かな?その時の日本語はすごい上手だったよ。勉強の仕方は間違ってないかもね」
「ソウ?私、コレカラ漫画読ム」
張り切る姿も、子供のようだ。
「そういえば、そのバスケットはなに?」
「ベルリーナー。ドイツノ、オ菓子。パン屋、ドコデモ売ッテル。アゥ〜……ドーナツ、近イ」
「へぇ、美味しそうだね」
「美味シイ!食ベテ」
少し顔を赤くしてずいっと差し出してくれる。
美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる。
食べたいのは山々だけど……手がないからなぁ。
「あ……」
クラリッサさんの顔が暗くなる。
手が使えないのを思い出したのかな……なんだか申し訳ない。
「……ウン……」
「?」
クラリッサさんがベルリーナーを手に取り、小さく千切った。
「アーン」
「え?あむっ」
突然のことに反応できずに、口にベルリーナーを突っ込まれた。
砂糖のまぶしてある生地とジャムが口の中で広がった。
「美味シイ?」
「うむ……んくっ。うん、すごい美味しいよ」
パァっと満面の笑みを浮かべるクラリッサさん。その笑顔に少しドキッとした。
「モット食ベル?」
「う、うん」
「ワカッタ、アーン」
二口目を食べさせてもらったところで、もう聴き慣れてきたノック音がした。
「将冴、邪魔する……ぞ……」
私服姿の千冬さんだった。
このクラリッサさんヤベェな。もうクラリッサさんじゃないな。なんだこれ。
反省も後悔もしていない!……と言ったら嘘になる。
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