シャーレの決戦兵器   作:わんぱくフォックスですまない

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閑話。
13話の風紀委員側の視点とその後のお話です


第13.5話 えっ、それぞれの視点?

sideイオリ

 

アコちゃんも人使いが荒い。便利屋68を捕捉したから兵を率いて捕縛して来いなんて。

治安維持の一環として便利屋を捕縛するのはわかる。だけど温泉開発部や美食研究会と比べれば比較的おとなしい奴らだったはず。勿論校則違反者であることには変わりないのだから見かけたら問答無用で捕まえるのは道理ではある。

だが便利屋相手に増強中隊なんて過剰戦力すぎると思う。

 

アコちゃんは後詰の中隊もあるというのでそれらを足したら大隊規模だ。たった4人に対して必要か?まぁ逃げ足の速い奴らだし、圧倒的な火力でさっさと捕まえてしまえるのなら、その方が都合がいいからさっさと仕事をして帰ろう。

 

 

 

『目標発見しました。現在ラーメン屋にて食事中です。』

 

 

 

前方で捜索していた観測手からの通信が入る。散々規律違反しておいてラーメン食べてるなんて、呑気な奴らだ。さっさととっちめてやる。

 

 

「迫撃砲用意!初弾は建物の中心を狙い、遮蔽物を奪って動きが止まったとこに第2射だ。第2射でダメージを与えて、怯んだところに突撃して一気にたたくぞ。」

 

『報告。屋内には便利屋4名の他に一般人1名、白い制服…角度的によくわかりませんがトリニティっぽい生徒が1名います。どうしますか?』

 

「一般人が混ざっているのか。トリニティの奴は運が悪かったと割り切ってもらって一般人は…そうだな、厄介者を捕まえるためだ。あとで謝っておけばいいだろ。作戦に変更はなし、打ち方準備!」

 

「ま、まってください、イオリ!無関係の人を2名も巻き込むんですか!?」

 

「事情を説明している間に逃げられたら元も子もないでしょ、もし抵抗するのなら公務を妨害したとして敵認定だな。」

 

 

信じられないものを見た、という表情をされるけどしょうがない。と、ちょうど準備ができたと報告を受ける。

 

 

 

「第1射、撃て!」

 

 

 

間の抜けた音ともに榴弾が飛んでいく。その際、窓近くにいたトリニティのような奴と目が合った気がした。

 

 

ドガァァァァン!!

 

 

着弾と同時、轟音とともに建物が瓦礫の山にかわる。

 

 

『初弾命中。目標物は灰燼と化しました。ですが報告があります。倒壊する直前、一般人が建物の中心で瓦礫の下敷きになるのが確認できました。第2射の前に指示を乞います。』

 

「「えっ!?」」

 

 

少しマズったかもしれない。まさか一般人が建物の中心にいるとは。迫撃砲はやめて歩兵での電撃作戦で制圧と救出を行うべきか?そう悩んでいると中心の瓦礫が盛り上がるのが見える。

 

 

『報告します。一般人は無事です。繰り返します、一般人は無事です。』

 

 

観測手の報告ではトリニティ生が庇ったようだ。それにより一般人は無事。その後走って逃げて行ったらしい。これはラッキーだ。気にせず思いっきりやれる。

 

 

 

「どうやら天は我らの味方をした、ってやつだな。恨むなら日ごろの行いを恨むんだな。作戦変更なし!第2射、撃て!」

 

 

 

2度目の砲撃。突撃の準備を始めるが爆音が耳に届くことはなかった。あれ?

撃ち落された?なんだあれ。委員長のような連射速度が速すぎてビームのように見えた?

だけどまぁいいか。どのみち規律違反者の捕縛を邪魔するのなら敵だ。もろとも蹴散らしてやる。

 

 

「邪魔立てするのなら敵だ!隊列を組んで3方向から突撃してクロスファイアだ!いくぞ!」

 

「あっ、ちょっと!待ってくださいイオリ!」

 

 

静止を振り切り歩兵小隊で突撃する。もう後には引けない。

直後、猛烈な危機感が体を襲う。勘に従って上に飛ぶと一緒に突撃した小隊員たちは一人残らず先ほどのビームで薙ぎ払われていた。

 

 

「うっそだろ!?」

 

 

あまりの光景に思わず悪態が口から飛び出る。ダメージは確実にあるはずなのに一瞬で1個小隊を薙ぎ払う。それができる人間は私の中では一人しかいない。いやな汗が噴き出る中、一人だけになった中距離から射撃をしながら指示を飛ばす。

 

 

「どうせあの攻撃は連発できやしない!構わず制圧しろ!ただし固まるな!また薙ぎ払われるぞ!」

 

 

私の声とともにパラパラと疎らに突撃射撃が始まるが、白い盾で受け止められ有効打は入った様子はない。懐に入ればこちらのものだろうが近づけない。

 

だけど、近づけさえすれば、なんて思っていたことを私はすぐに後悔することとなった。

盾を大きく構えたと思ったら、何かの機構が作動したのか高速で突っ込んできた。その際、直線状にいた風紀委員たちは、まるで交通事故にあったかのように蹴散らされてゆく。

そしてついに私のも元まで来ると、なんと銃を振り回してきた。これには流石に予想外で振り回した銃身の回避が遅れてしまうが、なんとか避けることに成功した。

だが、間髪入れずにシールドバッシュが飛んできて私は部隊後方まで飛ばされたのだった。

 

 

 

 

「いったぁ…あのチビ、なんていうパワー持ってるんだ。いや、まぁ……小さくても侮れないのは良く知ってるけどさぁ!」

 

『苦戦しているようですね、イオリ。』

 

 

私がいなくても攻撃を続けている風紀委員をしり目に通信が入る。

 

 

『たった4人相手に随分と時間がたっているようですけど、何をやっているんですか?まぁ時間をかけてくれた方がこっちとしては都合いいんですけどね。」

 

「何が都合がいいのか知らないけど、なんかすごいの混じってるよ、アコちゃん。率直な感想なんだけど対峙した瞬間、委員長と模擬戦してる気分になったんだけど?あんなのいるなんて聞いてない。」

 

『ヒナ委員長のような?何を馬鹿なことを言っているんです?そんなわけないでしょう。そうですね、あと10分ほど稼いでください。そうすればこちらの目的は達成できるでしょう。頼みましたよ。』

 

 

あと10分?後詰の後方部隊が到着する時間だろうか?なんでもいい、喧嘩を売られて買わないのは風紀委員としてあり得ない。どんなに強かろうがこの人数差だ。まさか本当に委員長並の強さなわけないし相手は消耗もしてる。

10分といわず5分で制圧してやる!

 

走って戻ると既に150人は倒されていた。圧倒的な火力で寄せ付けず一方的な蹂躙。視界の端に野次馬しに来たのか生徒がちらほらと見える。だが邪魔しないのであれば今はいい。

 

 

 

「待ってください、イオリ!あそこで暴れている、私たちが今制圧しようとしているのは、トリニティの生徒なんかじゃありません!」

 

「なんだって?じゃあ、あれはどこの生徒なんだ?」

 

「連邦生徒会直下、連邦捜査部シャーレ!その補佐官である百合園サエカさんです!」

 

「連邦生徒会!?なんだってこんな所に!?でもシャーレなんて聞いたことがない。どのみち邪魔するのなら許さないからな。」

 

 

そうしていると散々ぶっ放してきた銃が光を失う。しめた、弾切れだ。

 

 

「年貢の納め時だな!総員、いくぞ!」

 

 

散々好き勝手しやがって、シャーレなんだか、シャレ―だかは知らないが負けたままではいられない。

あともう少しで手が届く、そんな距離まで近づくと弾切れのはずの銃口を向けてきた。

ハッ、こんな局面でハッタリなんてな。拍子抜けだ。そこで強い衝撃を腹部に感じ視界が真っ暗になったのだった。

 

 

 

 

 

 

sideヒナ

 

用事を終わらせ早めに帰る事が出来そうだが、空いた時間で休憩が出来たためしがないから溜息が出る。

すると予想通りというべきか、チナツから緊急事態を知らせる電話が何件も来ていた。

はぁ。また溜息が出る。場所は…アビドス自治区周辺。幸か不幸か私の現在地から近いため急行する。

 

 

 

「何をやっているのかしら…自治区外で活動するなんて報告は受けていないのだけど。」

 

 

どうせまたアコがやらかしたのだろうと、大当たりを引きながら現場に到着する。

そこには荒れ狂う白を基調とした生徒に対し、わらわらと寄って集っては蹴散らされていく風紀委員たち。遠目にも怪我をしているのは分かるのに蹴散らす勢いは衰えない。

 

本当に何をしているのかしら。イオリの姿は見えない。イオリといえどあの生徒の相手はきつかったのだろうか?事情は分からないが敵対するとなると、相当に骨を折りそうだった。

 

何やら叫ぶチナツが部隊の端にいるのを発見し、それは相手の生徒も同じだったようでチナツに突撃して直前で止まる。顔見知りなのか一言二言会話していると、恐らく事情を知っているであろうアコが通信ホログラムで現れるのが見える。

 

 

そして相手を怒らせるまでが早かった。アコは人を煽る天才なのだろうか?

通信越しなのをいいことに、余裕の態度みせるアコだったがここで事態が急変する。

なんとアコの左足が突然折れ、痛みに蹲ったのだ。

 

なんだいまのは?アコは勿論ここにはいない。おそらくゲヘナの風紀委員の執務室だろう。

執務室に襲撃?一瞬考えたがまずありえない。自分で言うのもあれだが、私がどこにいるかわからない状況で、本拠地を襲撃する阿呆は狸どもしかいない。その狸どもだって直接武力に訴えることは絶対にしない。

だが通信越しに痛がり、恐怖に顔を歪ませるアコがいるのは事実。ただでさえ蹴散らされて減った風紀委員が多い中、書類仕事ができる人間まで減らされるのはつらい。

はぁ。本日何度目か分からない溜息が出る。

おそらく自業自得なのだろうが、正体不明の力の前に怯えるアコを助けるべく会話に無理やり入る。

 

 

 

 

「アコ、何をやっているの?」

 

 

その場にいた人は誰も私に気が付いていなかったのか、皆驚きの声を上げる。

それは暴れていた生徒も例外ではなくこちらを見る。額から血を流しているその生徒は白髪に獣耳、トレードマークともいえるアイマスクをしていた。

ああ、たしか、この生徒は。最近報告書で見たはず。疲労のせいであまり回らない記憶領域を引っぺがす。

そうだ、この子はシャーレの。いつだったかチナツが連邦生徒会に代理で抗議に行った時の報告書に、書かれていた。

ここまでの状況を整理してアコの思惑を看破する。

 

 

 

「いや、もういい。大体理解した。アコは通信を切って救急医学部に行きなさい。その後の処分はおって通達するわ。」

 

 

 

アコが何か言い訳したいのか、事情を説明したいのか知らないが喚きたてる。だが恐らくこの生徒の前ではまずい。

 

彼女の身の安全のために今は無理やり引かせた。

 

すると案の定というか、当然の結末というべきか。シャーレの子、百合園サエカの矛先は私へと向く。ここで戦闘になって事を大きくしすぎると学校間の問題や連邦生徒会が出張ってくる可能性、それによって万魔殿の狸に何言われるかわかったものではない。

となると、ここでの最適解はおそらく。

 

 

 

「ごめんなさい。」

 

 

 

謝罪だった。おそらくこちら側が加害者側だろうし事実、彼女は少なくない怪我を負っている。

これ以上の被害拡大を避けるためにもまずは彼女に矛を収めてもらう必要がある。

何故かチナツも固まっているけど関係ない。話が通じる生徒だと一旦信じて謝罪を続ける。

 

 

「風紀委員会の長として、正式に謝罪します。」

 

 

最後にそう締めくくって深々と頭を下げた。私の頭を下げることに価値なんて彼女は感じないかもしれないが、現状すぐに示せるこちらの誠意なのだ。できれば汲んでほしい。

結果から言えば、こちらからの謝罪に加え、今回の件に対する賠償やアコの何らかの処罰で手打ちにしてもらうことに成功した。

 

怒り狂っていてもどこかまだ冷静な部分があるようで、こちらの言いたいことを読み取り、不本意ながらも引いてくれたため、一旦彼女との話に決着がつく。

結局アコが犠牲になり、書類仕事は私がやる羽目になりそうだと盛大に溜息をついてから、風紀委員に撤退の指示を出す。

 

ついでにいい機会なので、さっきから物陰で様子を窺っていたアビドス組と、シャーレの先生、便利屋68のいる場所へ向かう。

 

 

 

「こんにちは、シャーレの先生にアビドス高校の方々。」

 

”こんにちは。”

 

「謝罪の前に事の経緯をざっくりとだけど説明しても?」

 

”お願いしようかな。”

 

「まずこれは表向き、ゲヘナ学園での規律違反者である、便利屋68を捕えるために起こした行動。」

「その際、無関係の一般人や生徒のいる建物を倒壊させた。その結果、恐らく建物内にいたであろう、シャーレの補佐官、百合園サエカが負傷、および戦闘の勃発。建物の倒壊とその後の戦闘はこちらとしても誤算だった。」

 

「そうよ!なんで柴関ラーメンが!!弁償しなさいよ!!」

 

「それは勿論させてもらう。そして本当の目的はシャーレの先生。あなたにあった。」

 

”私に?”

 

「本来、便利屋の4人を捕縛するだけならここまでの戦力は不要。にも拘らずこれだけの大部隊を私に報告を入れず、運用したということは便利屋を餌にアビドスと、そこにいるであろう先生をおびき出し戦闘するためのもの。その後、先生を”保護”しゲヘナで匿う。そういった政治的な意味合いがあった。」

「事の発端はおそらくトリニティが掴んだ情報。そこに持ち込まれた情報を危惧したうちの行政官が、不確定要素の排除として先生の確保に動いた。これが今回の騒動の経緯。」

「帰ってからうちの行政官をこってり絞って情報の精査を行うので、今はまだ確定したことは言えないけれど大体あっている筈。」

「ついては、被害にあった柴関ラーメンとシャーレ、アビドスとの賠償と謝罪を行いたいのだけどアビドスの代表者は誰かしら。」

 

「ホシノ先輩…だけど今はどこにいるか…。」

 

「…ホシノ?それはもしかして小鳥遊ホシノ?」

 

「そうですけど知っているんですか?」

 

 

 

彼女がいる?あの事件以降、活動があったという報告は聞いていないから、てっきり学校を去ったと思っていた。だがまだ在籍しているとなると最悪、虎の尾をもう一つ踏み抜いてしまう可能性もあった。

そこまで来るとさすがに冷や汗が出る。動揺を悟られないように会話を続けようとした時に噂の人物がタイミングよく現れた。

 

 

 

「うへぇー、何この惨状いったい何があったのー?いや、ほんと何があったの??」

 

「ホシノ先輩!?」

 

「どこにいってたのよ!こっちは大変だったってのに!」

 

「ごめんよー、お昼寝が気持ちよくてつい寝過ごしちゃった。」

「ゲヘナの風紀委員…便利屋を追ってここまで来たの?」

 

 

 

驚いた。私の知っている小鳥遊ホシノから随分と変わっていて、別人かと思ってしまった。

だが特徴的な桃色の髪、私と同じ小さな体躯、そして何よりほんわかした雰囲気の合間に見せる鋭い眼光。間違いない、本人だ。

 

 

「小鳥遊ホシノ…。」

 

「ん?私のことを知っているのー?いやだなー、おじさん有名人だねー。」

 

「1年の時と随分変わった。人違いかと思ったほど。あの時にアビドスを去ったと思っていたけどそうじゃないのね。」

 

「……。」

 

「そうか、だからシャーレが…。」

 

 

 

小鳥遊ホシノの周りに剣呑な雰囲気が現れる。どうやら触れられたくない部分だったようだ。

それもそうだ。あれだけの事があったのだ。時間が傷を癒すとはいえ、無駄にほじくり返して不興を買う必要はない。

 

 

「ごめんなさい、ここには戦いに来たのではなく風紀委員の起こした行動に対して、謝罪と賠償をするために私はきた。」

「まず柴関ラーメンには店主に直接、謝罪と賠償を。次にシャーレに対しては補佐官に対する治療費と謝罪。そして賠償も。先生にはこの件を私たち風紀委員に対する借りとして。最後にアビドス自治区に対して。戦闘によって破壊された建物の補修費用とその工事。今後2度と無許可でアビドス地区に対する兵力運用を行わないことを、約束させていただきます。」

 

「以上をもってゲヘナ学園風紀委員の長、風紀委員長空崎ヒナとして正式に謝罪させていただきます。」

 

 

そう言って私は深々と頭を下げる。

 

 

「んー、まぁアビドス側としてはそれでいいよー。大将とサエカちゃんがなんて言うかだけど。」

 

”私はそれでいいと思う。サエカとも話はついているだろうし、大将もきっと悪いようにはならないはず。”

 

「ありがとう。」

 

「私達には…?」

 

 

そこで今まで黙って話を聞いていた便利屋がおずおずと声を上げる。これ以上仕事を増やさないでほしい。

 

 

「あなたたちには何もないわ。だしにされたのは同情するけど、本来なら捕まえて帰るところを今回は見逃す。それ以上に何かを望むのなら私達と一緒に、仲良くゲヘナに帰ることになるけど…どうする?」

 

「謹んでお断りします…。」

 

 

帰り際、先生にだけ聞こえるように土地の事とカイザーの事を今回あった騒動の個人的な補償として話す。

この情報をどう使うかは先生次第だ。今回の事でシャーレには大きな借りを作ってしまったからそう遠くないうちに返すことになるだろう。はぁ。何もかもが面倒くさい。

いっそストレス発散に便利屋に当たり散らそうかしら。少し魔がさしたけど見逃すといった手前何もできず、溜息を吐きながらアコの処分に頭を悩ませ帰路に就くのだった。

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