IS 〜偽りの腕に抱くもの〜【本編完結】   作:sha-yu

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前書きのネタがないので、本編どうぞ。


8話

 

彼……将冴と話してからは、なんというか考えがまとまったというか、すっきりした気持ちになった。

 

訓練にも集中して取り組める。最初は訓練に参加するつもりはなかったが、これも彼と話を出来たおかげだろう。

 

 

「ラウラ!ワンテンポ遅れているぞ!」

 

「はい!教官!」

 

 

織斑教官は、誰かにものを教えるのは初めてだと言っていたが、そんなことを感じさせない厳しさがある。

 

そういえば、昨日は織斑教官も彼のところに行くと言っていた。日本に戻った後のことを聞いてしまった手前、彼を放っておきたくない。そんな気持ちが強くなっていた。

 

まぁ、一軍人に何ができるというわけでもないが。

 

 

「よし、集合!」

 

 

織斑教官の号令が響いた。

 

 

「午前の訓練はこれで終了する。午後の訓練だが、少々野暮用が出来てしまい、指導することができない。したがって、午後は休息とする。しっかり体を休めるように。以上だ」

 

『ありがとうございました!』

 

 

予想外にも、午後は休みになってしまった。

 

いつもなら、ルカなんかを誘って食事に行くのだが……

 

 

「……そうだ」

 

 

彼のところに行こう。

日本語も勉強したんだ、ちょうど良い。

 

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

はぁ……この要介護状態はどうにかならないものか。トイレのたびにナースコールして、女の人にすべて見られながら用を足し、処理をしてもらうという……。

 

思春期男子には拷問だ。退院するまでに、僕の精神が持つのかな。

 

……退院後も誰かしらにやってもらわなきゃいけないのを忘れていた……。

 

そんな傷心に浸っていると、コンコンとノックする音がした。目が覚めてから、毎日誰かしら来てくれるなぁ。

 

 

「どうぞ」

 

 

そう返すと、小さく「失礼します」と聞こえ、扉が開いた。

 

入ってきたのはクラリッサさんだ。また来てくれたんだ。すごい嬉しい。

 

 

「き、来ちゃった」

 

 

……?なんだろう。この違和感は、何かが色々間違えてる気がする。

 

 

「こんにちは、クラリッサさん。来てくれてありがとう」

 

「昨日、あ、会えなかったから……私、寂しかった……」

 

 

可愛らしい仕草で……そう言ってきた。

 

 

「……」

 

 

えっと、なんて返せば……というか、この少女漫画のような台詞は一体……1日会わなかっただけで、一体何が……。

 

 

「こ、これ……君のために作ってきたんだ……食べてくれる?」

 

 

?……??

 

バスケットを前に取り出されても受け取れないよ?手がないから……。

 

 

「……」

 

「……」

 

「……チョット、マッテクレ」

 

 

沈黙に耐えられなくなったのか、初めてお話した時みたいな片言の日本語でそう言って、どっからともなく本を取り出しパラパラとめくっている。

 

一瞬見えた本は、なんか日本の有名少女漫画のように見えたが……気のせいだろうか……。

 

 

『どういうことだ、これが日本の正しい作法なのではなかったのか?意味はよくわかってないが、言っててなぜか恥ずかしいんだぞ……』

 

 

ドイツ語で独り言をつぶやいてる。

 

ああ……なんとなくわかった。

 

 

「クラリッサさん?」

 

「っ!?ナンダ!」

 

「それをお手本にしちゃダメだと思うよ……」

 

「ソウナノカ!?」

 

「それ日本の漫画でしょ?それが通用するのは、漫画の中だけだと思う」

 

 

クラリッサさんはショックを受けたようで、その場で崩れ落ちた。

 

 

『なんということだ……まさかこれが間違いだったなんて……』

 

 

んー、ドイツ語だけど、なんとなく何言ってるかわかるような……。

 

 

「確かに、今のは間違いだと思うけど、来てくれたのはすごい嬉しいよ。ありがとうクラリッサさん」

 

「え、あ、う……コウイウトキ、ナンテ返セバ……」

 

「ふふ。どういたしましてって言えばいいんだよ」

 

「ドウイタシマシテ……ウン、ドウイタシマシテ!」

 

 

新しい事を覚えて、嬉しがってる子供みたい。可愛らしい。

 

 

「でも、さっきの漫画の台詞かな?その時の日本語はすごい上手だったよ。勉強の仕方は間違ってないかもね」

 

「ソウ?私、コレカラ漫画読ム」

 

 

張り切る姿も、子供のようだ。

 

 

「そういえば、そのバスケットはなに?」

 

「ベルリーナー。ドイツノ、オ菓子。パン屋、ドコデモ売ッテル。アゥ〜……ドーナツ、近イ」

 

「へぇ、美味しそうだね」

 

「美味シイ!食ベテ」

 

 

少し顔を赤くしてずいっと差し出してくれる。

美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる。

 

食べたいのは山々だけど……手がないからなぁ。

 

 

「あ……」

 

 

クラリッサさんの顔が暗くなる。

手が使えないのを思い出したのかな……なんだか申し訳ない。

 

 

「……ウン……」

 

「?」

 

 

クラリッサさんがベルリーナーを手に取り、小さく千切った。

 

 

「アーン」

 

「え?あむっ」

 

 

突然のことに反応できずに、口にベルリーナーを突っ込まれた。

 

砂糖のまぶしてある生地とジャムが口の中で広がった。

 

 

「美味シイ?」

 

「うむ……んくっ。うん、すごい美味しいよ」

 

 

パァっと満面の笑みを浮かべるクラリッサさん。その笑顔に少しドキッとした。

 

 

「モット食ベル?」

 

「う、うん」

 

「ワカッタ、アーン」

 

 

二口目を食べさせてもらったところで、もう聴き慣れてきたノック音がした。

 

 

「将冴、邪魔する……ぞ……」

 

 

私服姿の千冬さんだった。




このクラリッサさんヤベェな。もうクラリッサさんじゃないな。なんだこれ。

反省も後悔もしていない!……と言ったら嘘になる。


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