シャーレの決戦兵器   作:わんぱくフォックスですまない

10 / 47
ほぼアルちゃん回


第10話 えっ、かっこいい?

sideアル

 

 

「……(ムスッ)」

 

 

私達、便利屋68は先のアビドス襲撃で傭兵にお金を使いすぎて、情けない話金欠になってしまった。私の計画性のなさで社員には苦労を掛ける。しかし無いものは無いのでここは企業らしく融資を受けにブラックマーケットの銀行へと赴いていた。

何故、普通の銀行じゃなくてブラックマーケットなのか。ムツキ室長は私の口座の凍結と指名手配されていて風紀委員ににらまれてるのが怖いから、なんてハルカ平社員に説明していたけど断じて違うわ!

 

私は悪行の限りを尽くす真のアウトロー!まっとうな表の銀行じゃ私たちの存在が恐れられすぎて相手にされないだけ!そしてブラックマーケットは悪辣非道が跋扈する無法地帯。

そのため私達、”悪”側は悪側の世界で完結させるのよ。

別に風紀委員長が怖いとかそんなことはない。ないったらないのよ。

そんな思いを胸に抱きながら銀行で融資の相談をしたのが6時間前。

 

―――遅すぎじゃないかしら?あまりにも。

世のアウトローたちが集うこの町で犯罪を助長し、その利益を牛耳る悪の親玉的位置に近いこの銀行が仕事が遅いですって?私達アウトローはそこらの悪ガキ、チンピラとは違う”本物”なのよ。

ならば仕事はスピーディに。それでいてミスなくやり遂げるのが常ってものじゃないかしら?

社員たちも暇すぎて待合室で寝てしまった。暇すぎて不満ばかり出てくる。

 

 

「……はぁ。」

 

 

自然とため息が出る。社員たちの前ではできないが今は寝ているのでいいだろう。

するとようやく待ちに待った職員が私に近づいてくるのが視界の端に見えた。

 

 

「大変お待たせしました、お客様」

 

「何がお待たせしました、よ!ええ、本当に待ったわよ!6時間も!ここで!」

「審査に半日もかかるものなの!?そんなに人がいたようには見えなかったけど?」

「うちの社員は待ちくたびれてしまって、そこのソファーで寝てしまったわよ?」

 

「私共の事情ですのでご了承いただければ幸いです。」

「ところでお客様。あなたはそのような態度をとれる立場ではないと思いますが。」

 

「うっ…」

 

 

たしかに、いくらアウトローとはいえ今回は融資の”お願い”をしに来たのだ。

確かに待たされた上に対応も悪いがこちらはお願いする立場。対応する職員の気分一つでせっかく受けれたかもしれない融資がなくなる、なんてのは避けたい。

 

 

「当行の助けが必要な企業をかたるのなら、辛抱強く待つのも必要かと思います。それとお連れの方ですが、こちらでお休みになられるのは困ります。セキュリティ!」

 

 

そう叫ぶと名前からして警備員だろうか?少々ガラの悪い奴らが社員たちを少しばかり乱暴に起こしてゆく。思うところはあれど今しがた釘を刺されたばかりだ。ここは堪える。

 

 

「では、ご確認ください。陸八魔アル様。ゲヘナ学園の2年生…ですね。」

「現在、便利屋68の社長、ですか。このような名前の企業は確認できませんでした。それにお客様の情報を調べると口座は凍結していて財政は破綻されている様子。」

「当行は慈善事業ではございませんよ?書類に記入いただいた従業員とやらも4名のみ…しかもほとんど役職が付いています。そのうえ事務所の賃貸料金も高すぎます。状況に合った物件をお勧めします。」

 

「結論から申し上げますと、これでは融資は難しいと言わざるえません。」

 

「え、ええー!?」

 

 

ぐぐぐ…耐えるのよ陸八魔アル。

けどどうせ融資を得られないのならここで暴れて銀行を襲ってしまったほうが早いのでは?

いいえ難しいわね。マーケットガードが多すぎて抜け出すことは至難の業ね。

はぁ。情けない。融資だなんだに頭を悩ませてブラックマーケットを敵に回す勇気もない。

キヴォトスいちのアウトローになるって決めたのに。

私はこんな今を望んだわけじゃない。私が望み夢に見たのは何物にも縛られないハードボイルドなアウトロー…

そう現実の非情さに落ち込んでいると―――突然停電した。

 

 

 

―――なんだ!?停電か!?パソコンの電源も落ちたぞ!?

 

―――早く復旧しろ!

 

―――あせるな!マニュアル通りに対応しろ!

 

 

 

突然の停電に銀行員たちは軽いパニックを起こす。早く復旧しろだの怒号が飛び交い騒ぎは大きくなるのを私はぼーっと眺める。

 

すると突然狙ってきたかのように爆音とともに入り口が吹き飛ぶ。

そして暗い中対応が遅れたのか先ほどセキュリティと呼ばれた警備員とマーケットガードたちが、侵入してきた者たちの銃弾によって倒されていく。

 

かなりの警備員が倒される中ようやく電源が復旧し、この騒動の下手人が蛍光灯の光に姿を見せる。そこにいたのは5人の強盗犯。一人だけ紙袋だけど目出し帽という古典的な装いに番号まで振ってあった。か、かっこいい…姿形ばかり気にするチンピラとは違う本物の悪党、シンプルイズベストという最高にイカした風貌。控えめに言って最高にロックだった。

 

 

 

「動かないで!武器を捨てて床に伏せて。」

 

「痛い目にあいたくなかったら、言うこと聞くことをお勧めしますよ☆」

 

「あ、あはは、ケガさせたくないので皆さん伏せてくださいね…。」

 

 

 

しかもこの対応!余計なことをしゃべらず簡潔に無力化するなんて!

そう、これよこれ!ハードボイルドなアウトローは無駄なくスピーディに仕事をしミスは絶対しない!しかも無駄な怪我をさせないように配慮までするなんて!私が目指していた理想よりもさらに高い理想を見せつけてくるなんて、正直妬けてしまうわ!

 

 

「非常事態発生!非常事態発生!直ちに応援を―――!」

 

「うへぇー、無駄だよー?警備システムの電源はすでに切ってあるからねー。」

「よし、ここまでは計画通りだねー。じゃあリーダーのファウストさん、次の指示をお願いするよー。」

 

「ええっ!?リーダーのファウスト!?そのファウストってもしかして私のことですか!?」

 

「もちろん!リーダーでありボスです!ちなみに私は覆面水着団のクリスティーナだお♧」

 

 

な、なるほど!リーダー格だったから目出し帽じゃなくて紙袋だったのね!一目で誰がリーダーかわかるのは流石だわ!それにキャラもしっかり立ってる!

 

 

「(あれぇ?あれって…)」

 

「(うん、アビドスだ。知らない顔もあるけどね)」

 

「(アルちゃんは…って駄目だね、こりゃ自分の世界に入ってる。アルちゃん、好きそうだもんねーこうゆうの。)」

 

「そこのあなた。このバックに。少し前に来た現金輸送車の―――」

 

「わ、わかりました!現金でも、金塊でも、債券でも、なんでも差し上げますので命だけは!」

 

「あー…集金記録を…。」

 

「ど、どうぞ!これでもかと詰め込めるだけ詰め込みました!」

 

「あ、うん…」

 

 

や、ヤバすぎるわ!こんな簡単に銀行強盗するなんて!ものの数分で目的のものを手に入れ、非戦闘員には怪我をさせない!素晴らしい手際、まさに銀行強盗の申し子ね!そこに痺れる憧れる!

 

 

「物は手に入ったし、撤退しよー!。」

 

「アディオース☆」

 

 

去り際もなんてクールなのかしら……!!ヤバい感動しすぎて涙出そう!!

 

 

「マーケットガードに通報!道路を封鎖しろっ!絶対に一人も逃がすな!!」

 

 

 

 

 

 

 

side先生

 

『封鎖地点を突破、ここからは安全だと思います。』

 

「やったやった!大成功!」

 

「シロコちゃん、集金記録の書類はちゃんと入ってる?」

 

「ん、バックの中に…ってすごいねこれ。」

 

 

やけにずっしりとした見た目になったシロコのバックには札束がぎっしり詰まっていた。

あの銀行員は本当に詰められるだけ詰めていたようだ。書類もしっかり入っている。相当なパニックだったのだろう、現金輸送車から降ろしたものをそのまま詰め込んだに違いない。

 

 

「ええ!?シロコ先輩本当にお金まで盗んじゃったの!?」

 

「ち、ちがう…あの銀行員が勘違いして勝手に…。」

 

「これは軽く見ただけでざっと1億くらいあるねー。」

 

「やったぁ!本当に5分でこんなに稼げるなんてラッキー!」

 

 

セリカは喜んでいるがシロコの表情は明るくない。銀行強盗をしたいシロコと、否定的だったセリカがの立場が逆転していた。

 

 

『ちょっと待ってくださいセリカちゃん、まさか本当にそのお金使うつもりですか!?』

 

「え、そりゃそうでしょ、借金返さなきゃいけないし。」

 

『そんなことしたら本当に犯罪になっちゃいますよ!?』

 

「犯罪だから何!?これは元々私たちが汗水たらして稼いだお金だよ!?あのままだったら犯罪に使われていたかもしれないお金なんだよ?悪者に使われるくらいなら、私たちが使ったほうがいいじゃない!」

 

「私はセリカちゃんの意見に賛成です。悪いことに使われちゃうくらいなら私たちが正しいことに使ったほうがいいと思います。」

 

 

 

手にした大金を使うか使わないか。せっかく手にしたチャンスに対して議論は熱くなる。

確かに使ってしまってもブラックマーケット内で起こったことだ。罪には問われないだろう。

 

では罪に問われないのなら何をしてもいいのか?その答えを出すため彼女たちは大いに悩む。

熱くなりすぎたり意見を求められた時だけ口に出そう。彼女たちは教えられるだけの存在ではない、自分で考えて行動できる子たちだ。大人として少しばかし見守ってもよいだろう。

 

 

 

「セリカちゃんの言いたいことはまぁ、わかるよー。シロコちゃんはどう思う?」

 

「ん、意見を述べるまでもない。ホシノ先輩は許可しないだろうから。」

 

「さすがシロコちゃん。おじさんのことよくわかってるねー。」

 

「今回重要な証拠を手にするために、やむなく銀行強盗を実行した。お金が目的じゃないよ。」

「もしお金が目的だったら先生は許可しなかっただろうし私も止めてたよ。」

「それに、悪人のお金だから使っていいってわけじゃないんだよ。楽にお金を稼げることを知ってしまったら人は堕落する。今回は良くてもピンチになったら次は?その次は?そのたびにまた銀行強盗するの?人は楽な道があればすぐに流されやすい生き物だから自制を持って生きなきゃダメなんだよ。」

「かわいい後輩にそうなってほしくないって、私は思うよ。」

 

 

さすがアビドスをまとめている最年長なだけはある。普段はやる気のなさそうな、だらけた昼行燈な生徒に見えるかもしれないが、こういった大事なところでしっかり決める。こういったところがリーダーとして尊敬されているのだろう。

 

 

「汚い手で手に入れたお金でアビドスが救えても、心の底から納得できないと思うな。」

「だからお金は置いていく。必要なのは当初の予定通り書類だけ。いいね?」

 

 

いまだ納得できないながらも頷くセリカ。普段バイトをして稼いでいるセリカからすれば納得はできないだろう。だが納得できなくても理解はできたようだ。彼女の成長に私は誰にも悟られないよう満足げな表情を浮かべた。

 

 

『っ!何者かがそちらに接近しています!警戒してください!』

 

「マーケットガードがここまで追ってきた!?」

 

『いえ、交戦の意思があるようには見えませんが、念のため警戒してください!」

 

「はぁ、はぁ、ま、待って!」

 

 

息を切らして現れたのは先日の襲撃犯、便利屋68だった。

敵対の様子がないため一触即発、というほどではないが様子がどこかおかしく皆困惑する。

今度は何をするのだろうか?と若干警戒の色を見せるアビドス組だったが、それとは逆に便利屋68のリーダー、陸八魔アルは目を輝かせる。

 

 

「えっと、その、た、大した用事はないんだけど…。」

「さっきの銀行への襲撃、見ていたわ!ものの数分で完了させる手際の良さ、あなたたち最高のアウトローね!正直感動したわ!」

「わ、私もあなたたちのような最高のアウトローになれるように頑張るからっ!だ、だからよければ名前を教えて!」

 

「ふふふ、そうゆうことなら!私たちの名前は、人呼んで!覆面水着団!!」

 

「やばい、最高にクールな名前ね!!」

 

「色々話してあげたいけど、私達は表に出ない組織!あまり知られる訳にいかないからこの辺で!」

 

「アディオース☆」

 

 

 

 

私達は足早にその場を去った。これで誤魔化せてるなんて先生としてあの子のことが少し心配になった…悪い人に騙されなきゃいいけど。

 

「あ…バック置いてきちゃいました…。」

 

「まぁ、いいんじゃなーい?どうせ処分する予定のものだったし、気にしなーい。」

 

「ううぅ、もったいない…みんなお人よしすぎる…。」

 

 

その後校舎に戻り回収した書類を確認していく。そしてそれによって明らかになったのは襲撃の背後にカイザーグループがいることだった。

 

 

「なんでカイザーが…。学校がなくなってしまったら借金の回収もできないはずなのに…。」

 

「現段階では何も言えないね、これ。まぁ―でも何となく敵の輪郭が見えてきただけでも収穫だったんじゃないかなー?」

 

”そうだね、ひとまず一歩前進した。今日はこれでいいんじゃないかな?”

 

 

一歩の前進。たかが一歩、されど一歩だ。この事から打開策が見つかるはず。

今日は丸一日調査で出ずっぱりだったので解散し、ヒフミも巻き込まれたようなものなのに、悪態もつかず、最後まで協力的だった。

 

 

 

彼女たちと別れ、私はシャーレへと戻る。締め切りの近い書類仕事があるからだ。

連邦生徒会も私に配慮してかいつもより少ない気がする書類の山。それでも今日一日アビドスに出ずっぱりだったため、これを終わらせるのには朝方までかかるだろう。若干気落ちしながら入れておいたコーヒーを一気に呷る。気合を入れてデスクに座るのだった。

 

 

 

予想通り、仕事は朝方までかかり少し仮眠をしようと席を立つ。

 

サエカの意識が戻ったと連絡が来たのはそのすぐ後だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。